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第一章

第四十六話 お腹いっぱい

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 一八は水槽から回収した、樹脂製のボールを目の前に持ってくる。

「これ、食べてたってことはさ、ちゃんとお父さんやってくれてたってことだよね?」
『あぁ、プロの料理人だけあって、朝晩実に美味しい食事を楽しませてもらっていた』
「それはよかった。結構心配してたんだよね。間違ってお父さんたちに、変なところを見られていないかな? とかね」
『それは大丈夫。先ほどみたいに、『隠形の術』を使って透明にみえるようにしてある』
「なるほど、それなら安心だね。ところでさ、ちゃんとお腹いっぱい食べられてた?」
『あぁ、今も満腹状態だよ。ありがたいとは思っている』

 一八はやれやれという仕草をする。千鶴も苦笑していた。

「それならさ、吽形さん。ごはん持ってくるからちょっと待っててね」
『ありがとうございます』
「それじゃお姉ちゃん、二人と話しをしててね」
「うん。やーくんもありがと」

 一八は部屋を出て、吽形の夕食を用意しに行った。

「さて、阿形さん。質問なんですけど」
『な、なんだろう?』
『うふふふ』
「吽形さんから聞いたんだけどね、やっぱりわたしを二人の眷属にできないんですか? それでなければ、阿形さんだけ解除して、わたしを眷属にしたりできません?」
『あぁ、それは無理だ。あちらの星にいるときだが、文献を読んだことがある』
「はい」
『基本的には、眷属はひとりしか作れない。いや、眷属というのも実はどうかと思っている。なぜなら一八君が、ではなく我々が眷属になっている可能性もゼロではない』
『その可能性もありますね。ワタシたちは眷属を持つものは、ワタシたちの種族以外からという難しい制約があるのです。そう教わってきました』
『そうだな。それに、なんだが。眷属から解放する手法を教わっていない。だからどうにもできないんだよ。おそらくだが、一八君が生命活動を終えたら、解除されるだろう』
「吽形さんと同じだね」
『そうですね。ワタシの見解と同じだと思います』
「ありがとう、阿形さん。あ、でもさっきの阿形さん」
『ん?』
「ナマケモノみたいで可愛かったですよ」
『ナマケモノ……。あの木の上でだらんとしている哺乳類のことかい?』
『ナマケモノ、確かにだらしなさが似ていましたね』
『吽形、何気に腹を立てていないかい?』
『いいえ、そんなことはありませんよ。平和だったんだなと、思っただけです』

 ノックする音が聞こえた。鍵をあけて入ってくる。

「ただいまー」

 お膳に何かを載せて帰ってくる。

「今夜のごはんは、きちんと火を通したブラックタイガーに、エビマヨソースをかけた簡単なものですけど」

 その瞬間、この部屋にいる者は奇跡を見ただろう。吽形が水槽からジャンプし、そのまま滑空するように飛んできた。最後には一八の手に乗ったのである。

「え? 吽形さんすっご」
「すっご。ちなみにね、ブラックタイガーは、クルマエビ科のウシエビという日本でもポピュラーな海老なんですよ」
『……え? いやそれにしたって、何そのべたっとした何かは? 勿体なくないかい? 海老に変なものをかけてしまうだなんて』

 フォークで刺して、ソースが垂れないようにひとつ吽形に渡す。すると、しゃぐしゃぐしゃぐとあっという間に一つ食べて、ひたすら咀嚼しているように見える。

『むふっ、むふっ』
「吽形さんって、エビマヨとか食べるのよね。なかなか美食家なのかも」
『え?』
『一八さん、はしたなくてごめんなさい』

 そう言うと、エビマヨに覆いかぶさるようにしてひたすら食べまくっている姿があった。

 ややあって、なんと、お皿にソース一滴も残っていない状態。

『も、もしかして、美味い、のか?』
『あらぁ、あなたはお腹いっぱい食べたのですよね? それなら今日はもう食べられないではありませんか?』
「あははは」
「うふふふ」

 二人のやりとりがまるで、夫婦めおと漫才のように思えたのだろう。一八も千鶴も楽しくてつい、笑ってしまっていた。

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