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第一章

第三十話 あの、一八さんも

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「あの、社長」
「ななな、何よ?」
「弟さんの一八さんもなのですが」

 確かに、千鶴ほどではないが、一八も中性的で可愛らしい見た目をしている。

「あら? 一八もアイドルにしたいのかしら?」
「いえ、その、そういうわけではありません。それに千鶴さんもアイドルに、というわけでは」
「あら、そうだったのね。一八はまだ小学六年生、十二歳なの。だからいずれ相談、ということでいいかしら? そうね、中学三年生になったら、かしらね。それにこの子の気持ちもありますから」
「はいっ、そのときはまたお邪魔させていただきます」
「沖縄にいるかもしれないのよ?」
「いえ、沖縄だろうとどこだろうと、お邪魔させていただきます、先生」
「一八ちゃん」
「はい、お婆さま」
「あなたは先に、レストランでお食事を済ませてしまいなさいね? 千鶴は色々としなければならないことがあるものですからね」
「はい、お婆さま。では僕は、失礼致します。お姉さま、おやすみなさいませ」
「えぇ、ごめんなさいね。一八」
「おやすみなさい。一八」

 その場でぺこりとお辞儀をする。

(あーびっくりした)
『確かに驚きましたね。ですがあの二方は、悪意を持たれていませんから大丈夫だと思います』
(そんなこともわかるんですか?)
『なんとなくですが、もし、外してしまったらですね』
(はい)
『ワタシかあの人どちらかで、なんとか致しますのでご安心ください』
(なんとかって……)
『言葉の綾でございますよ』

 千年以上生きている知的生命体でもある吽形に、たかだか十二年しか生きていない一八がかなうわけがない。それでも尊敬できるのは間違いなかっった。

(先にごはん食べますか? それとも僕が先でいいですか?)
『お先にどうぞ』
(じゃ、先にいただいきます)

 するとスマホの着信の代わりに振動があった。マナーモードにしていたからだろう。

「えっと。あ、喜八お爺ちゃんだ。んー、なるほどね」

 喜助からは『レストランの支払いは気にしなくてもいいですよ』というメッセージだった。

『ご家族なのに丁寧なのですね』
(うん。いつもこんな感じなんです。常に静江お婆ちゃんの執事さんでありたいからだって、前に教えてもらったんだんです)
『一八さん』
(はい?)
『ワタシたちにも、もう少し砕けた感じにしていただいて構いませんよ』
(そうですか? でも、吽形さんがとても丁寧な言葉使いなので)
『これはですね。ワタシの素でもありますが、あの人が少々照れ屋で乱暴な振る舞いをしているではありませんか?』
(あ、あれって振る舞いだったんですか?)
『ここだけの話しですよ。いつもはワタシに対して、もっと丁寧な言葉使いですから。おそらく一八さんには男らしく見て欲しいと思っているのでしょうね』
(あはは。それはなんか嬉しいです)
『一八さんは、少々よそよそしくも思います。年相応の言葉で構わないのですよ?』
(あー、うん。あのね)
『はい』
(吽形さんたちって、僕より千歳以上年上じゃないですか? お母さんからも静江お婆ちゃんからも、年上は敬うようにって言われたことがあるんです)
『良いとは思います。ですが、ワタシからのお願いです。ヒーローは緊急時に丁寧な言葉を使っていては、間に合わないことが考えられませんか?』
(え?)
『本日拝見した、絶牙さん、でしたか。丁寧な言葉使いをしていることもありますが、ケースバイケースで砕けた言葉も使っていたと思うのです』

 確かにそうだ。絶牙は『お父さん、お母さんはの言うことはちゃんと聞こうな?』という言葉使いで子供たちにメッセージを送っていた。丁寧な言葉が全ていいというわけではない。

(うん。僕もちょっと考えてみる。必要だもんねきっと)
『えぇ、そうですね』

 こうして吽形はある意味、一八のよい先生になっているのだろう。

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