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第一章

第三十九話 事件はどうだったの?

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 あのあとすぐに警察関係の人々が到着し、容疑者と思われる女性が確保された。凶器と思われるワイヤーカッターが、物証として提出されている。千鶴は力が抜けたのか、ぺたんと座り込んでしまい、その場から動けなくなってしまっていた。

 今日はもう撮影にならないので、控え室で着替えを終えている。このあと、事情聴取もあるとのことなので、こちらで待機することとなった。千鶴と斉藤だけでなく、宝田と一八もここにいる。

 雑誌の方は撮った分でなんとかするとのことだった。それでもかなりの枚数が撮れているはず。何やら特典映像として、USBのメモリが付属するとか。どれだけ豪華になるのだろうと思ってしまう。

「千鶴ちゃん大丈夫だったの? 怪我とかしていないかしら? アタシ怖くて怖くてここで震えていたから状況がわからなかったのよね」

 一八の目が点になっている。なぜなら、宝田の見た目と言動が合っていないから。腕もがっしりしていて、やや細マッチョ。ボサボサだけど長髪のいわゆるイケメンの部類。なのに、『おねぇ』なのだ。どうかんがえても、『おねぇ』なのだ。

「大丈夫です。『助けてくれた方もいらっしゃるので』今頃、警察関係の方々は大騒ぎしていると思います」
「それはなぜなのかしらね?」
「『あのときと同じだ』と仰っていた警察関係の方がいたからです」
「『あのときと同じだ』? アタシはわからないわね」
「あの、質問したいことがあるのですがよろしいですか?」

 宝田と斉藤は見合って一度支線を明後日の方向に外して、何やら考えたあとに、お互いが頷いていた。彼らはこの龍童プロモーションの新卒同期らしく、飲み友達でもあるそうだ。

「いいですよ。ね? 宝田さん」
「やだわ、アタシのことはあれほど大ちゃんって読んでって――」
「却下します。それでなんでしょう? 私が答えられることであれば、なんでもお答えいたしますよ」
「単なる疑問です。そんなに畏まらなくてもいいですよ」
「そうなのね。少しだけ身構えてしまったわ」
「わかりました。なんでも聞いてください」
「では、ひとつだけ質問させていただきます」
「はい」
「いいわよ」
「この東京または関東地方にですね」
「はい」
「この東京に? 関東まで広げるわけね?」
「『正義の味方』の活動をしていらっしゃる方はいますか? ときには『ご当地ヒーロー』とも呼ばれる場合があるかと思います」
「正義の味方? うふふふ、可愛らしい。いないわ。うん、いないわよ。いたらとっくにこの業界の毒虫たちを捕まえてくれているはずよ」
「そうですね。私も聞いたことがないと言えば嘘になります。なにせ、うちの龍童プロモーションにはヒーローとヒロインがいますから」

 斉藤が言うのは、『コスモドライバー絶牙』のこと。架空の存在とはいえ、いないというのも嘘になる。

「質問が抽象的すぎましたね。でも、ありがとうございます」
「いいえ、どうしいたしまして」
「お力になれなくて、申しわけありません」

そのときこの控え室のドアがノックされた。

「高山です。よろしいでしょうか?」
「はい。どうぞ」

 高山と名乗った女性が入ってくる。

「八重寺千鶴様、八重寺一八様。お初にお目にかかります。私は龍童プロモーションの法務部に常駐しています、弁護士の高山貴子と申します」

 斉藤真奈美よりもおっとりしたイメージのある見た目とは正反対の、キビキビした口調。あらゆる意味でギャップ感のある女性だった。

 だがついに弁護士まででてきてしまった。まぁ仕方のないことなんだろう。なにせ、ただの事故ではなく、殺人未遂事件に発展してしまっているのだから。

「では、現状の報告となります。過失の事件であるのなら、我が社としても情状酌量の条件を探します。ですが、今回は殺人未遂事件ですので、契約時に交わしたの重要事項の通り、警察に対して全面協力致しました。それにより、被疑者の主張を手に入れました」
「偉いわ。貴ちゃん」
「貴ちゃん言わないでください」
『もしかして?』
『はい。貴子さんも私たちと同じ同期なのです。厳密には弁護士事務所からの出向というかたちになるのですが、なりたてのころからずっと一緒なので、同期と言ってもいいと思っています』
『なるほどなるほど』

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