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第一章

第十七話 え? うそ? ほんとに?

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 心配そうに覗き込む、一八の頬に白いタコの触手が伸びてきて、優しく触れてきた。

『一八さん、驚かないでくださいね。いつも美味しい食事をありがとうございます』

 突然、ただの妄想だと思っていた、優しげな女性の声一八の頭の中に語りかけてきたのだ。だから混乱するのも仕方がない。なにせ彼はまだ十二歳、小学六年生なのだから。

「……え? あれ? 僕、どうしちゃったの?」

 黒いタコの触手も伸びてきて、もう片方の頬に触れてくる。

『一八君が驚くのも無理はない。我々はこの世界の物語で言うところの、「接触テレパス」という手法で語りかけている。だから君も頭の中で思い浮かべるようにして語りかけるだけで、我々と話しをすることができる』
(……うん。姉さんに貸してもらった漫画や小説に、そういうのがあったかも。ということはもしかして?)
『そうそう。お上手ですよ。ワタシたちは、あなた方の概念で言うなら、「地球外生命体」、異星人ということになります』
(え? 異星人? もしかして、火星あたりの?)
『確かに、オレたちのような容姿を持った存在が、火星にいるという物語はあったかもしれないね。あ、悪いが部屋の施錠をしてくれないかな?』
(あ、はい。ちょっと待ってくださいね)

 なんとも柔軟で、なんとも素直な一八。多少驚きはしたが、楽しいという感情が勝ってしまったように思える。

 ドアの表にあるプレートに『お昼寝中』という文字を書き込んで、ドアの施錠をする。水槽の前に椅子を持ってくるとそのまま座った。すると黒と白の触手がゆっくり伸びてきて、また頬に触ってくれる。

(それでそれで、タコさんたちはどこから来たんですか?)
『タコさん、それでも別に構わないんだが、本来オレの名は『qあwせdrftgy』という感じでね、君たち地球人には発音できないんだ。だからそうだな……』

 タコたちは水槽の中で立ち上がった。するとどこかで見た覚えがあるフォルムになっている。

(あれ? どこかで……、あ、そっか。多幸島の記念館にあるあの像)

 それは、多幸島にご神体として奉られている石像であった。色味は違うが、確かにそのものである。

『よく覚えていたね。だからオレは「阿形」と呼んでくれ』
『ワタシは「吽形」と呼んでくださいね』
(うん。それじゃ、黒いタコさんは『阿形さん』、白いタコさんは『吽形さん』で)
『あぁ、頼むよ。それでいい』
『よろしくお願いしますね』

 すぐにだらんとしたいつもの姿に戻った阿形と吽形。

『先ほどの一八君の質問についてなんだが、ややこしいからあれだ。吽形頼んだ』
『わかりましたよ。あなた。それでですね一八さん』
(はい)

 阿形は案外面倒くさがりなのか、それとも吽形は説明などが得意なのだろうか?

『ワタシたちは、この星系の者ではありません。ここより離れた場所にある、この地球のように水に恵まれた星から来たんですね。そう、おおよそ千年は経ったかしら?』
(せ、千年ですか?)
『あぁ。それくらいは経っているかもしれないな。船に戻ればある正確な年数はわかると思うがね』
(船、ですか? もしかして宇宙船のことですか?)

 千年という年数が出てきたことで、阿形と吽形は間違いなくとんでもない年上だと判断した一八は『目上の人』認定。丁寧な言葉使いになってしまっていた。

『そうですよ。この八重寺島の中央にある大きな洞窟はご存じですよね?』
(はい。もちろんです)

 三百メートル以上はあるとされているブルーホールのことである。

『ワタシたちの船は、あの奥底に沈んでいるのです。あの綺麗な洞窟ならば隠せると思いまして、あの場所を利用させていただいたのです。もちろん、調査に入られたことを想定して、偽装はしてありますよ』
(そうだったんですね)

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