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119話 自覚
しおりを挟む沸き上がる思いを振り切るように、俺は、即座に生徒会室前から走り去った。
違う、違う、だめだ、こんなの。
あの人は、最低なやつなのに...。
『怖がるな。手、ほどいてやるから。』
『ま、今日のところはお粥を作ったらすぐに帰ってあげるから、心配しないで寝てて。』
『仕方ないな...落ち着け。大丈夫だから。』
考えちゃ、だめだ。
これ以上は...。
『俺に身を委ねて。今回は、優しくする。』
『まずは夕飯にしようか。おいで。』
『いつもならどんなに泣かれたって絆されたりなんかしないんだがな...。』
廊下を全力でかけていく。息が上がる。心臓が脈打つ。
『おやすみ。』
っ......!
最低な言動ばかりを思い出していたはずが、いつの間にか、優しい声ばかりがぐるぐると頭のなかで渦巻いている。
こんな、はずじゃ、なかったのに...。
視界が滲んで、涙がポロリと頬を伝った。
南原さんには、酷いことを沢山された。
最初は怖くて苦しくて、できることなら顔を見ずに過ごしていたいと思っていた。校則を人質にとられていなければ、すぐにでも契約を破棄して絶対服従から逃れたいと思っていた。
それが今は...なんで...なんで?
優しく俺の名前を呼ぶ低くて艶のある声が、温かく抱き締めてくれたその腕が、もう俺に向かないのだと思うと、胸が張り裂けそうに痛む。
一体いつからこんな......。
ひな鳥を巣に戻そうとした時、捨て身で助けてくれたから?
いや、違う。
きっと、気づいてなかっただけで、もっと前からそうだった。
南原さんに冷たくされると悲しくて涙が止まらなかったり、玩具だと言われると苦しくて、逃げたくなったり、そのくせ少し優しくされるとすぐ安心して身を任せてみたり。
南原さんは俺を支配して自由を奪っている人なのだから、冷たくされたり、玩具扱いは当然のことのはずだし、気まぐれに優しくされただけで、安心するなんておかしい。
もしかしたら、南原さんに関わってすぐ間もない頃から、俺はずっと...。
認めたくない。
でも、この感情はたぶん...
俺は、南原さんが好きだ。
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