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第15話 冥途さんの元ご主人様?
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第十五話 冥途さんの元ご主人様?
『あなたねっ? 今のオルティアの雇い主はっ?』
初対面の俺にびしっと指を差してそう言った。
どこぞのお嬢様っぽい女の子。
燃えるような真紅の瞳。
瞳の色と同じ、真っ赤なフリフリのドレス。
流れるようなブラウンの長い髪。
あぁこれは駄目なパターンかも。
後ろにいるシルヴェッティさん。
手を合わせてすっごく申し訳なさそうにしていた。
「あの、確かに先日俺が雇いましたが。何か不都合でもありましたか?」
「いいえ。そんなことはないのよ。あたしはね、『お暇をいただきます』って置手紙をして、出て行っちゃったオルティアが元気かどうか、探しに来ただけなんだからね」
もしかして、これ。
ツンデレか?
出て行っちゃった、って……。
オルティア、この子の家から逃げてきたのか?
だからここまで歩いてきたってことなのか?
シルヴェッティさんの横にいる老紳士は、おそらく付き人かなんかだろう。
彼女と同じようにペコペコと頭を下げて、非常に申し訳なさそうにしてくれている。
「シルヴェッティさん、いったいどうなってるんですか?」
「ごめんなさい。この方は、ギルドもお世話になってる名家のお嬢様なんです……。なので、断り切れなくて……」
なるほど。
上得意のお客様ってことか。
ギルドの建物の入り口に、やたらと豪華な馬車があったなとは思ってたんだ。
なるほど。
『不運』発動ってことなのね……。
よし、覚悟を決めましょうか。
「わかりました。お話をお伺いしましょう。初めまして。俺はソウジロウと申します。失礼ですが、お名前を伺ってもよろし──」
「さぁ、連れて行きなさい」
「はい?」
その子は右手を俺の前に優雅に差し出してくるんだけど。
笑顔は確かに可愛らしい。
ただその笑顔にはなんらかの強制力があるような気がしてならない。
目を離せないんだよ。
こんなこと、生まれて初めてだ。
「聞こえなかったかしら? あなたにエスコートさせてあげるって、言ってるのよ?」
はい、やっぱり残念な子でした。
話聞きゃしませんわ。
仕方ない、覚悟を決めたんだ。
ただね、この子もオルティアに負けず劣らず。
ちっこいのよ。
仕方なく俺は、少し腰を折って。
左手を背中に回して、俺は右手を差し出した。
旅館時代に海外のVIPのお嬢さんを部屋までエスコートしたことはあった。
そのときのように、その子の手を受けることにした。
「どうぞ」
「あら。よくわかってるじゃないの。よろしくてよ。セバスレイ。馬車を」
「はい。お嬢様」
セバスチャンじゃないのね。
ただこの人、間違いなく執事さんだな。
それもかなり苦労してるとお見受けした。
俺は目礼で『お疲れ様です』と伝えたつもり。
苦笑したセバスレイさん。
あぁ、なんとなく通ずるものがあるな。
旅館の副支配人と執事って似たところがあるから。
「ソウジロウ様。申し訳ありませんでした」
「いいえ。うちのお客様として丁重にもてなしますから。ご安心ください」
俺はセバスレイさんに続いてお嬢様をエスコートした。
歩いても近いんだけど馬車で行くことになったよ。
いや、豪華だね。
客車の椅子に柔らかいクッション性の高いものが敷いてあるし。
足元なんて、絨毯みたいな素材の敷布。
車内も香りがよく、居心地は最高ともいえるな。
「……ふぅ。ここらでいいかしら?」
「はい?」
俺は彼女を見ると、彼女の姿が少しぶれたような気がした瞬間。
あれ?
あっという間に、シルヴェッティさんより少し若い感じの女性になっちゃったよ。
ぺったんこだった胸も、どーんと。
オルティアと同じくらいに大きくなってるし。
身長も俺より二十センチくらい低い感じか?
彼女は首をコキコキと鳴らさんばかりに、ストレッチをすると。
右手で肩のあたりを揉んでるし。
「あの姿、肩が凝るのよね。でも、あの方が話を聞いてもらいやすいのよ」
「は、はい?」
「こっちが本来の姿。さっきのは擬態よ。言葉遣いも噛まないようにするのが面倒で……」
なんだこの駄目お嬢様。
女神様に雰囲気が似てるぞ。
違うのは目元じゃなく口元に黒子があるくらいか?
顔は似てるわけじゃないけど、駄目さ加減がそっくりだわ。
こりゃセバスレイさん。
苦労してるはずだよ。
「あ、そこを左です」
あっさり着いちゃったよ。
歩いても十分程の距離だからね。
馬車から俺が先に降りて、手を差し伸べる。
前よりはエスコートしやすいけど。
なんか、調子狂っちゃうよな。
「オルティア」
「はい。お帰りなさいまセ。旦那様……。げっ。なんでカームお嬢様がここにっ?」
げっ、って言ったよね、今。
げっ、って。
素が出てるのか、それとも驚いたのか。
「オルティア、久しぶりね」
「いえ、違います。私はオルティアなんて名前ではありませン」
「諦めようよ。俺もちょっと諦めた」
「……かしこまりましタ」
うちのリビングで優雅にお茶を飲んでるお嬢様。
クレーリアちゃんもジェラル君いないみたいだね。
ある意味よかったかも。
お嬢様の後ろでセバスレイさんが、ひたすら申し訳なさそうにしてるし。
「オルティア、この方は?」
「はイ。私が以前いました。お屋敷のお嬢様でス」
「あたしは、カーミリア・リム・アルドバッハ。よろしくね、流浪の民のソウジロウ・カツラ様」
うげ、バレてるのか。
全て調べがついてるってことかいな。
こりゃ隠しても仕方ないってことなんだな。
「それで、カーミリア様。どのようなご用件でしょうか?」
「あら、カーミリアでいいわよ。ん? あら、とてもいい香りがするわね」
「このコーヒーですか?」
ついいつもの癖で、カーミリアさんの目を見てしまった。
目を見て話すが、仕事でお客様をもてなす礼儀だったもんで。
つい。
あ。
これ、絶対にやばい。
彼女の目に引き込まれる感覚がある。
「いいえ。あなたからよ。ソウジロウ様」
「旦那様、逃げてください。カームお嬢様っ。初対面の旦那様に魅了を使うのは失礼ですよっ!」
いや逃げられませんって。
一応オルティアは抗議してくれたけど。
もう後の祭り。
え?
彼女の顔が俺の顔に近づいてくる。
まさか挨拶でキスをする習慣でもあるのか?
俺、キスしたことないんだけど。
と、思ったときだったよ。
「いただきます」
その嬉しそうな声は、駄目なやつだった。
もう少しで唇同士が触れ合ってしまう。
と。
横にするりとずれて。
俺の首筋にかぷり。
ちょっとした痛み。
身体から何かがごそっと抜けて行く感覚。
「んっ。んっ。嘘っ。すっごく美味しい……。こんなに美味しいの、生まれて初めてよ。とても薫り高くて、濃い味わい。喉越しも、するっと通るくらいに雑味が全くないわ。おかわり、いただきます」
これって、血を吸われてる?
ってことは、カーミリアさん。
吸血鬼かっ!
唇の感触は凄く気持ちいい。
身体がぽっと温かくなるっていうか。
やば。
このままだとち〇こがやばい。
「……ぷぁ。ごちそさまでした。とてもおいしゅうございました」
「旦那様っ! 具合悪くありませんか?」
「いや。大丈夫だけど。これくらいじゃ大したことないから」
また『いただきます』されてるし。
キングリザードといい、このお嬢様といい。
美味しい物を食べたいという俺の希望とは、明後日の方向に進んでるような気がするよ……。
それにやばかったのは違う方だよ。
危うくおっきしてしまうところだった。
きゅるるる
あ、造血まで早くなるのか。
腹減ってきちゃったよ。
「オルティア、悪いけど何か食べるものを。腹が減って死にそうになってきた」
「はいっ。今すぐお持ちしますっ」
いつものイントネーションはリラックスしてるときなんだね。
「ソウジロウ様」
「はい?」
「ごめんなさい。あまりにもいい匂いで。その。我慢できなくなってしまって……」
「カーミリアさん。吸血鬼だったんですね?」
「吸血鬼だなんて無粋な呼び方をしないでくださいまし。もっと優雅にヴァンパイアとお呼びください。……それよりも、もうひと口いいかしら? あんなに美味しいの、初めてだったんです……」
そんな、頬を染めて言わなくても。
まるで俺がなんかいけないことをしちゃったみたいじゃないか。
「あの。もしかして、オルティアが逃げ出したのって」
「はい。私、吸血衝動に駆られると、我慢できなくなってしまうの。彼女、首、気にしてるでしょう? 小さい頃から嫌々吸わせてくれてたんですけど。先日ついに、逃げられちゃったんです……」
そういう裏があったわけなのね。
歩いてきたというのは、移動の痕跡を誤魔化すためでもあったわけだ。
『あなたねっ? 今のオルティアの雇い主はっ?』
初対面の俺にびしっと指を差してそう言った。
どこぞのお嬢様っぽい女の子。
燃えるような真紅の瞳。
瞳の色と同じ、真っ赤なフリフリのドレス。
流れるようなブラウンの長い髪。
あぁこれは駄目なパターンかも。
後ろにいるシルヴェッティさん。
手を合わせてすっごく申し訳なさそうにしていた。
「あの、確かに先日俺が雇いましたが。何か不都合でもありましたか?」
「いいえ。そんなことはないのよ。あたしはね、『お暇をいただきます』って置手紙をして、出て行っちゃったオルティアが元気かどうか、探しに来ただけなんだからね」
もしかして、これ。
ツンデレか?
出て行っちゃった、って……。
オルティア、この子の家から逃げてきたのか?
だからここまで歩いてきたってことなのか?
シルヴェッティさんの横にいる老紳士は、おそらく付き人かなんかだろう。
彼女と同じようにペコペコと頭を下げて、非常に申し訳なさそうにしてくれている。
「シルヴェッティさん、いったいどうなってるんですか?」
「ごめんなさい。この方は、ギルドもお世話になってる名家のお嬢様なんです……。なので、断り切れなくて……」
なるほど。
上得意のお客様ってことか。
ギルドの建物の入り口に、やたらと豪華な馬車があったなとは思ってたんだ。
なるほど。
『不運』発動ってことなのね……。
よし、覚悟を決めましょうか。
「わかりました。お話をお伺いしましょう。初めまして。俺はソウジロウと申します。失礼ですが、お名前を伺ってもよろし──」
「さぁ、連れて行きなさい」
「はい?」
その子は右手を俺の前に優雅に差し出してくるんだけど。
笑顔は確かに可愛らしい。
ただその笑顔にはなんらかの強制力があるような気がしてならない。
目を離せないんだよ。
こんなこと、生まれて初めてだ。
「聞こえなかったかしら? あなたにエスコートさせてあげるって、言ってるのよ?」
はい、やっぱり残念な子でした。
話聞きゃしませんわ。
仕方ない、覚悟を決めたんだ。
ただね、この子もオルティアに負けず劣らず。
ちっこいのよ。
仕方なく俺は、少し腰を折って。
左手を背中に回して、俺は右手を差し出した。
旅館時代に海外のVIPのお嬢さんを部屋までエスコートしたことはあった。
そのときのように、その子の手を受けることにした。
「どうぞ」
「あら。よくわかってるじゃないの。よろしくてよ。セバスレイ。馬車を」
「はい。お嬢様」
セバスチャンじゃないのね。
ただこの人、間違いなく執事さんだな。
それもかなり苦労してるとお見受けした。
俺は目礼で『お疲れ様です』と伝えたつもり。
苦笑したセバスレイさん。
あぁ、なんとなく通ずるものがあるな。
旅館の副支配人と執事って似たところがあるから。
「ソウジロウ様。申し訳ありませんでした」
「いいえ。うちのお客様として丁重にもてなしますから。ご安心ください」
俺はセバスレイさんに続いてお嬢様をエスコートした。
歩いても近いんだけど馬車で行くことになったよ。
いや、豪華だね。
客車の椅子に柔らかいクッション性の高いものが敷いてあるし。
足元なんて、絨毯みたいな素材の敷布。
車内も香りがよく、居心地は最高ともいえるな。
「……ふぅ。ここらでいいかしら?」
「はい?」
俺は彼女を見ると、彼女の姿が少しぶれたような気がした瞬間。
あれ?
あっという間に、シルヴェッティさんより少し若い感じの女性になっちゃったよ。
ぺったんこだった胸も、どーんと。
オルティアと同じくらいに大きくなってるし。
身長も俺より二十センチくらい低い感じか?
彼女は首をコキコキと鳴らさんばかりに、ストレッチをすると。
右手で肩のあたりを揉んでるし。
「あの姿、肩が凝るのよね。でも、あの方が話を聞いてもらいやすいのよ」
「は、はい?」
「こっちが本来の姿。さっきのは擬態よ。言葉遣いも噛まないようにするのが面倒で……」
なんだこの駄目お嬢様。
女神様に雰囲気が似てるぞ。
違うのは目元じゃなく口元に黒子があるくらいか?
顔は似てるわけじゃないけど、駄目さ加減がそっくりだわ。
こりゃセバスレイさん。
苦労してるはずだよ。
「あ、そこを左です」
あっさり着いちゃったよ。
歩いても十分程の距離だからね。
馬車から俺が先に降りて、手を差し伸べる。
前よりはエスコートしやすいけど。
なんか、調子狂っちゃうよな。
「オルティア」
「はい。お帰りなさいまセ。旦那様……。げっ。なんでカームお嬢様がここにっ?」
げっ、って言ったよね、今。
げっ、って。
素が出てるのか、それとも驚いたのか。
「オルティア、久しぶりね」
「いえ、違います。私はオルティアなんて名前ではありませン」
「諦めようよ。俺もちょっと諦めた」
「……かしこまりましタ」
うちのリビングで優雅にお茶を飲んでるお嬢様。
クレーリアちゃんもジェラル君いないみたいだね。
ある意味よかったかも。
お嬢様の後ろでセバスレイさんが、ひたすら申し訳なさそうにしてるし。
「オルティア、この方は?」
「はイ。私が以前いました。お屋敷のお嬢様でス」
「あたしは、カーミリア・リム・アルドバッハ。よろしくね、流浪の民のソウジロウ・カツラ様」
うげ、バレてるのか。
全て調べがついてるってことかいな。
こりゃ隠しても仕方ないってことなんだな。
「それで、カーミリア様。どのようなご用件でしょうか?」
「あら、カーミリアでいいわよ。ん? あら、とてもいい香りがするわね」
「このコーヒーですか?」
ついいつもの癖で、カーミリアさんの目を見てしまった。
目を見て話すが、仕事でお客様をもてなす礼儀だったもんで。
つい。
あ。
これ、絶対にやばい。
彼女の目に引き込まれる感覚がある。
「いいえ。あなたからよ。ソウジロウ様」
「旦那様、逃げてください。カームお嬢様っ。初対面の旦那様に魅了を使うのは失礼ですよっ!」
いや逃げられませんって。
一応オルティアは抗議してくれたけど。
もう後の祭り。
え?
彼女の顔が俺の顔に近づいてくる。
まさか挨拶でキスをする習慣でもあるのか?
俺、キスしたことないんだけど。
と、思ったときだったよ。
「いただきます」
その嬉しそうな声は、駄目なやつだった。
もう少しで唇同士が触れ合ってしまう。
と。
横にするりとずれて。
俺の首筋にかぷり。
ちょっとした痛み。
身体から何かがごそっと抜けて行く感覚。
「んっ。んっ。嘘っ。すっごく美味しい……。こんなに美味しいの、生まれて初めてよ。とても薫り高くて、濃い味わい。喉越しも、するっと通るくらいに雑味が全くないわ。おかわり、いただきます」
これって、血を吸われてる?
ってことは、カーミリアさん。
吸血鬼かっ!
唇の感触は凄く気持ちいい。
身体がぽっと温かくなるっていうか。
やば。
このままだとち〇こがやばい。
「……ぷぁ。ごちそさまでした。とてもおいしゅうございました」
「旦那様っ! 具合悪くありませんか?」
「いや。大丈夫だけど。これくらいじゃ大したことないから」
また『いただきます』されてるし。
キングリザードといい、このお嬢様といい。
美味しい物を食べたいという俺の希望とは、明後日の方向に進んでるような気がするよ……。
それにやばかったのは違う方だよ。
危うくおっきしてしまうところだった。
きゅるるる
あ、造血まで早くなるのか。
腹減ってきちゃったよ。
「オルティア、悪いけど何か食べるものを。腹が減って死にそうになってきた」
「はいっ。今すぐお持ちしますっ」
いつものイントネーションはリラックスしてるときなんだね。
「ソウジロウ様」
「はい?」
「ごめんなさい。あまりにもいい匂いで。その。我慢できなくなってしまって……」
「カーミリアさん。吸血鬼だったんですね?」
「吸血鬼だなんて無粋な呼び方をしないでくださいまし。もっと優雅にヴァンパイアとお呼びください。……それよりも、もうひと口いいかしら? あんなに美味しいの、初めてだったんです……」
そんな、頬を染めて言わなくても。
まるで俺がなんかいけないことをしちゃったみたいじゃないか。
「あの。もしかして、オルティアが逃げ出したのって」
「はい。私、吸血衝動に駆られると、我慢できなくなってしまうの。彼女、首、気にしてるでしょう? 小さい頃から嫌々吸わせてくれてたんですけど。先日ついに、逃げられちゃったんです……」
そういう裏があったわけなのね。
歩いてきたというのは、移動の痕跡を誤魔化すためでもあったわけだ。
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