259 / 341
257話 終業式の日 5
しおりを挟む「もちろん旅館坂北屋、あなたのご実家に決まっています。」
っ...!
淡々と告げられた言葉は受け入れ難く、一瞬脳がフリーズした。しかしすぐに、はっと我に返った俺は首をフルフルと左右に振って、拒否の意を訴える。
「い、嫌です...そんないきなり...。な、なんで、ですか? 」
「お盆休みにご実家に帰られるのは当然のことではありませんか? 」
「...お盆休みって...」
桂本さんが来たってことは、父さんの指示だろう。でも入学前、あんなに大喧嘩しておいて、しかもしばらくは顔も見たくないと言っていた癖に、夏休みを理由に家に呼び戻すなんて、一体どういう了見だ。
怪訝な目を桂本さんに向けるけど、相変わらず感情が読めない表情をしていて、何を考えているのかさっぱり分からない。
俺は、唇をグッと噛みしめながら、桂本さんを睨み付けた。そんな俺を、無言で悠然と見下ろす桂本さん。そのまま数秒続いた沈黙を破ったのは、田中先生の呑気な声だった。
「いやぁ、なんとなく坂北くんの家柄のことは聞いてましたが、秘書さんがわざわざ学校にお迎えにきて下さるなんて、すごいですねぇ。いい夏休みを過ごして下さい、坂北くん。」
先生...。そんなこと言ってる場合じゃないんですよ...。
事情を知らない人からしたら、俺が駄々をこねているだけのようにしか見えないだろうけど。
「嫌...です...。俺...帰りません。夏休みは、やりたいことが沢山あるんです。」
プール。夏祭り。他にも色々。普通なら、休みだからといってそんなに遊んでばかりじゃダメだと、咎められるのかもしれないけれど、俺にとっては、大切なことで。今までできなかったことを、友達や南原さんと一緒にしたいのだ。
素直に実家に行ったとして、すぐにここへ帰してくれるとは限らない。もしかしたら、夏休み中勉強漬けにさせるつもりなのかも。とにかく、絶対にあそこへは帰りたくなかった。
「はぁ。全くあなたはいつもいつも...。坂北家の次期当主が、こんなことでは困ります。」
「っ...」
そんなの、俺が望んだことじゃない。それに俺は、もう坂北家の当主になるつもりはないから。
...戻ろう。南原さんのところへ。
この人は、説得したとして、聞いてくれる相手じゃない。
俺は、桂本さんに背を向けると、震える足をなんとか動かし、走り出そうと一歩を踏み出した。
2
お気に入りに追加
1,057
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる