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第8話 住むところを決めよう。

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 食事を終えて、お茶を飲んでいた。
 このお茶も、結構いい茶葉を使っているみたいだ。
 ……けど、俺はコーヒーが恋しい。
 いつか探さないとな。
 日本から来てる人がいるとわかった以上、絶対にあるはずだから。

「うん。美味しかったね」
「はい。あの」
「なんだい?」
「ソウジロウさんは、この後どうされるのですか?」
「あぁ。んっとね。俺は暫くこの国にいるつもりだよ。別に他の国には用事はないし。でもね、宿を借りるのもなんだな。と思うから。いっそ家を借りてもいいかな、って思ってる。どこかそういうところを紹介してくれる場所、知ってるかな?」
「はい。大丈夫です」
「なら案内してくれると助かるよ」
「お任せください」

 俺が席を立とうとすると、さっきの給仕の女性が来てくれる。

「お会計お願いできますか?」
「はい。大銀貨、三枚になりますが」

 俺はポーチ入っているカードを取り出す。

「ではこれでお願いします」
「はい。お預かりします。少々お待ちくださいませ」

 女性が戻っていくと、クレーリアちゃんが申し訳なさそうにしている。
 あ、ジェラル君は固まってたね。
 そりゃそうだ。
 今日二人が稼いだお金全額だもんな。

「気にしなくてもいいよ。俺が誘ったんだし。二人には世話になったからね」
「はい。ありがとうございます」
「ありがとう……」

 カードをもらって、俺たちは店の外へ。

 クレーリアちゃんとジェラル君は、迷うことなく目的地へ歩いてくれている。
 十六歳と十五歳にしてはしっかりしてるよね。
 二人はとある建物の前で足を止めた。

「ここです。私たちが借りてる部屋もここで紹介していただいんたんですよ」
「ほうほう、では入ってみますか」

 硝子戸を開けて入っていく。
 不動産屋さんというより、なんだろう。
 商品が置いてあるわけじゃないから。
 なんらかの仲介業という感じなのかな?

「いらっしゃい。おや、クレーリアちゃんとジェラル君じゃないか」
「はい。エライジェアさん。お家賃を納めに来たのとですね、部屋を探してるこの方をお連れしたんです」
「あらま。私はこの商会のエライジェア。どんな部屋を探してるんだい?」
「俺はこの子たちと同じ探検者のソウジロウというものです」

 俺は迷わずカードを提示する。

「あれま、珍しい。かなり上の人なんだね」
「いえ。それほどでもありません」
「ミランダ。ミランダ。この子たちの家賃。受け取っておくれ」
「はい。おかみさん」

 奥から出てきた若い女性。

「クレーリアちゃん。お久しぶり」
「ミランダお姉さんも。はい、先週の分です」

 クレーリアちゃんもカードを提示する。
 便利なもんだよな。

「はい。では銀貨十枚いただくわね」
「お願いします」

 一部屋、一週間で一万円程度か。
 月、四万円ちょっと。
 ぎりぎりの生活じゃないか。
 それでも宿を借りるよりは安く済んでるのかもしれない。

「そうですね。値段によっては買ってもいいと思っています。出ものがあればご紹介お願いしたいんですが」
「そうだね。今あるのは、これとこれ。この三つなら責任もって紹介できるし、お買い得だと思うよ?」

 ひとつは一軒家。
 部屋は三つほど。
 もうひとつも一軒家。
 部屋数は七つほど。

「ところで、この二つの物件ですが。上物。あ、建物だけですか? それとも土地も一緒に?」
「あぁ。土地の権利も一緒だよ」
「なるほど。では、こっちの一軒家を案内してもらえますか?」

 俺は七部屋ある方を選んで案内してもらうことにする。

「はいよ。ミランダ、ちょっと行ってくるわ」
「はい、いってらっしゃい」
「あの。私たちも見に行ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わないよ」

 クレーリアちゃんは何やら言いたそうにしてるな。
 彼女が言わない限り、俺から聞いてやることはしない方がいいだろう。
 彼女はしっかりした子だ。
 俺は、その時が来たら話してくれると信じてるからね。

 エライジェアさんの後ろを歩くこと十分くらいだったか。
 繁華街の外れにある、古いけどしっかりとした造りの家。
 レンガのような石材で組まれていて、ちょっとおしゃれな洋館にも見える。

 エライジェアさんは、ドアの横にある装置に黒いカードをかざした。
 すると『がちゃり』と音をたてて、鍵が開いたみたいだ。

「さぁ。入っておくれ。ここはいい物件だよ」

 綺麗に掃除はされているが、よくある人が住んでいない匂いってやつかな。
 そんな嫌な匂いがしている。

 家具類なんかも全く入っていない。
 全ての部屋を見て回ったが、ベッドなんかも買わないと駄目だろうな。
 うん。
 ここを買うなら、家政婦さんを雇わないと駄目だろう。
 俺一人じゃ掃除までできやしないからな。

「どうだい? 気に入ったかい?」
「はい。ですが、ここはおいくら程なんでしょう?」
「金貨二百枚ってところかな」

 窓から見える庭も、草がぼうぼう。
 家自体は管理されてたみたいだけど、雑草までは無理か。

「いいでしょう。買わせていただきます」
「よかったよ。ここはね、以前。没落した貴族の別宅だったんだよ。昔はここに妾さんを住まわせて。ぶいぶい言わせてた人だったんだけどねぇ」

 なんつ、痛い話。
 俺は苦笑くらいしかできないじゃないか。

「なるほど。いい家ですね」

 そんなときだった。
 待ってたアクションがあった。

「あの。ソウジロウさん」
「なんだい?」
「お話だけでも聞いていただけないでしょうか?」
「いいよ」
「はい?」
「部屋を借りたいっていうんだろう? 構わないよ」
「なぜ、それを?」
「いや。普通に考えたらわかるよ。クレーリアちゃんも、ずっと何かいいたそうな表情してたし。消去法で考えたら、もしかしたらそうかな、とね」

 にっっと笑い返してあげる。

「……申し訳ありません。私とこの子で、月に銀貨二十枚から三十枚がギリギリなのです。お家賃を払うと、食費がその」
「だからいいって。貸してあげるよ。こんなに部屋があるんだ。余っちゃうからね」

 これは俺が待っていた彼女の行動だった。
 俺たちのやりとりをみていたエライジェアさんが、やけににやにやしてやがんの。
 言うなよ?
 絶対に言うなよ?

「このひとはね。最初からそのつもりだったみたいだね。小さい方じゃなく、大きい方を見に来た。本当に、気持ちのいい男だよ。でもいいのかい?」

 あぁ言っちゃったよ……。
 この人もこの子たちを心配してたりしたんだろうな。

「えぇ。俺は以前、そこそこ大きな宿屋で支配人をしていました。そのせいか。人を見る目だけは養えたと思っています。この子たちは、いい子だ。俺を助けてくれたし。俺を騙すような子じゃないこともわかっているんです」

 俺はクレーリアちゃんとジェラル君の頭をわしわしと撫でる。
 クレーリアちゃんは目を細めて気持ちよさそうに。
 ジェラル君は何やら照れくさそうにしていた。

「しかし。ただという訳にはいかない。もちろん、お金はもらうよ。そうだね。ひとり週に銀貨一枚。月に銀貨四枚ってところかな?」
「えっ? そんなに安くていいのですか?」
「その代わりと言っちゃなんだが。君たちは探検者だ。安い依頼でも受けること。人が嫌がる依頼もなるべく受けること。それが約束できるなら、貸してあげなくもない、かな?」

 一階には家主が使っただろう大部屋がある。
 俺はそこを使うつもりだ。
 二階には使用人の部屋だろう。
 六室あったから、それをジェラル君とクレーリアちゃん。
 それぞれ一部屋ずつ使ってもらう予定だ。
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