上 下
44 / 56
第一章

第四十四話 あれ?

しおりを挟む



 祖母の静江たちは、村長としてまだ仕事が残っているため、数日遅れて帰沖の予定である。来るときと同じように、千鶴と一八の二人で帰ることになった。

「色々と申しわけありませんでした」
「いえいえ」
「それではまた来週末に、ここ羽田へお迎えにあがりますね」

 千鶴のためだけに急遽、沖縄営業所を作って斉藤が常駐する案が上がったそうだ。だが、簡単に物件を用意できないということもあり、当面は千鶴に通ってもらうことになる。

 来週の末はまだ夏休み中。そのため学校を休まずに東京へ行ける。その点は助かったと思う千鶴だった。

「いかにも芸能人、みたいに学校休みたくないんですよね」
「それは痛いお言葉です。本当でしたら、こちらの芸能科に通っていただく案もあるのですが」
「それは絶対に嫌です。そうするくらいなら、やめま――」
「わかっています。そのために、沖縄営業所を作る予定ですから」

 危うく逆鱗に触れるところだったという表情になった斉藤だった。

 ←↙↓↘→

 那覇空港に到着。国内線の到着口を出てくると、外気の温度が表示されていた。三十三度。沖縄にしては暑いほうである。

「やーくん、これって沖縄のほうが涼しくない?」
「うん、気温的には東京あっちはヤバいからね」
「うん。三十六度、だった?」
「うん。ヤバかった」

 羽田から那覇まで、軽く二時間以上あるが実はあっという間についてしまった。なぜなら、一八たちは吽形と話をしていたからである。SF的な、ファンタジー的な存在である彼女の話しは、二人にとって飽きがこない。だからあっという間だったというわけであった。

 エントランスには、『美容室碧』の可愛らしい手書きプレートを持った、我那覇《がなは》京子けいこの姿があった。

「こっちです」
「お姉ちゃん」
「えぇ」

 そのままエスカレーターで二階へ上がり、連絡通路を抜けて空港施設の向かいにある駐車場へ。いつもの黒塗りのミニバン車が待っていた。

 一八は一番後ろ、千鶴は手前の左側。いつもの席に座った。

「日登美社長が那覇にいまして、夕方お戻りになるとのことです」
「あ、そうなんですね。お母さんと一緒に帰れるんだ」
「えぇ、そうね」

 店舗のある新都心のタワーマンションへ到着。ここからなら、歩いてあちこち遊びに行ける。

「十七時には戻ってくださいね?」
「わかりました」
「ではいってまいります」

 現在十五時になったところ。二時間は遊んでこられる。だが二人は、タクシーに乗って国際通りへ。沖映通りの突き当たり、むつみ橋信号の筋道を進んでいく。

 筋道を進むこと百メートルほど。右側に牧志公設市場が見えてくる。ここは豊富な魚介類から畜産物。さまざまなものを取り扱う市場になっている。

「ここならね、美味しい海老があるとおもうのよ」
「ここなんだね。公設市場って」
「えぇそうよ」

 これまで歩いてきた筋道は屋根があるため、風が通れば涼しく感じる。同時に道に面した建物から冷気が流れてくるので、十分に涼しい。だが、公設市場に入った瞬間、世界が変わった。

「うーわ、めっちゃ涼しいね」
「えぇ、別世界ね、ここは……」

 贅沢に冷房が使われているように思えるが、なぜならそれは魚介類が置かれているからだと思われる。

 通路を進んでいくと、観光客を含め、人が沢山訪れている。

『海老が、とても大きな海老がいます。あ、小さくて美味しそうな海老も』

 もはや吽形の目には海老しか入っていない。

 ぐるっと見て回りつつ、持ってきたクーラーボックス一杯に魚介類を買いまくった。一八と千鶴がお金を出し合って、千鶴の命の恩人である吽形に報いたいとここへやってきたのだった。

『正直言えば、この海老、あの人にはあげたくなかったりします……』

 ぼそっと呟く吽形だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...