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66話 お泊まり 3
しおりを挟む「み、南原さん...。一応、出来ましたけど...。」
俺は、作った二人分の料理をテーブルに並べて、ソファーで本を読む南原さんに声を掛けた。
料理は茶碗蒸し、きんぴらごぼう、味噌汁、白米、鳥のてりやきなどの、和食を中心としたメニュー。
ちゃんと作れたとは思うけど...。
さっそくテーブルの方に来た南原さんの反応が怖い。
が、その心配は杞憂に終わった。
「これは...想像以上だな。美味そうだ。」
少し驚いた表情を見せたあと、柔らかく微笑んで呟く南原さんに、ほっと力が抜ける。
「食べるか。」
「は、はいっ...!」
俺は、南原さんと向かい合った位置に座った。
そして、ご飯を食べ始めた南原さんの様子をそっと窺う。
「ククッ。見すぎだ。」
「っ!!だ、だって...」
不味かったらただじゃ済まさないって、言ってたからこっちは不安でしょうがないのに。見ていたことを指摘されて、慌てて目をそらす。
「心配しなくても、美味しいよ。坂北くん、料理上手いんだな。」
「あ...えと...料理は散々家でやらされたので...。」
そんなにあっさり美味しいと言ってくれるとは思わなかったので、ドギマギしつつも安心した。南原さんのことだから、難癖をつけてきたり、美味しくても不味いと言ってきたりして、理不尽な体罰をしてくるかもとも考えていた。
良かったー...。
「そういえば、坂北くんは家を継がされるとか言っていたが、家業はなんだ?どんなことをしている?料理を散々やらされるって一体...」
そっか、前はざっと話しただけで、詳しい話しはしてないんだっけ。
「うちは、代々続く高級旅館なんです。父の跡を継いで支配人になる予定なんですが、全く知らないよりはいいだろうと料理だけじゃなく、色んな習い事をさせられました。」
「なるほどね。だから今だけでも自由な時間が欲しいと。」
「っ...はい。」
食欲はあまり無かったが、俺も料理を食べ始める。食べなきゃきっと、体がもたない。
「そんなの、本当の自由とは言えないんじゃないか?」
「...はい?」
俺に無理矢理取り引きさせて、自由を制限している張本人が何をいってるんだ。
それに。
「そんなこと分かってますよ。それでも俺は、平凡な日常の中に居たいんです。み、南原さんだって、そんなにエッチしたいなら、彼氏でも彼女でも作ればいいじゃないですか!」
南原さんの勝手な言い分に苛ついた俺は、つい喧嘩腰で歯向かってしまう。我にかえって青ざめた。この人に歯向かったら、必ず酷い目に遭う。そう分かっていたのに、負けず嫌いが災いして、口答えしてしまった。
ここは早急に白旗をあげて謝るしかない...!
「あ、あの...おれ、つい...ごめんなさ...」
「...坂北くん。俺は、彼女も彼氏も作れない、いや、作ってはいけないんだよ。」
「っえ...?」
どういうこと...?
俺は、今すぐにでも襲われるのではないかと身構えていたので、南原さんらしくないしんみりした声に驚きぱっと顔を上げる。
しかし。
「そうだ、坂北くん。食べ終わったら、一緒にお風呂入ろうか。」
正面にはいつもの意地悪な南原さんの顔があって、俺はそれ以上何もきけなかった。
なんだろう。なんかモヤモヤする。
とりあえず俺は、一緒に入浴が嫌だったので、無意味なことだと理解しつつもできるだけゆっくり夕食を食べて、無駄に時間を稼いだのだった。
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