上 下
31 / 56
第一章

第三十一話話 意外や意外

しおりを挟む



 ひとりでレストランで食べるというのも味気ない。それならばと思った一八は思った。

「そうだ。ルームサービス頼んでみよう」
『ルームサービスですか?』
(うん。レストランなどからね、食べ物や飲み物を部屋まで持ってきてくれるサービスのことなんだ)
『そういうものがあるのですね』

 部屋にあるタブレット端末から、ルームサービスを検索する。すると弁当があることがわかった。一八は、弁当を持ってきてもらうことにしたのだ。

「えっと、んー。よし、この『エビチリ弁当』にしてみよう」
『海老なのですか?』

 海老というキーワードに食いついた吽形。

(海老を焼いてちょっと甘辛く味付けしたのがエビチリ、だったかな?)

 端末に注文するチェックをつけて、『注文してもよろしいですか?』に『はい』を選ぶ。すると『十分ほどでお持ちいたします』というメッセージに変わった。

「よし、今のうちにこっちも準備してっと」

 一八は吽形のごはんを用意する。とはいえ、電子レンジで解凍して、少しだけ塩を振るだけの簡単な調理とも言えないものだった。だが今回はちょっと趣向を変えてみる。

 元々この冷凍海老は、一八たちが食べるのと同じもの。そうであるならと、解凍後、塩を振って、いつもと同じ半生ももの。それとは別に、ちょっと長めに加熱をして、きちんと熱が通っているものを作ってみた。

「どれどれ、あむ、むぐむぐ、……うん。美味しい」
『それはどうしたものですか?』
(えっとね、僕たちが食べる海老ってね、生の刺身と焼いたり揚げたりして加熱したものがあるんだ)
『はい』
(あっちで使っている海老もそうなんだけど、これもね冷凍されているもので、生食用ではないんだ。ほら、ビニールには『加熱してお召し上がりください』って書いてあるでしょう?)
『確かに書いてありますね』

 普通に漢字も読めている。千年という時間はこの星のどれだけの知識を取り入れる時間だったのだろうか? そんな吽形たちに、一八も興味が湧いてくるのだった。

(吽形さんたちに作ってたものはね、ちょっと味付けした半分加熱したもの。僕が食べても大丈夫なくらいだったから、今回はね、完全に熱を通してみたんだ。火傷するとまずいから、冷ましておくんだけどね)
『あの、ワタシたちは傷の治りが早いとご説明したかと思うのですが』
(あ、忘れてた)

 そのとき、インターフォンが鳴った。一八は受話器を上げる。

『ルームサービスです。お弁当をお持ちいたしました』
「あ、はい。ちょっと待ってくださいね」

 ドアにある、ドアスコープを覗いて確認。ホテルだけあって、低いところと高いところ二カ所あるのは一八のような身長の者にはありがたいことである。

(んー、ホテルの従業員さん、だよね?)
『間違いないと思います。もし何かありましたら、ワタシがお守りいたしますので』
(うん。吽形さん、ありがと)

 鍵を開けて、ドアも開ける。本来であれば、チェーンロックをかけるように、ドアには書いてある。だが吽形がいるから、安心して開けることができた。

「ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそご利用ありがとうございます。食べ終えたものは、軽く洗って専用の袋にお入れください。明日、お部屋を掃除する際に処理させていただきますので」
「はい。わかりました」

 ビニール袋を受け取ると、良い匂いが漂ってくる。その中には駅弁のような容器が入っている。割り箸ではなく木製だが最初から別になっている箸。

(それじゃ、僕も食べようかな?)

 テーブルの上に皿を置いて、そこにある何種類かの加熱度合いを変えた海老が並んでいる。その向かいに座って、弁当の蓋を開けた。

「おー」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

処理中です...