25 / 56
第一章
第二十五話 待ち人はどの人
しおりを挟む(吽形さん、大丈夫だった?)
『えぇ、一八さん。ご心配ありがとうございます』
あの後、何事もなく羽田空港へ到着し、一八たちは迎えにきていたハイヤーに乗っている。
二人が向かったのは銀座。目的はひとつだけ。ブドウのマークが入る通信機器メーカーの直営店。そこで購入するのは、すでに電話で予約を入れていた一八たちのスマホである。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
直営店のスタッフなのだろう。二十代後半くらいの男性で、しっかりとした対応をしてくれる。
「予約を入れていた八重寺と申します」
「八重寺様でございますね? 伺っております。ではこちらへどうぞ」
奥のカウンターで対応してもらう。今回千鶴も新調することになった、同じグレードの同じモデル。千鶴がホワイトで、一八がブラック。
「これ僕の?」
「えぇ、そうよ」
アドレス長を見ると、千鶴、隆二、日登美など。家族と関係者が登録されていた。
『これがこちらの世界では、最先端の通信機器なのですね?』
(うん。これでやっと、阿形さんと吽形さんと話していても違和感がでなくなると思うんだ)
『何も言葉に出さずとも――あぁ、そういうことですね』
(うん。つい口に出てしまうこともあるんです)
「ありがとうございます。またどうぞご利用くださいませ」
数人に見送られて一八と千鶴は店舗を出て行く。スマホを見るとわかるが、時間は十八時半になろうとしていた。
「一八ちゃん」
千鶴は『やーくん』と外では呼ばない。さすがは小学校と中学校、八年と少し被り続けた見事な猫である。
「はい、お姉ちゃん」
「お腹空いてない? ホテルに着くころには七時を越えてしまうけれど、大丈夫?」
「うん。大丈夫」
「それならいきましょうか」
「うん」
ハザードを焚いて待っていたハイヤーに再度乗る。運転手には目的地は告げてある。宿泊するホテルには、待ち人がいるのである。だから、東京まで二人で出てこられたというわけなのであった。
東京プリンセスホテルにハイヤーが入っていく。正面玄関でドアが開く。まずは一八が降りる。
「ありがとうございます」
そう言うと一八はくるりと回れ右。手を差し伸べて千鶴を迎える。
「ありがとう、一八ちゃん」
普段着ではないが、それなりの格好をしている一八が、これまた可憐とも言える千鶴を迎える。
ただ、千鶴をエスコートするにはちょっと身長が足りない。千鶴は百六十センチ近いが、一八は百五十センチ足らず。十センチも彼女より低いのである。年齢的にも仕方がないといえばそうなのだが。
(吽形さん、お腹すいてないですか?)
『ありがとうございます。まだ大丈夫ですよ』
一八たちはフロントへへ行き、鍵をもらってエレベーター前へ。そこにいるポーターの女性に十七階と告げて一八はペコリと挨拶。笑顔で送り出されてエレベーターに乗り、十七階へ。
「一八ちゃん、ここよ。わたしはこっち」
一八は十号室。千鶴はその隣の九号室。カードキーをかざすと、カチャリと音を立てて鍵が開く。
現在は十八時五十分。もう待ち人はこのホテルに到着していると、受付カウンターで教えてもらっていた。
「一八ちゃん。ちょっと遅いけど七時になったら、二十五階へ行きますからね」
「うん。荷物を置いたらすぐだね」
「えぇ、それではまた後ほど」
お互いがドアへ消える。
ドアを閉めるとロックがかかる。一度そのままベッドへ倒れ込む。
「あ゛ー、つかれた」
『お疲れさまです』
一八はベッドに座り、両手のひらを合わせて目の前に置く。その上に、吽形は姿を現した。白い吽形像だが、前に見たあの像よりも目元はとても優しい。
(吽形さんは大丈夫? なんならお風呂に水を張るけど)
『大丈夫ですよ。少しずつですが、一八さんから魔力をいただいていますので、大気中から水分を集めて活用できますので。……ところでこのあとお目にかかるのはもしや、あのかたですか?』
(そうですよ。そういえば吽形さんも知ってるんですね?)
『えぇ、それはもう。先代さんだけでなく、八重寺家の初代さんともいえる人たちも知っていますからね』
(忘れてました。そうだったんですよね)
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる