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第二十五話 お母さん。
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朝から料理するとは思わなかったよ。
フレンチトーストとサラダ。
スープの代わりにカフェオレ。
簡単な朝食だけど、勘弁してもらおうな。
ティナの後ろをついていくと、昨日アリエスさんに呼び出されて酒をご馳走になった場所についてしまった。
そこではアリエスさんの期待の籠った目と、クレイさんの『申し訳ないね』という優し気な目が待っていた。
「大したものは作れませんでしたが、これで勘弁してくださいね。あっちから調味料も何ももってこれなかったので、次は持ってきますよ」
「無理をさせちゃったみたいで悪いわね」
「いえいえ。お母さんの頼みならこれくらいは」
「えっ?」
「はい?」
「わ、私を、お母さんって呼んでくれるのですか?」
「はい。ティナのお母さんですし、俺にとってもアリエスさんはお母さん、クレイさんはお父さんになるんですよね? 違いましたか?」
ティナは何やら俺の隣でニヤニヤしてるし。
ちったぁ自重しろよ。
可愛いから許すけどさ。
「いいえ、違わないわ。武士さん、私を本当の母だと思ってくれていいのですよ」
ありゃりゃ。
感極まってなのか、目元に涙浮かべちゃったよ。
あ、クレイさん、ナイスフォロー。
さりげなくアリエスさんの涙拭ってくれている。
って、クレイさんも駄々泣きじゃないですか。
こりゃまいったわ。
「と。とにかく。朝ごはんにしましょう。これ、ティナも美味しいって言ってくれたやつですから」
俺とティナは並んで座って、ジュリエルさんに目配せをした。
すると、彼女はアリエスさんとクレイさん、俺たちの前に取り皿とナイフ、フォークを置いてくれた、
ジュリエルさん、グッジョブ。
俺はアリエスさんの皿を持って、フレンチトーストを取り分ける。
手製のカラメルソースを上からたらりとかけて、アリエスさんの前に置く。
次はクレイさんの分も。
ティナはその間にサラダを取り分けてくれている。
ジュリエルさんはカップにカフェオレを入れてくれていた。
よし、こんなもんだろう。
って、ティナ食うの早すぎ。
「んーっ。武士の作るのってやっぱりおいし」
「はいはい。ありがとな」
「うんっ」
「さ、アリエスさん、クレイさんも。大したものじゃないですけど、食べてみてください」
アリエスさんは初めて食べるもののようで、ティナの真似をして少しだけナイフで切ろうとしている。
「あら? 凄く柔らかいのね」
「はい。パンをミルクと卵、砂糖を混ぜた浸け汁に浸して、バターで焼いただけなんです。その上にかかってるのは、砂糖と水だけをゆっくり熱して作った甘いソースなんです」
「──ほんと。甘いわ。それにふわふわで、面白い食感。上にかかってるソースも甘くて香ばしいですね」
「えぇ、美味しいですね。朝食に甘い物というのは生まれて初めてですが」
よかった。
ティナでわかっていたことだったけど、味覚は同じなんだな。
習慣の違いなのか、それとも民族性なのかはわからんが。
料理がかなーりアバウトなんだな、王家でも。
「このお野菜にかかってるソースは? とても美味しいわ」
「はい。手製のマヨネーズですね。卵の黄身と油、それとお酢ですね。それらをかき混ぜながら塩と胡椒で味をつけた、ドレッシングみたいなものです」
「ティナ、あなた毎日こんなに複雑で美味しいものを食べてたの?」
「うんっ。武士はね、料理の仕事もしてたんだって。今はあっちで酒場をやってるんだよ」
酒場っていっても、結構適当なんだけどな。
麗華さんの店みたいにきちんとしたメニューもないし。
あ、あっちも創作ダイニングだったから、毎日メニュー替えてたっけ。
カフェオレはあえて砂糖を入れなかった。
それでもこっちでコーヒーを飲み慣れてるみたいだから、普通に飲んでもらえたみたいだ。
「武士さん」
「はい」
「息子が作った料理っていいものですね。ティナは料理などできま──」
「あーっ。あたいね、武士に教わって少しは料理できるようになったんだよ? ね、武士」
「はい。ティナも最近は下ごしらえを手伝ってくれるようになったんです。一緒に料理を作って、一緒に食べる。俺も長いことひとりだったので、毎日が楽しかった……、です」
やべ、ほろっときちまった。
上向いて、涙流れないように誤魔化さないと。
ってティナ、そのニヤッとした表情はなんだ?
ありがたいと思ってるよ。
俺の大切な嫁さんだからな。
負けた気になるから、まだ言ってやらないけど。
朝食が終わってアリエスさんは機嫌良さそうにしていた。
すると、クレイさんが何やらティナに耳打ちをしてるぞ。
「お母さん。美味しかったでしょ?」
「そうね。こんなに料理の上手な息子ができて、私も嬉しいわ」
「でしょー。武士のこともっと教えてあげるから、お母さんの部屋行っていい?」
「聞きたいわ。こんなに可愛い息子ができたんですもの」
可愛いって、アリエスさんから見たらそうなっちまうんかね。
ティナはアリエスさんの背中を押しながらここから出ていった。
振り返ってクレイさんに手を振っているみたいだけど。
クレイさんが俺の目の前に座り直した。
「あのね、武士君。話しておきたいことがあるんだ」
「は、はい」
何だろう?
俺はちょっと気を引き締めてクレイさんの話を聞くことにした。
フレンチトーストとサラダ。
スープの代わりにカフェオレ。
簡単な朝食だけど、勘弁してもらおうな。
ティナの後ろをついていくと、昨日アリエスさんに呼び出されて酒をご馳走になった場所についてしまった。
そこではアリエスさんの期待の籠った目と、クレイさんの『申し訳ないね』という優し気な目が待っていた。
「大したものは作れませんでしたが、これで勘弁してくださいね。あっちから調味料も何ももってこれなかったので、次は持ってきますよ」
「無理をさせちゃったみたいで悪いわね」
「いえいえ。お母さんの頼みならこれくらいは」
「えっ?」
「はい?」
「わ、私を、お母さんって呼んでくれるのですか?」
「はい。ティナのお母さんですし、俺にとってもアリエスさんはお母さん、クレイさんはお父さんになるんですよね? 違いましたか?」
ティナは何やら俺の隣でニヤニヤしてるし。
ちったぁ自重しろよ。
可愛いから許すけどさ。
「いいえ、違わないわ。武士さん、私を本当の母だと思ってくれていいのですよ」
ありゃりゃ。
感極まってなのか、目元に涙浮かべちゃったよ。
あ、クレイさん、ナイスフォロー。
さりげなくアリエスさんの涙拭ってくれている。
って、クレイさんも駄々泣きじゃないですか。
こりゃまいったわ。
「と。とにかく。朝ごはんにしましょう。これ、ティナも美味しいって言ってくれたやつですから」
俺とティナは並んで座って、ジュリエルさんに目配せをした。
すると、彼女はアリエスさんとクレイさん、俺たちの前に取り皿とナイフ、フォークを置いてくれた、
ジュリエルさん、グッジョブ。
俺はアリエスさんの皿を持って、フレンチトーストを取り分ける。
手製のカラメルソースを上からたらりとかけて、アリエスさんの前に置く。
次はクレイさんの分も。
ティナはその間にサラダを取り分けてくれている。
ジュリエルさんはカップにカフェオレを入れてくれていた。
よし、こんなもんだろう。
って、ティナ食うの早すぎ。
「んーっ。武士の作るのってやっぱりおいし」
「はいはい。ありがとな」
「うんっ」
「さ、アリエスさん、クレイさんも。大したものじゃないですけど、食べてみてください」
アリエスさんは初めて食べるもののようで、ティナの真似をして少しだけナイフで切ろうとしている。
「あら? 凄く柔らかいのね」
「はい。パンをミルクと卵、砂糖を混ぜた浸け汁に浸して、バターで焼いただけなんです。その上にかかってるのは、砂糖と水だけをゆっくり熱して作った甘いソースなんです」
「──ほんと。甘いわ。それにふわふわで、面白い食感。上にかかってるソースも甘くて香ばしいですね」
「えぇ、美味しいですね。朝食に甘い物というのは生まれて初めてですが」
よかった。
ティナでわかっていたことだったけど、味覚は同じなんだな。
習慣の違いなのか、それとも民族性なのかはわからんが。
料理がかなーりアバウトなんだな、王家でも。
「このお野菜にかかってるソースは? とても美味しいわ」
「はい。手製のマヨネーズですね。卵の黄身と油、それとお酢ですね。それらをかき混ぜながら塩と胡椒で味をつけた、ドレッシングみたいなものです」
「ティナ、あなた毎日こんなに複雑で美味しいものを食べてたの?」
「うんっ。武士はね、料理の仕事もしてたんだって。今はあっちで酒場をやってるんだよ」
酒場っていっても、結構適当なんだけどな。
麗華さんの店みたいにきちんとしたメニューもないし。
あ、あっちも創作ダイニングだったから、毎日メニュー替えてたっけ。
カフェオレはあえて砂糖を入れなかった。
それでもこっちでコーヒーを飲み慣れてるみたいだから、普通に飲んでもらえたみたいだ。
「武士さん」
「はい」
「息子が作った料理っていいものですね。ティナは料理などできま──」
「あーっ。あたいね、武士に教わって少しは料理できるようになったんだよ? ね、武士」
「はい。ティナも最近は下ごしらえを手伝ってくれるようになったんです。一緒に料理を作って、一緒に食べる。俺も長いことひとりだったので、毎日が楽しかった……、です」
やべ、ほろっときちまった。
上向いて、涙流れないように誤魔化さないと。
ってティナ、そのニヤッとした表情はなんだ?
ありがたいと思ってるよ。
俺の大切な嫁さんだからな。
負けた気になるから、まだ言ってやらないけど。
朝食が終わってアリエスさんは機嫌良さそうにしていた。
すると、クレイさんが何やらティナに耳打ちをしてるぞ。
「お母さん。美味しかったでしょ?」
「そうね。こんなに料理の上手な息子ができて、私も嬉しいわ」
「でしょー。武士のこともっと教えてあげるから、お母さんの部屋行っていい?」
「聞きたいわ。こんなに可愛い息子ができたんですもの」
可愛いって、アリエスさんから見たらそうなっちまうんかね。
ティナはアリエスさんの背中を押しながらここから出ていった。
振り返ってクレイさんに手を振っているみたいだけど。
クレイさんが俺の目の前に座り直した。
「あのね、武士君。話しておきたいことがあるんだ」
「は、はい」
何だろう?
俺はちょっと気を引き締めてクレイさんの話を聞くことにした。
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