12 / 56
第一章
第十二話 受け入れ準備
しおりを挟む一八がタコを拾ってきた後、隆二たちは車に戻ってくる。漁協に寄ってクーラーボックスに氷を分けてもらい、そこにミジュンを入れて一安心。
隆二は日登美にメールを投げておく。すると返信が帰ってきた。
『一八がペットを? これはまた珍しいわね。ネコかしら?』
(んー、ネコではないんだよね? 惜しいけど。でもなんて返すべきかな? 『一応、魚なんだけどね』、これでいいか)
送信ボタンを押すと、すぐに返事が返ってくる。
『うちの蔵にね、未使用の水槽があったはず。こっちの用事終わったから、私の車で持って帰るわ』
(おぉ、ありがたい。『お願いします』、これでオッケー)
「一八くん」
「ん?」
「お母さんがね、水槽あるから帰りに持ってきてくれるって」
「ほんと? やった」
一八はバケツに向かって『よかったね』とか話しかけている。隆二はそのまま車を走らせた。
途中、街中にあるペットショップで、水槽に敷く底砂や難破船の形をした置物など、細々としたものを購入。家に着くと、隆二はミジュンの下ごしらえを、一八は風呂場にバケツを持っていき、日登美と千鶴の帰りを待つことにした。
隆二と一八が帰ってきて、小一時間ほど経ったあたりで玄関のドアが開いた。
「あ、お母さんだ。お父さん、手伝ってくれる?」
「はいはい。一八くんじゃ持ち上がらないかもだからね」
階段を降りて一階へ。店舗ではなく裏側から勝手口へ出て行く。普段、隆二が食材の買い出しに出かけるために使っている、先ほどまで乗っていたワンボックスカー。その隣りに駐まっている軽ワンボックス。これは、隆二が仕入れなどで普段使用している車である。
「ただいま、やーくん」
助手席から出てくる千鶴に、一八はさっそく捕まってしまった。彼女はスキンシップ過多のため、ちょっと恥ずかしく思ってしまう。
「お姉ちゃん、おかえりなさい」
「うんうん」
頬ずりをするは、頬に、額にキスをするわ。別に何日も離れていたわけではないが、いつもこんな感じである。朝でなければ。
朝でなければ、というのは、千鶴は朝が苦手である。いつまで経っても起きてこない。だから毎日、一八が起こしに行くくらいである。だが、目が覚めるといつもこう。無駄にアクティブというか、元気というか。猫っ可愛がりされるのであった。
八重寺島小学校と中学校は隣り合わせであって、毎日一緒に通学している。帰ってくるのは一八のほうが早いのだが、出迎えるとこんな感じ。だから慣れてしまった感はある。
「お父さん、あ、それ」
するりと千鶴の攻撃を躱して、一八は隆二の元へ。千鶴的には、あとでいくらでも可愛がることが可能なため、ここはあっさり諦めてくれたようだ。
リアドアを開けて、隆二は水槽を取り出してくれた。彼が両腕で持ち上げている水槽は、まだ未使用のものだとすぐにわかる。なぜなら、水槽にブランド名やサイズの入ったシールがまだ剥がされて折らず、その上水槽越しに彼の顔がはっきりと見えるからであった。サイズは、幅が一メートルくらいはありそうだ。
運転席から出てくる日登美。彼女は一八を見るとすぐに聞いてくる。
「これ、部屋でいいの?」
「うんっ。ありがとう、お母さん」
「いいえ、どういたしまして。あなた、一八の部屋にお願いしてもいい?」
「はいよ、任されました」
さすがに水槽の中にすべて入れた状態だと、隆二がいかに大人だからといって、持ち上げるのが危険な状態になりかねない。それならば、一八の部屋で慎重に準備をしよう。ということになったわけだ。
「お父さん、ここ。ここにお願い」
出窓になっている隣りに、木製のローチェストが置いてある。その上に、水槽を置けるだけのスペースがあった。隆二が水槽を置くと、一八はさっそく底砂などを敷き始める。
「お父さん、お風呂場にある海水、お願いしてもいい?」
「あぁ、構わないよ」
「僕もタコさんたち迎えにいかないとだね」
隆二と一八は一緒に風呂場へ戻っていった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる