上 下
1 / 14

「2023/2/15[破滅の日]」

しおりを挟む



 ゴゥウ、アァ……!!

 炎に、悪意に包まれた、災厄の街。

「……ハァ!!」

 その煉獄の街の中、どこにでもある「普通の制服」にその身を包ませた、彼女の剣は。

 ザォン!!

 たやすく、腐りきった肉体を持つ、その異形を切り裂く。

――ピォ、コゥン、ピォ……――

 焼ける空気の中で、壊れた道路標識が、赤い「止まれ」を点灯させたまま、ひたすら警告を促すなかで、彼女はその刀を。

「……これで!!」

 焔に包まれた、刀を再度また。

 カァ!!

「五匹め!!」

 不定形の醜い、ヘドロの悪臭を溶けかかった躯から漂わせている「小人」に振るい、その炎刀の深紅をもってして、完全に溶解させる。

「この程度なら、何とか!!」

 焔の刀「カグツチ」による剣圧、いくらレプリカの霊刀とはいえ、低級の使役怪異程度なら、即座に切り裂く事が出き、そして。

 ジャアァ……!!

 その腐敗した亡骸は、とどめとして、彼女の刀身から立ち昇る紅い焔によって、この世から浄化される。

「……あと、三匹だけど、だけど!!」

 だが、彼女の剣士としての実力は、決して高いとは言えない。

「……やはり!!」

 このような、低級怪異であれば、剣の力に頼って何とかは、なる。

 ……ヌゥ

「……いたわ、ね」

 だが。

「……やはり、統率する怪異がいた」

 そう、この目前に、ゆらりとそびえ立った巨体躯。

――グゥウ……!!――

 鬼、低くうなり声を上げる、漆黒の肌をし、そして上位の怪異である証し。

 キィ、ン……

 鬼の「角」を、昏い紫色をした瘴気に包ませている、この巨漢に対しては、刃を交えるまでもなく、身体的な力が及ばない事が想像でき、そして。

「……カグツチ!!」

 未熟、年齢的には、単なる女子高校生である彼女は。

「……ハァ!!」

 ガァウ、ン!!

 それに見合った体力しかない彼女、所詮はその乙女の腕力では、この鬼の。

 キィ、ン!!

「……クゥ!!」

 金棒、彼女のカグツチ・コピーと同じく、現代冶金術の髄を凝らして作られた、タングステン・霊鍛カーボンの「鬼の金棒」が一振りに、交えた炎刀。

 ガァ、ン……!!

 刀が、彼女の細い身体もろとも、刀身の炎もろとも、強く跳ね飛ばされる。

「……やはり」

 そして煤けた、焼けた埃や石くれにまみれたアスファルトの道に、強く尻餅を付いた彼女は。

 ――……ハァ!!――

 即座に身を起こし、一つ息を吐いた後。

「……ここは、後退するべき!?」

 その艶やかな、長き。

 サァ、ア……!!

 長き黒髪を、刀からの焔によって輝かせつつ、彼女は。

 カッ……

 ローファーの足を鳴らし、軽く歯をくいしばりつつ、この「鬼」との間合いを、僅かに。

――……神楽――
――……!?――

 心持ちに拡げた、その時。

――神楽、聴こえるか?――
――……ハッ――

 通信、ジャミングによって不明瞭ではあるが、霊波通信による「上官」からの声を。

――撤退だ――

 己の、その耳に入れる。

――撤退しろ、主力はすでに、この街を見捨てた――
――……はい――

 悔しくはない。この命令を受けるまでもなく、どのみち、彼女の力ではこの鬼、上位の怪異には勝てない。

「……焔よ」

 そして彼女は、目前の強い妖気を漂わせ、汚物の腐敗臭をプンとその、黒い筋肉質の肉体から発散させている。

 サァ……

 この上位怪異、オニから逃れる為に。

「……翼よ!!」

 アァ、ア!!

 赤い翼を、火の羽根をその背から拡げて。

――グゥウア!!――

 タングステン金棒を振って威嚇する「鬼」を無視し、そのまま勢い良く。

 バゥウ、ン!!

 空中に、夜の空へと、火の粉を舞わせつつ、退散する。

「……」

 かなりの速度で、冷たい夜空を低空飛翔する、彼女の目下。

 ズゥ……

 そこには、異界の門が開かれた事による魔物、怪異のそれによって、破壊の限りを尽くされた。

 ガァア、バァウ……!!

 地獄と化した、灼熱の火焔に覆われた、平和な日常。

「……あの、ハンバーガーショップのクーポンも」

 街が、ビルが、住宅街が、大量の煤と黒い煙、悲鳴を上げつつ、燃えている。

「……もう、使えないね」

 その、火焔地獄とは対照的な、美しい。

 サァウ……

 澄んだ光を放つ満月、その澄んだ空気の夜空に浮かぶ、澄んだ瞳を持つ少女。

「……せっかく、ここに」

 地獄の釜の上で、舞う。

 ザァウ、ア……

 焔の翼を羽ばたかせ、力強く翔ぶ。

「この街に、転校してきたばかりなのに」

 その手に刀を携えた、炎の化身たる。

「……ね」

 少女。



////////////////



「何か」

 雲一つ無い、青空が覆う、良く晴れた昼下がり。

 ピチィ、チィ……

 小鳥のさえずりが聴こえる、学校屋上。

「面白い事」

 その屋上のフェンスにもたれつつ、ぼやく。

「ないかなぁ……?」

 一人の、その少年の。

「……あーあ」

 思春期ならではの、願望は。

「つまらない、なぁ……」

 その日の。

「……あーあ、異世界とかに」

 夜に。

「転生、出来ないかなぁ?」



////////////////



 ゴゥウ、アァ……!!

「……母さん!!」

 闇夜の中、燃え盛る焔の中で。

「沙耶、コタローォ!!」

 叶えられた。

――あれ、は……?――

 火の粉、見通せない煙、焼き付く熱気、この世の終焉。

――火を纏った、女の子?――

 その灼熱地獄、崩壊した世界の中心で。

――……もしかして――

 彼は、火の羽根を、その背中から。

 サァ、ン……

 暗い空から注がれる満月の光、その中で撒き散らされる焔の欠片、彼の通う学校の女子制服を纏った。

――あの、子が……――

 黒髪の、刀を携えた、紅い羽根によって飛翔する、少女。

――あれが!!――

 灼熱の地の底に這いつくばる、彼に見向きもしないその火の人、煤けた気配を空に浮かばせる、一人の。

――彼女が、僕の!!――

 乙女。

――家族、をォ!!――

 焔の、悪魔。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

処理中です...