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第一章
第四十話 事件はどうだったの? そのに
しおりを挟む「さて、此度の動機につきましてなのですが。容疑者の名は田中敦子――芸名、田中昴。十八歳、独身、賞罰なし。容疑者が言うにはですね、『八重寺千鶴が憎かった』とのことでした」
「あらら。千鶴ちゃんが一方的に恨みを買ってしまったのかしら? 可愛らしいって罪よねぇ……。それで? 他に理由は?」
「はい。『本来であれば、あの配役は私に決まっていた。それなのに撮影数日前に突然変わるだなんて。どうせお金を積んだに決まっている』とのことでした」
「あー、……斉藤ちゃん。それってうちの責任だとしたら、回り回って結果的に斉藤ちゃんが、ね?」
「はい。言いたいことはわかります。ですが、私も譲歩案は出したんです。我が社との契約期間中は、漆黒の髪のままでいること。それを提案したのですが、それはできないと言われました。クライアントを説得するのは、それは私たち会社側の仕事だと。こちらの編集部さんには前からお世話になっていますので、なんとかしてあげたい。かといって、うちの俳優で黒髪は一人しかいませんでした。達川礼子さんです。ですが、既に成人している礼子さんに、高校生の制服を着てもらうのはさすがに無理がある。という感じに、頭を痛めていました。そんなとき、千鶴さんを見かけて、彼女しかいない。そう思ったんですね」
「あー、そうね。礼子ちゃんは童顔だけど、さすがに十歳以上サバを読んでもらうのは可愛そう過ぎるわよね……」
「え? 達川礼子さんって」
「今年で二十八歳よ。十年もニチアサ第一線でやってくれているんだもの」
確かに、千鶴も長い間ニチアサで見続けていた。どんなヒロインでもやりこなす彼女がかっこよくて可愛くて、ファンになったのを思い出したのだ。
「初犯なので執行猶予はつくかと思いますが、契約解除は免れません。幸い、どこのクライアントとも契約を交わしていないので、違約金が発生しないのだけは助かりましたね」
その瞬間、斉藤と宝田だけは頭を抱える。
「……まいりました。せっかく昴さんのために、営業が江田島貿易薬品工業のCMオーディションとってきたっていうのに」
「確か次点の子は、他の事務所と契約しちゃってるわよねぇ。まさかここも礼子ちゃんをなんて、無理でしょ?」
「えぇ、それはさすがに」
「そのオーディション、わたしが受けてみては駄目でしょうか?」
「このあと、一時間もないのよ? セリフも長くはないけれど覚えないといけないですし」
「暗記ものは得意ですから」
宝田、斉藤、高山はスクラムを組むようにして相談し始める。何よりも今一番大事なのは、穴を開けないこと。会社の信用を落とさないこと。それが最優先である。
「そしたらアタシもついていくわ。斉藤ちゃん、いいわね?」
「はいっ。高山さんはこの現場任せてもいいかしら? 警察には何かあれば、オーディション終わったら私も一緒に出頭するわ」
「えぇ。現場は任せて。二人はうちの大事な八重寺さんを守ってね?」
「もちろんよ」
「わかりました」
「え? 八重寺さんって、僕もですか? 疲れちゃったんで、ホテルで休みたいんですけど」
「ごめんなさいね、一八ちゃん。送っていくわ」
千鶴はぎゅっと一八を抱く。斉藤はスタジオの裏手にハイヤーを呼んでもらう。
「大丈夫ですよ、千鶴さん。オーディションは、プリンセスホテルのホールですから」
「そうなんですね? 一八ちゃん。元気になったら見にいらっしゃいね」
「うん。お姉ちゃん」
宝田、斉藤は、千鶴たちと一緒に、東京プリンスホテルへ。到着と同時に、最上階にいる祖母の静江に報告。なんとかオーディションに出る許可をもらえることとなった。
時間は十二時半。オーディションは夕方の六時から。休憩してから準備したらいいと、千鶴も軽い食事を摂ってから仮眠することになった。
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