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第一章

第五十一話 口止めの理由

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 お墓へのお参りが終わると同時に、吽形が戻ってくる。入れ替えに、今度は阿形が多幸島へ向かっていった。

 一八も千鶴も多幸島記念館の写真で見たことがある阿形と吽形の像。あの二つの像は、物語でいうところの魔道具、実際はこの地球上にはあり得ないオーバーテクノロジーでできているいわゆるオーパーツなのである。

 阿形と吽形がお互いの像へ魔力を込めることで、邪なものを退ける効果のある魔法と同等の力を発揮してくれるのだ。例えば近隣海域の魚を無駄に食い荒らすサメなど。普通の食物連鎖であればひっかかることはない。ただそれが行き過ぎた状態と判断された場合は、お仕置きのような効果が出るらしい。

 ややあって阿形が戻ってきた。

 阿形は一八の右肩へ、吽形は左肩へ留まった。千鶴は一八と手をつないでいる。これで四人は話しをすることが可能となった。

『これで暫くは、ここへ来る必要もないだろう。一八君のおかげもあって、オレたちの魔力エネルギーは全盛期と変わらぬほどに満たされている。だから像への補充も上限まで可能になった。ありがとう。一八君』
『そうですね。一八さん、ありがとうございます』
(ありがとうもなにも、僕たちの八重寺島を守ってくれてるんだから。必要ならいくらでも魔力エネルギーを持っていっていいんだからね?)
(なんだかやーくんの今のニュアンス、ツンデレっぽくて可愛いね)
(お姉ちゃん、何言ってんのさ?)
『あははは。仲が良くていいことだな』
『そうですね』

 昨夜、日登美たちから聞いた話に、一八と千鶴は気になるところがあった。だから、何か理由を知っているであろう祖母の静江に話しを聞こう。その代わり、進学の件で相談していたことしてもらう。そういう建前にして話しをしたい。一八と千鶴は昨夜の内に打ち合わせをしていたのだった。

 静江の許可が出て、彼女の私室で話しを聞いてもらえることになった。もちろん、祖父の喜八が人払いをしてくれるとのことだ。

 静江の私室の前には、喜八が椅子に座って番のようなことをしている。なるほど、こうしてここにいるだけで、誰も近寄れない。それは千鶴たちにもわかっただろう。

 二人は喜八にお辞儀をする。彼は笑顔で応えてくれる。

「お婆さま、千鶴と一八です」
『入っておいで』

 部屋の中は奥に机があり、壁を背にして静江が座っている。その前に椅子が二つ用意されていた。

「お座りなさいな」
「はい。旧盆で忙しい中ありがとうございます」
「ありがとうございます」

 静江は困ったような、眉を八の字のようにしながら、ひとつため息をついた。

「普段通りでいいよ。私も自室で肩が凝るのは嫌だからね」
「はい」
「うん」
「それで、話しというのは何かな?」

 千鶴が右手を上げる。

「二つお話がございます」
「いいよ」
「はい。一つ目はわたしの亡くなった母と父の話です――」

 昨日、ちょっとした一八の質問から何が起きたのかを詳しく説明した。その後、そこに抱いた違和感を二人で話し合った。どうしても聞いておきたい。だからここへ来たと伝える。

「もしかしたら母は、わたしと同じ事故だったのでは?」
「あぁ、気づいてしまったんだね」
「はい。ネットニュースにも事故が起きたということすら出ていませんでした。おそらくは、お婆さまが口止めをしたのではないか。それが一八とわたしの見解なんです」

 静江は頭を抱えた。まさか二人が自力で、ここまでたどり着くとは思っていなかっただろう。

「その通りだよ。あのときも、本来採用されるはずだった別のプロダクションのモデルがいてね、そのマネージャーだった男。今はヒビキ・エージェンシーという会社の社長になっている。あの男が犯人だとわかっていながら、何もできなかったんだよ」

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