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第二章:浸透

敵は誰か(5)

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「他に質問や意見はありませんか? ……ないようですので、これにて決議をとりましょう」

 宰相が質疑を打ち切り、議事にしたがって決議がとられる。
 やはりというか、発言こそしなかったものの反対意見を持つ貴族もいくらかおり、反対の挙手もいくらかあった。
 しかし、その人数はまばらで。宰相が賛成の挙手を促すと、明らかに多くの手が挙がった。
 比率でいえば、とくに下級貴族の反対が少なかったように見える。

「それでは、賛成の数が規定を超えたため。本議案は可決といたします」

 こうして、一時は失敗を覚悟しながらも、なんとか決闘法の廃案を可決させることができた。

「最後にステラリア令嬢、一言あればお願いいたします」

 宰相から水を向けられ、帝国貴族たちの視線が一斉に私へと向く。
 私はそれらの視線が当初より少し和らいだような雰囲気を感じつつ、ひとつ深呼吸して。

「この度は私の起案した議案を可決してくださり誠にありがとうございます。これを機に、帝国がより一層発展することを願っております」

 ここまでは事前に用意していた文言。
 ……ここからは完全に思いつき。

「皆様と対話する中で、私はまだ帝国の国母を担うために必要な多くのことが不足していると痛感しました。今後も帝国の発展のために尽力してまいりますので、皆様のご指導をよろしくお願いいたします」

 それと同時に、優雅な一礼。
 これが心からの発言であることを示すように。

「俺からも一言」

 私が礼を解いたと同時に、レイジ殿下もそう言って立ち上がる。

「今回の件で、皆もステラリア令嬢が心から帝国の発展のために行動していることが理解できたと思う。たしかに彼女はイクリプス王国の出身であり、帝国と長年敵対してきた存在ではある。しかし戦争が終結した今、彼女を敵視するのはお門違いというものだ。両国の友好の証として、帝国民が持つ不満は彼女自らが払しょくしてくれるだろう。いずれ皆がそれを受け入れてくれることを期待したい」

 ふっと視線が重なる。殿下の視線に熱いものを感じ、私の頬が熱を帯びるのを感じる。

「では、ステラリア令嬢はご退出ください」

「え、ええ。失礼いたします」

 それ以上殿下と視線を合わせることはできず、護衛に促されるまま急ぎ足でその場をあとにした。


 その後、なんとかして控室に戻った私は、クラリスとともに議場をあとにして自室にまで帰り着いたはず……なのだが、どうやって帰ったのかまったく覚えていなかった。
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