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172話 嫉妬
しおりを挟む「とりあえず、坂北が元気になって良かったわ。ついこの前まで、なんか壊れそうなほど思い詰めてたから。」
高橋は、ニカッと裏のない笑顔で言って、唐揚げを頬張る。
そうだ。高橋は、面白半分であわよくば南原さんの弱点をゲットしようと企んでいた二人とは違い、本気で俺を思って動いてくれてたんだ。
事情を知るのがこの性格の悪い先輩二人しかいなかったから相談する相手が悪かっただけで。
高橋には、助けられてばっかりだ。
「ありがとな、高橋。」
「っ...へへ...別に。」
笑い掛けると、照れたようにそっぽをむく高橋に、心がぽかぽかと暖かくなった。
「あ、そうだ坂北、今度...」
高橋が、ふと思い出したように何かを言いかけたその時。
ばん!と勢いよく屋上のドアが開いて、俺たちは一斉にそちらを見る。
そこに立っていた人物を確認すると、まず高橋が「ひっ」とひきつった表情で呻いた。
その視線の先には、黒いオーラを撒き散らしながら恐ろしいほど綺麗に笑んだ南原さんがいて。
その強烈な威圧感に、東山さんや西村さんも固まっている。
ひしひしと伝わる恋人の苛立ちを感じた俺は、思わずぶるりと身震いした。
「あ、あの、なんで、南原さんが? 」
とりあえず、恋人の俺が恐る恐る声をかける。
「お前を探して来たに決まっているだろう。」
南原さんが、不穏な笑顔を顔に張り付けたまま、スタスタとこちらへ歩いてくる。
こ、怖いよ...。
近づくたびに緊張が高まる。
「なんで、だって、メール...」
俺はさっき、「すみません。今日は一緒にご飯食べられなくなりました。」と、ちゃんと連絡したはずだ。怒られることなんてなにも...。
「ああ。だから俺は急いで昼食を終え、お前が何をしているのか、お前が俺より何を優先したのかを確かめようと、お前を探していたんだ。」
「ゆ、優先...?」
「俺の誘いを断っておいて、まさかこいつらと一緒にいるとは。いったいどういうことだ?」
あ、怒ってらっしゃるポイントはそこですか。
嫉妬?
独占欲?
怒ってるのは怖いけど、ちょっと嬉しいかも。
「だ、だって...俺も行きたかったですけど、みんなが無理矢理...」
とりあえず、南原さんの怒りを鎮めようと言い訳してみる。
確かに俺も、最終的には「この三人には報告しておいた方がいいかな」とか思って着いてきちゃったのは事実だけど、南原さんより優先したとか、そんなつもりじゃなかった。
「言い訳無用。来い。お前ももう食べ終わったんだろう? 今からお仕置きだよ。」
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