122 / 135
#5
33 : Lynn
しおりを挟む
その言葉を聞いて、血の気が引いた。
体が冷たく冷えていく感覚に身を震わせる。
「冗談でしょう、ハイジ」
「冗談ではないな。それが理想だと思っているだけだ」
「ハイジ!」
「怒るな。気持ちはわかる。おれも、師匠に命じられた時はひどく抵抗があったからな。ヨーコたちの力を借りなければ、到底できなかったろう」
ハイジはあたしを真っ直ぐに見つめながら、ふ、と笑った。
「だが……師匠が死んで、経験値や能力を受け継いで、全てが終わったあと、おれはそれまでよりもずっと師匠を身近に感じるようになった。力なんてものは二の次だ。鍛えなおせばいいだけだし、残り少ない師匠の命と引き換えにするほどの価値はなかった。おれにとっては」
「だからって……あたしにそれをさせるつもり?」
「無理強いはせんよ。ただ、もう自分の気持ちを後回しにする必要がなくなったというだけだ」
「……それは、もう死ぬことが決まっているから?」
「そう言えなくもない。だが、死ぬこと自体はあまり関係ない」
「……わからないわ」
「どちらかと言えば、義務から解放されたことが大きい。それまでは役目に無関係なことは、思うことすら許されなかった」
「そんな……」
「自分の感情を直視しても構わないというのは、なかなか良いものだな」
そういうハイジは、ひどく穏やかだった。
いつもどこか張り詰めていたのが嘘のように、柔らかく笑っている。
「……そんなこと、一言も言ってなかったじゃない」
「だから、それすら許されないほどに、おれの人生は契約に縛られていたんだ。その事自体には不満はない。もしもう一度あの時に戻ったとして……おれはきっと同じように精霊に祈るだろう。後悔はない」
「でも、でも……それじゃあ、ハイジの人生じゃないじゃない!」
「そのとおりだ。おれの人生はおれのものじゃなかった––––今までは」
そんなハイジを見て湧き上がる感情は怒りだった。
誰かのために生きると言ったって、物事には限度というものがある。
ハイジが犠牲にしてきたものは、本来犠牲にしてはいけないものだ。
「……そう怒るな。言っておくがこれは、例えば自己犠牲などといった高尚なものではないんだ。なにせ俺が望んだ結果で––––強要されたものではないからな。言ってみれば、おれの我儘だった」
「嘘よ、だって本当にそうなら何故今、解放されたと感じてるの?」
「お前が居たからだ、リン」
「……あたし?」
なぜそこであたしの名前が出てくるのだ。
「あたしに何の関係があるのよ」
「それを説明する前に、まずは謝罪しておこう。おれは人の気持ちを理解するのが下手なようだ。役目のせいでもあるが、元来、あまり気の利く方ではないようだ」
「それはそうね。でも……ハイジは誰よりも優しかったよ」
「そんな風に言うのはお前くらいだ。だが、理解してやれなくて済まなかったと思っている。特に、一人でエイヒムから歩いて帰ってきたことがあるだろう」
「あるわね」
「あの時に、俺のことを好きだと言ったろう」
「そ、そそそ、そうね」
「おれはあの時まで、お前の気持ちに気づいていなかった」
「…………」
それは……流石に唐変木が過ぎるのではないだろうか。
いや、サーヤのときもそうだったらしいし、ハイジらしいと言えばハイジらしいのだが……。
「いくら何でも酷くない? じゃあ、なぜあたしが貴方に着いていこうとしていると思ってたの?」
「わからなかった。いや、気づかないようにしていたのかもしれんな」
「何故?」
「気づいてしまえば……お前を手放さなくてはならないと思ったからだ」
「え」
「お前と過ごした数年は、本当に楽しかったよ、リン」
うぐ、と言葉をつまらせる。
それでは本当に居なくなってしまうようではないか。
あたしは未だに、ハイジが死ぬということを認めたつもりはない。
ましてや、あたしがハイジを殺すなどということを認めるわけがない。
だが、ハイジはすでに死を受け入れていて、初めて自分の気持ちで話をしているのがわかる。
(そんなの)
(そんなの、嫌だ)
「ハイジ……あたし、貴方が死ぬことを認めないわ」
「認めるも認めないも、ただの事実だ」
「なにか生き残る方法があるかもしれない」
「そんなものはないし、それに……正直特に生き残りたいと思っているわけでもないんだ。戦場で死ぬのではなく、こうして数日好きに過ごす時間が与えられた。悪くない終わりだと思ってるよ」
「あたしはどうなるのよ!」
自分勝手な言い分に、思わず声を荒げる。
「遺された人の気持ちは?! サーヤは? ヘルマンニやペトラ、それにヴィーゴさんの気持ちはどうなるの! それに、ユヅキや、他の『はぐれ』たちだって!」
「そうだな、それもある。お前だけでなく、サヤやユヅキ、ほかにも数人、俺のことを好きだと言った『はぐれ』の女がいた。慕ってくれる者も多かった」
「わかってるんじゃないの!」
告白したサーヤはともかく、ユヅキのことも気づいてるんじゃないか!
っていうか、何でこんな熊みたいな大男がモテまくりなんだ?!
ってあたしもか!
「だが、どうしようもない。それに応えることなどできるはずもないし、申し訳ないが保護対象としか見られなかった」
「そ、そんなふうに感情を消してしまえるものなの? いくらなんだってそんな……」
「優先順位の問題だ。死と引き換えにするほど、一人ひとりに対する感情は強くない。むしろ、優先順位が変わらないように、ヴィーゴたちとの付き合いも絶ったくらいだ」
「酷い……!」
「ああ。自分勝手だとおれも思う。だが、それがおれだ。精霊のせいなんかじゃない。契約があろうとなかろうと、そういうふうにしか出来ないんだ」
「酷いと言ったのは、そういうことじゃなくて!」
腹が立って仕方がなかった。
自分でも言っていたが、この男のこれは、自己犠牲でもなんでもない。
ただ、人と交わるのが怖いだけだ。
「あたしが怒っているのは、精霊に対してでも、運命に対してでもないわ! それを受け入れてしまっているハイジの弱さによ!」
「うむ、ヘルマンニにもよく言われたな」
「……ねぇ、ハイジ、あなた、幸せを感じたことはある?」
ハイジの気負わない態度が気に入らない。
だが、それ以上に悲しかった。
この人は、これまでに幸せを感じたことが一度もないのではないか。
むしろ、幸せを感じることを罪だと、そんなふうに思っている。
だが、予想に反して、ハイジは答えた。
「ある」
「ある? そんな生き方をしてて、どうやって幸せを感じるってのよ」
「そうだな……」
ハイジがじっとあたしを見つめる。
「な、何?」
「お前と過ごす日々は、幸せだったぞ」
「な?!」
カッ、と顔が赤くなるのがわかった。
しかも、直視しながら言うなんて!
「見るな!」
「……何故顔を隠す」
「は、恥ずかしいからよ!」
「意味がわからん……」
ハイジは困惑したように首を左右に降ったが、何故わからないのか。
しかし、指先に額の角の感触が当たり、気持ちがすっと沈んだ。
「……こんな生えた女に、何でそんなことを言うのよ」
「何を言っとるんだ、お前は」
ハイジは呆れたようにそう言うと、今度はあたしの角をまじまじと観察し始めた。
「……今は折れているが、なかなか立派な角だったな。間違いなく魔獣の角だ。例外級か、下手をするとそれ以上か」
「なによ、そのイレギュラーってのは」
「魔獣の中には、意志を持つものも現れる。数年に一度だが。そうした魔獣は強敵で、強くなれなばるほど立派な角を持つ。こうなると一筋縄では行かん。そうしたモノを例外級と呼ぶ。さらに、それ以上になると特例級で、これが最上位となる。今のお前がそうかもしれんな」
「……ハイジだって、あたしのことを魔獣だと思ってるんじゃない」
「うん? まぁそうだな。というより、もはやお前が『はぐれ』だろうが魔獣だろうが、そんなことはどうでもいい」
「……なんでよ!」
「あと数日で死ぬのにそんなことを気にしてどうする」
「そこはもうちょっと言い方があるでしょうが!」
「例えばどう言えばいいんだ」
「えっ? そ、その、た、たとえば、す、姿形が変わってもお前だからだとか、もう少しこう……何かあるでしょうが!」
わかれ馬鹿! と顔を真赤にして怒鳴ると、ハイジはまたもフ、と笑った。
「笑うな」
「バカバカしい。お前、角が生えてるだけで何も変わってないぞ」
「どういう意味よ!」
「角が生える前からお前はそんな女だったろう」
ハイジはゆっくりと立ち上がると、あたしの傍までやってくる。
「な、何よ」
「じっとしてろ」
そう言ってハイジはあたしの角に手を伸ばした。
思わずギュッと目をつぶる。
なんとなくいきなりボキリと折られるか、引っこ抜かれるような気がした。
「何故怯える?」
「そちらこそ、何をするの?」
「何もしない」
ハイジはあたしの角に手を添えた。
石で砕いた角は根本しか残っていない。
ハイジの大きな手があたしの角に触れる。
「こうして隠してしまえば、何も変わらない」
「そんなこと言ったって、ほっといたら伸びてくるし」
「感情を高ぶらせると伸びるんだろう? なら、少しは落ち着いたらどうだ?」
「酷い言い方……。あたしだって好きで荒ぶってるんじゃないわ」
「それに、角が生えてたって、お前はお前だ。何も変わらない」
ハイジの手が角から離れて、そのままあたしの頭へ移動する。
髪を梳くようにゆっくりと指先が動き、頭を撫でる。
「……ハイジ、何を?」
「嫌か?」
「嫌じゃないわ」
「じゃあじっとしてろ」
なんだろう、これ。
ハイジの無骨な指が、バサっと広がったあたしの髪を愛おしそうに撫でている。
顔はとっくに真っ赤になっているだろう。
でも、嫌ではなかった。
「ふむ……」
「何よぅ」
「やはり魔獣とはいい難いな。どう見ても人間にしか見えない」
(むぅ)
(甘い雰囲気かと思ったら、観察してただけか)
それは少し気に入らなかったが、あたしは言い返した。
「角、生えてるけど」
「魔獣には、悪意と敵意しかないだろう。お前もそうなのか?」
「それは、違うけど……」
「なら、人間だよ、お前は」
そう言ってハイジはそっとあたしの頭を抱き寄せた。
体が冷たく冷えていく感覚に身を震わせる。
「冗談でしょう、ハイジ」
「冗談ではないな。それが理想だと思っているだけだ」
「ハイジ!」
「怒るな。気持ちはわかる。おれも、師匠に命じられた時はひどく抵抗があったからな。ヨーコたちの力を借りなければ、到底できなかったろう」
ハイジはあたしを真っ直ぐに見つめながら、ふ、と笑った。
「だが……師匠が死んで、経験値や能力を受け継いで、全てが終わったあと、おれはそれまでよりもずっと師匠を身近に感じるようになった。力なんてものは二の次だ。鍛えなおせばいいだけだし、残り少ない師匠の命と引き換えにするほどの価値はなかった。おれにとっては」
「だからって……あたしにそれをさせるつもり?」
「無理強いはせんよ。ただ、もう自分の気持ちを後回しにする必要がなくなったというだけだ」
「……それは、もう死ぬことが決まっているから?」
「そう言えなくもない。だが、死ぬこと自体はあまり関係ない」
「……わからないわ」
「どちらかと言えば、義務から解放されたことが大きい。それまでは役目に無関係なことは、思うことすら許されなかった」
「そんな……」
「自分の感情を直視しても構わないというのは、なかなか良いものだな」
そういうハイジは、ひどく穏やかだった。
いつもどこか張り詰めていたのが嘘のように、柔らかく笑っている。
「……そんなこと、一言も言ってなかったじゃない」
「だから、それすら許されないほどに、おれの人生は契約に縛られていたんだ。その事自体には不満はない。もしもう一度あの時に戻ったとして……おれはきっと同じように精霊に祈るだろう。後悔はない」
「でも、でも……それじゃあ、ハイジの人生じゃないじゃない!」
「そのとおりだ。おれの人生はおれのものじゃなかった––––今までは」
そんなハイジを見て湧き上がる感情は怒りだった。
誰かのために生きると言ったって、物事には限度というものがある。
ハイジが犠牲にしてきたものは、本来犠牲にしてはいけないものだ。
「……そう怒るな。言っておくがこれは、例えば自己犠牲などといった高尚なものではないんだ。なにせ俺が望んだ結果で––––強要されたものではないからな。言ってみれば、おれの我儘だった」
「嘘よ、だって本当にそうなら何故今、解放されたと感じてるの?」
「お前が居たからだ、リン」
「……あたし?」
なぜそこであたしの名前が出てくるのだ。
「あたしに何の関係があるのよ」
「それを説明する前に、まずは謝罪しておこう。おれは人の気持ちを理解するのが下手なようだ。役目のせいでもあるが、元来、あまり気の利く方ではないようだ」
「それはそうね。でも……ハイジは誰よりも優しかったよ」
「そんな風に言うのはお前くらいだ。だが、理解してやれなくて済まなかったと思っている。特に、一人でエイヒムから歩いて帰ってきたことがあるだろう」
「あるわね」
「あの時に、俺のことを好きだと言ったろう」
「そ、そそそ、そうね」
「おれはあの時まで、お前の気持ちに気づいていなかった」
「…………」
それは……流石に唐変木が過ぎるのではないだろうか。
いや、サーヤのときもそうだったらしいし、ハイジらしいと言えばハイジらしいのだが……。
「いくら何でも酷くない? じゃあ、なぜあたしが貴方に着いていこうとしていると思ってたの?」
「わからなかった。いや、気づかないようにしていたのかもしれんな」
「何故?」
「気づいてしまえば……お前を手放さなくてはならないと思ったからだ」
「え」
「お前と過ごした数年は、本当に楽しかったよ、リン」
うぐ、と言葉をつまらせる。
それでは本当に居なくなってしまうようではないか。
あたしは未だに、ハイジが死ぬということを認めたつもりはない。
ましてや、あたしがハイジを殺すなどということを認めるわけがない。
だが、ハイジはすでに死を受け入れていて、初めて自分の気持ちで話をしているのがわかる。
(そんなの)
(そんなの、嫌だ)
「ハイジ……あたし、貴方が死ぬことを認めないわ」
「認めるも認めないも、ただの事実だ」
「なにか生き残る方法があるかもしれない」
「そんなものはないし、それに……正直特に生き残りたいと思っているわけでもないんだ。戦場で死ぬのではなく、こうして数日好きに過ごす時間が与えられた。悪くない終わりだと思ってるよ」
「あたしはどうなるのよ!」
自分勝手な言い分に、思わず声を荒げる。
「遺された人の気持ちは?! サーヤは? ヘルマンニやペトラ、それにヴィーゴさんの気持ちはどうなるの! それに、ユヅキや、他の『はぐれ』たちだって!」
「そうだな、それもある。お前だけでなく、サヤやユヅキ、ほかにも数人、俺のことを好きだと言った『はぐれ』の女がいた。慕ってくれる者も多かった」
「わかってるんじゃないの!」
告白したサーヤはともかく、ユヅキのことも気づいてるんじゃないか!
っていうか、何でこんな熊みたいな大男がモテまくりなんだ?!
ってあたしもか!
「だが、どうしようもない。それに応えることなどできるはずもないし、申し訳ないが保護対象としか見られなかった」
「そ、そんなふうに感情を消してしまえるものなの? いくらなんだってそんな……」
「優先順位の問題だ。死と引き換えにするほど、一人ひとりに対する感情は強くない。むしろ、優先順位が変わらないように、ヴィーゴたちとの付き合いも絶ったくらいだ」
「酷い……!」
「ああ。自分勝手だとおれも思う。だが、それがおれだ。精霊のせいなんかじゃない。契約があろうとなかろうと、そういうふうにしか出来ないんだ」
「酷いと言ったのは、そういうことじゃなくて!」
腹が立って仕方がなかった。
自分でも言っていたが、この男のこれは、自己犠牲でもなんでもない。
ただ、人と交わるのが怖いだけだ。
「あたしが怒っているのは、精霊に対してでも、運命に対してでもないわ! それを受け入れてしまっているハイジの弱さによ!」
「うむ、ヘルマンニにもよく言われたな」
「……ねぇ、ハイジ、あなた、幸せを感じたことはある?」
ハイジの気負わない態度が気に入らない。
だが、それ以上に悲しかった。
この人は、これまでに幸せを感じたことが一度もないのではないか。
むしろ、幸せを感じることを罪だと、そんなふうに思っている。
だが、予想に反して、ハイジは答えた。
「ある」
「ある? そんな生き方をしてて、どうやって幸せを感じるってのよ」
「そうだな……」
ハイジがじっとあたしを見つめる。
「な、何?」
「お前と過ごす日々は、幸せだったぞ」
「な?!」
カッ、と顔が赤くなるのがわかった。
しかも、直視しながら言うなんて!
「見るな!」
「……何故顔を隠す」
「は、恥ずかしいからよ!」
「意味がわからん……」
ハイジは困惑したように首を左右に降ったが、何故わからないのか。
しかし、指先に額の角の感触が当たり、気持ちがすっと沈んだ。
「……こんな生えた女に、何でそんなことを言うのよ」
「何を言っとるんだ、お前は」
ハイジは呆れたようにそう言うと、今度はあたしの角をまじまじと観察し始めた。
「……今は折れているが、なかなか立派な角だったな。間違いなく魔獣の角だ。例外級か、下手をするとそれ以上か」
「なによ、そのイレギュラーってのは」
「魔獣の中には、意志を持つものも現れる。数年に一度だが。そうした魔獣は強敵で、強くなれなばるほど立派な角を持つ。こうなると一筋縄では行かん。そうしたモノを例外級と呼ぶ。さらに、それ以上になると特例級で、これが最上位となる。今のお前がそうかもしれんな」
「……ハイジだって、あたしのことを魔獣だと思ってるんじゃない」
「うん? まぁそうだな。というより、もはやお前が『はぐれ』だろうが魔獣だろうが、そんなことはどうでもいい」
「……なんでよ!」
「あと数日で死ぬのにそんなことを気にしてどうする」
「そこはもうちょっと言い方があるでしょうが!」
「例えばどう言えばいいんだ」
「えっ? そ、その、た、たとえば、す、姿形が変わってもお前だからだとか、もう少しこう……何かあるでしょうが!」
わかれ馬鹿! と顔を真赤にして怒鳴ると、ハイジはまたもフ、と笑った。
「笑うな」
「バカバカしい。お前、角が生えてるだけで何も変わってないぞ」
「どういう意味よ!」
「角が生える前からお前はそんな女だったろう」
ハイジはゆっくりと立ち上がると、あたしの傍までやってくる。
「な、何よ」
「じっとしてろ」
そう言ってハイジはあたしの角に手を伸ばした。
思わずギュッと目をつぶる。
なんとなくいきなりボキリと折られるか、引っこ抜かれるような気がした。
「何故怯える?」
「そちらこそ、何をするの?」
「何もしない」
ハイジはあたしの角に手を添えた。
石で砕いた角は根本しか残っていない。
ハイジの大きな手があたしの角に触れる。
「こうして隠してしまえば、何も変わらない」
「そんなこと言ったって、ほっといたら伸びてくるし」
「感情を高ぶらせると伸びるんだろう? なら、少しは落ち着いたらどうだ?」
「酷い言い方……。あたしだって好きで荒ぶってるんじゃないわ」
「それに、角が生えてたって、お前はお前だ。何も変わらない」
ハイジの手が角から離れて、そのままあたしの頭へ移動する。
髪を梳くようにゆっくりと指先が動き、頭を撫でる。
「……ハイジ、何を?」
「嫌か?」
「嫌じゃないわ」
「じゃあじっとしてろ」
なんだろう、これ。
ハイジの無骨な指が、バサっと広がったあたしの髪を愛おしそうに撫でている。
顔はとっくに真っ赤になっているだろう。
でも、嫌ではなかった。
「ふむ……」
「何よぅ」
「やはり魔獣とはいい難いな。どう見ても人間にしか見えない」
(むぅ)
(甘い雰囲気かと思ったら、観察してただけか)
それは少し気に入らなかったが、あたしは言い返した。
「角、生えてるけど」
「魔獣には、悪意と敵意しかないだろう。お前もそうなのか?」
「それは、違うけど……」
「なら、人間だよ、お前は」
そう言ってハイジはそっとあたしの頭を抱き寄せた。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
惚れた男は根暗で陰気な同僚でした【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
イベント企画会社に勤める水木 茉穂は今日も彼氏欲しさに合コンに勤しむ、結婚願望が強い女だった。
ある日の週末、合コンのメンツが茉穂に合わず、抜け出そうと考えていたのを、茉穂狙いの男から言い寄られ、困っていた所に助けに入ったのは、まさかの男。
同僚で根暗の印象の男、【暗雨】こと村雨 彬良。その彬良が会社での印象とは全く真逆の風貌で茉穂の前に現れ、茉穂を助けたのである………。
※♡話はHシーンです
※【Mにされた女はドS上司に翻弄される】のキャラを出してます。
※ これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。
※終了したら【プラトニックの恋が突然実ったら】を公開します。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
【完】経理部の女王様が落ちた先には
Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング4位
高級なスーツ、高級な腕時計を身に付け
ピンヒールの音を響かせ歩く
“経理部の女王様”
そんな女王様が落ちた先にいたのは
虫1匹も殺せないような男だった・・・。
ベリーズカフェ総合ランキング4位
2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位
2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位
関連物語
『ソレは、脱がさないで』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高4位
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高2位
『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位
『初めてのベッドの上で珈琲を』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位
『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位
私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。
伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。
物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる