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第一章
第五十四話 新居の準備
しおりを挟む「千鶴はどの部屋にする?」
「えっとね、わたしはここ。眺めがいいのが最高ね」
確かに那覇新港が遠くに見える。眺望は最高とも言えるだろう。
十二畳はある和室。畳を入れ替えれば、ベッドも置けるという床になっている。
「じゃ、僕はこっちだね。ここに水槽を置いて、こっちに机を置いて」
こちらも大きさは同じ。洋間でフローリング。目の前に日登美の店があるタワーマンションがあるから眺望は良くはない。だが、西日が当たらないのは水槽を置くにはいいのかもしれない。そもそも、西日が阿形と吽形にどんな影響があるかはわからないのである。
「この部屋は私が帰れないときに寝泊まりするのにいいわね。じゃ、買い物に行くわよ。明日までに搬入してもらわないと、しばらくホテル暮らしになるから気をつけなさいね?」
「はいっ」
「わかったわ」
←↙↓↘→
あれこれ買って、明日搬入を待つだけとなった。明日、美容室碧那覇店のスタッフ全員で、引っ越しを手伝ってくれることになっている。
一応、水槽だけは買ってあり、偽装のためセッティングは終わっている。阿形と吽形は水の中が落ち着くというだけで、必ず必要というわけではないらしい。
今夜はホテルに泊まることになった。道を挟んで向かいにある、比較的新しいところ。シングルを三つとって、チェックインを済ませたところである。
「私はビール飲んで寝るわ。それじゃ、お休み」
サンエーメインプレイスの食品売り場で買った、揚げ物から乾き物までビールも入れたマイバッグを提げて、ほくほく顔の日登美。
大食漢の千鶴がいるから、阿形と吽形の食事分を誤魔化すのが簡単だった。メインプレイスであれこれ買ってきた二人。晩ごはんは千鶴の部屋で食べることになった。
阿形にはボイル蒸し海老。吽形にはエビチリとエビマヨ。阿形も先日、エビチリに挑戦してみたのだが、惨敗してしまう。なんと、味の濃すぎるものは苦手ということが判明した。
『海老は軽く塩を振ったものが一番だと思うんだがな……』
そう言いながら、黙々と食べる阿形。その反面、エビチリをひとつ食べてはため息をつくような堪能の仕方をする吽形。
『この味がわからないだなんて、人生千年を損したことに気づいていないのよきっと』
とんかつ弁当をペロリと平らげ、幕の内弁当を開け始めた千鶴。アジフライ弁当を食べながら、それを見ていて胸焼け感を感じる一八。
「吽形さん、一枚食べる?」
『いいのですか?』
もらったアジフライをペロリと食べる吽形。
『揚げ物も美味しいですよね。あのときいただいた、ミジュンの仲間だとは思えないほど脂がのっていて……』
海老をひたすらもくもくと食べる阿形に対して、焼き物揚げ物、肉や野菜まで食べる吽形。先日公設市場から買ってきた海老などは、味付けが苦手と判明した阿形に分けてあげた吽形。阿形が泣きながら食べたことで、なんとなく吽形のお尻に敷かれていることも判明したのだった。
食事のあと、千鶴と一八はホテルのテレビにありがちな、洋画のチャンネルを見ていた。もちろん見ていたのは、ハリウッド映画のスーパーヒーロー。そんな中、腕が四本あるヒーローが懸垂をしながら窓を登っていくというコメディものがあって、シュールさに思わず笑ってしまった二人だった。
「でもこれ、考え方によっては便利よね」
「うん。建物も登れるし、左手を盾に右手を剣や槍代わりにできるもんね」
『出来ると思いますよ。一八さん』
「え?」
『あぁ、出来るな。この程度のことなら』
「え? え?」
『一八さん。ちょっと立ってみてもらえますか?』
「ここに?」
『えぇ。そこでいいですよ』
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