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第一章
第十五話 晩ごはん
しおりを挟む「それじゃ、僕も晩ごはん食べてくるね?」
するとどうだろう。タコたちは触手を一本だけ持ち上げて、手を振るようにしてくれているではないか?
(うわ、この子たち、僕の言葉に反応してるよ。絶対そうだよ。うん。もしそうだったらほんとうに、嬉しいな)
部屋を出ると、スキップしたくなる気持ちになった。
リビングへ近づくと、先ほどの揚げ物の匂いが漂ってくる。
「一八くん。悪いけれど、日登美さんと千鶴ちゃんを呼んできてくれるかな?」
隆二は夕食の準備に忙しいようだ。
「うん。お父さん、いいよ」
一八は対面キッチン寄りの壁にあるインターフォンのボタンを押す。すると画面には日登美が映し出される。
「お母さん、お父さんがごはんだって」
「わかったわ、ありがとう。一八、あなた」
モニタが消えると、次に隣のボタンを押す。だが千鶴はモニタに出てこない。
「んー、寝てるのかな? ちょっと見てくるね、お父さん」
「あぁ、悪いね。一八くん」
「ううん。いつものこと」
リビングを出て千鶴の部屋へ向かう一八。途中、日登美とすれ違う。
「一八、千鶴まだ来てないの?」
「うん。呼んでくるね」
「気をつけるのよ」
「うん。罠かもしれないからね」
くすくす笑う、日登美と一八。二人とも、一八大好きな千鶴の性格を知っているから。
千鶴の部屋の前、ドアをノックする。
(……反応ないね。これは罠かな? それとも寝てるのかな?)
再度ノックするが返事はない。一八の部屋同様、鍵をかけていないことを知っている。開けてすき間から中を窺う。すると呆れた表情になってしまった。
「お姉ちゃん、入るからね」
躊躇せずに一八は千鶴の部屋に入る。彼の声は呆れの気持ちが伝わっていることだろう。
「……まったくもう。お姉ちゃんはこれだもんな」
絨毯が敷いてある床に散らばった本。それを拾いながら本棚へ戻していく。もちろん、ベッドの上で薄手の肌掛けにくるまって隠れていることも気づいている。だからわざと、声に出している。
読んだ本は元に戻さずその場に置いて、続きを読み始める。床にペットボトルが転がっていることはない。洗濯物カゴの中に、脱いだものがまだ入っている。一八は一度洗濯場へカゴごと持って行く。
部屋に戻ってくると、整頓再開。これをやらないとまた、先週のような汚部屋状態になってしまうから。あれこれ片付けて、最後に真空断熱ボトルを持って出ていこうとする。
ぴたっと足を止めて、ベッドを見る。すると、肌掛けのすき間から千鶴が覗いていたのに気づいた。
「お姉ちゃん、お父さんが晩ごはんだから来てだってさ」
そう言うと、部屋を出て行こうとする。
「……いつもありがとう、やーくん」
「どういたしまして」
ややあってリビングに全員揃う。ばつの悪そうな表情の千鶴もいる。
「それじゃいただきましょう」
日登美が音頭を取る。すると皆は手を合わせて、
「「「いただきます」」」
まずは味噌汁が定番のはずだが、皆ミジュンのフライへ箸をのばす。一八もソースとマヨネーズを混ぜた混合ソースを作って、ちょんちょんつけてかぶりついた。
「うわ、さくさくほろほろ。すっごく美味しい」
山と積まれたミジュンのフライ。隆二の人差し指ほどの大きさしかないからか、一八でも一口で食べてしまえる。この島でもよく釣れることもあり、比較的ポピュラーなおかずでもあった。
今夜のおかずはフライだけではない。ゴーヤーと玉ねぎをスライスし、蒸し海老を入れたマリネ状のサラダ。ちなみにこれは一八が買ってきたむき海老ではなくて、一回り小さい。キュウリの浅漬けに、とろろ昆布のお吸い物。一八と千鶴にはほかほかのごはん。
「ほんと美味しいね、やーくん」
「うんっ」
「これはビールが進むわぁ……」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ。はい、日登美さん」
瓶ビールを注いであげる隆二。
「ありがとう、あなた。ほら、見ていないであなたも」
「そうだね。この熱々のフライにタルタルつけて。パクッと、ほふほふ。飲み込んだ熱く焼けそうになっている喉に、冷たいビールを流し込む――うーっ、たまんないね」
「はい、あなたも」
「ありがとう、日登美さん」
日登美も隆二のグラスにビールを注いであげた。
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