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第一章
第五十話 お墓参り
しおりを挟む沖縄は基本、内地――本土のことをこちらでは内地と呼ぶ――旧暦の七月十三日から十五日に行う。そのため、毎年日時がずれてしまう。ちなみに今年は、内地のお盆とあまり変わらない。
八月も半ばを折り返し、八重寺島も旧盆を迎えた。盆になったからといって観光で訪れる人が減るわけではない。『多少穏やかになったかな?』、程度の誤差でしかないのである。
『一八さん、多幸島を少し見てきますね。あなた、護衛はお願いしますよ?』
『わかってるって。ほら、ちゃんとやってるってば』
あの日以来、阿形は吽形の尻に敷かれているような状態が続いている。あのとき別に、二人分の海老を食べてしまったから怒られたわけではない。一八と千鶴にだらしない姿を見せてしまったことが、吽形にとって許せなかったらしいのだ。
現在の時間は朝六時半。いつもなら千鶴は目を覚ましていない時間だが今朝は違う。
「絵梨佳お母さん、史人お父さん、おはようございます。んー、なんて言えばいいんだろう?」
「いいのよ。一八。こうしてわかって来てくれえるだけでもね」
(お母さん、何も覚えていないので、写真でしか知らないので、なんと言えばいいのかわかりませんが、わたしを生んでくれてありがとう。お父さん、お母さんを選んでくれてありがとう。だからここにわたしがいます。やーくんと一緒に過ごせています)
お盆ということもあって、他の親族もお参りをする予定になっているから、順番待ち状態になっている。そのため、本家だからというだけで、ゆっくりお参りをしているわけにもいかないのである。
ちなみにこの八重寺家のお墓は、沖縄によくある大きな墓ではない。ここ、多幸寺というお寺で預かってもらっているのだ。
観光を収益の軸にするため、島に住む人たちのお墓を一元管理するため、移設するお願いをして歩いたのが、先々代の八重寺家当主で村長でもあった八重寺初美だった。
内地より知己のある住職にお願いをして、当時の次男を迎えて多幸寺の住職になってもらった。その功績もあって、現在は住人の約六割が観光業に従事している。
「哲平おじさん、こんにちは」
「あれ? 一八君じゃないか? こんなとこで会うなんて驚きだね。元気にしてるかい?」
「はい。いつもお世話になっているそうで、こちらへたまにしか来なくてすみません」
「それは俺じゃなくて、ご先祖様たちへ言わなきゃだな。うん」
「はい、そうします」
「よし、やっぱり良い子だ」
竹箒とちりとりを持って現れたのは、とてもサバサバしていて、人当たりの良い住職。名を八十里哲平。年の頃はまだ二十代後半。茶髪でロン毛にサングラス、アフロを着てバミューダパンツを穿き、島草履を履いている。ちなみにヅラであり、檀家まわりをしている際は、五厘刈りの頭にサングラスで、元気よく通り過ぎる姿が確認されている。
実は八重寺島でダイビングショップを経営しており、多幸寺の住職は二足のわらじ。奥さんと娘がひとり。娘は一八と同級生。クラスがひとつしかないから、クラスメイトでもある。
「こんにちは、哲平さん」
「おぉ、千鶴ちゃんじゃないか? おめでとう。テレビを見ていて、うちの晴菜が大変だったんだよ。すごいすごいって」
晴菜というのは哲平の娘。一八と同じクラスなら、千鶴のことも知っていて当然である。
「ありがとうございます。晴菜ちゃんによろしくお伝えくださいね。ありがとうって」
「うちの明奈さんも応援してるってさ。俺ももちろんそうだけどね」
ちなみに明奈とは、哲平夫人である。
「ありがとうございます。哲平さん』
掃除を再開する哲平住職。この多幸寺は民間のお寺でもあり、村経営でもある。例えば墓地の維持費の一部は八重寺島村の予算が入っている。だからこうして、維持管理も哲平の仕事だったりするのだ。
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