58 / 135
#4
7
しおりを挟む
結局あたしたちは、ニコが屋根裏部屋の外でもじもじしていることに気づくまで話し込んでしまった。
ニコは仕事が終わって自室に戻ろうとしたが、あたしたちに気を使って声をかけそびれていたらしい。
「ご、ごめんなさい……」
「えっ! いいですいいです! 気にしないで!」
サーヤが慌てて頭を下げている。腰の低いお姫様もあったものだ。
とはいえ、ニコをほったらかしにしていたのはあたしも同罪である。
「あたしからもごめん、ニコ……。仕事も任せっきりにしちゃったね」
「それについては、ちょっと大変だったよ……お客さんたちが盛り上がっちゃって……」
恰好の酒の肴を手に入れたお客たちは大盛り上がりだったようだ。
護衛さんたちもさぞ困っただろう。
「ごめんね、今度絶対埋め合わせするから!」
「うん、期待してるね!」
ぱし、と手を合わせて謝ると、ニコはニヘラ、と笑ってくれた。
そういえば、この手を合わせるジェスチャーってこの世界でも通用するのだろうか。
「あ、そうだ、ペトラが話が終わったら下で待ってるから降りてこいって」
「ペトラが? わかった。サーヤ、行こう?」
「ええ。ニコさん、ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「いえ! どうぞお気になさらず!」
「ニコも一緒に行こう?」
「えっ!? いいよ、あたしは……!」
「いいからいいから」
半ば無理矢理ニコの手を引いて、サーヤと階下へ降りる。
* * *
店まで降りると、ペトラが男たちと酒を飲み交わしていた。
「来たね」
ペトラがグイとカップを煽る。
「これは、姫さま! お話はお済みで?」
「いやぁ、この店は良い店ですなぁ!」
「酒も旨いし、料理も最高! ライヒ領とは良き領ですな!」
「さささ、姫も一杯」
「……この状況は一体……?」
出来上がった男たちを前に、サーヤが呆然としているが、これはアレだ。
ペトラに誘われて、断りきれずに飲み比べになったのだろう。
「アンタたちが長話してる間、暇そうにしてたからね。ちょっと付き合ってやったんだよ」
「……ペトラ、お貴族様相手に失礼はだめだって言ってたくせに……」
「いやいや! リン殿! ペトラ殿といえばオルヴィネリまでその名が聞こえる女傑ですぞ!」
「『重騎兵』殿と飲み比べをしたとなると、地元に帰って自慢できます!」
「だから二つ名で呼ぶなつってんだろ! 罰としてもう一杯行きな!」
「おお、これは失礼! ではもう一杯……」
なんだこれ。
ニコが困った顔をしている。この状況の中、自室に戻ることもできずにオロオロしていたのだろう。
申し訳ないことをした。ニコにしてみれば疎外感が半端なかっただろう。
ならば、こっち側に引きずり込んでしまうまでだ。
「サーヤ。こちらがニコ。サーヤの後輩で、あたしの先輩」
紹介を始めると、サーヤがサッとよそ行きの顔に戻って、にっこりとニコに笑いかける。
「あら、可愛らしい後輩ね。よろしく、サーヤです」
「に、ニコですっ!」
「ニコ、こちらがサーヤ。えーと、お隣のオルヴィネリ……」
「わっ! わーっ! リンちゃん、シーッ!」
あたしが言いかけると、サーヤが酷く慌てたようにあたしを止めた。
(えっ? あれっ!? もしかして内緒?)
(実はそうなの。……きっと今頃、地元じゃ大騒ぎになってるわ……)
(まさか、黙って出てきたんじゃないでしょうね?)
(……えへへ)
(……なんてことを……)
思わず頭を抱えた。
護衛たちから話を聞いてすぐに出立したのだろうとは思っていたが、まさか何も言わずに出てきたとは……。
(大丈夫、抜け出したのは何も今回が初めてじゃないし、護衛たちも一緒に居なくなってるのだから、本気で心配はしてないでしょ。……後で絶対メチャクチャ叱られるけど……)
(うん、そこはこってり絞られたほうがいいんじゃないかな)
あたしが言うと、サーヤはプッと膨れて、それから朗らかに笑った。
* * *
はじめこそ話に入って行けずにオロオロしていたニコだったが、サーヤの話術によりあっという間に打ち解けた。
しまいには、昔からの友達のように笑い合っている。
「そうなんですよぅ、リンちゃんったら厳しいったらなくて、付いていくのも必死なんですよ」
「いいなぁ、あたしも剣術とかやってみたいけど、体が弱いからなぁ……ニコさんは元気だから、いっぱい体動かせますね。きっと強くなりますよ」
「そ、そうかな、えへへへ」
二人の会話を眺めながら、あたしもちょっとお酒を頂く。
こう見えて二人は先輩後輩の仲なのである。それを言ったらあたしが一番後輩なわけだが、末っ子感はニコのほうが強いだろう。
サーヤはニコが可愛くて仕方ないらしく、ずっと嬉しそうにしている。
サーヤはサーヤで古巣が懐かしくてたまらないらしく、ニコのエプロンを借りて護衛に水を配ったりして給仕のものまねをしている。
さすがは先輩、なかなか様になっている。久しぶりの給仕で少し危なっかしいところはあるが。
多分サーヤは貴族のような生活よりも、こうした街の生活のほうが好きなのだろう。
自分の身を自分で守れない『はぐれ』でさえなければ、ずっとここでこうして生きて行けただろうに、人生とはままならないものである。
(サーヤがお姫様だと知ったら、ニコひっくり返るわね)
(護衛の皆が「姫さま」なんて呼んでるけど、まさか本物だとは思うまい)
不思議な空間だった。
店じまい後の薄暗いカウンターで、ライヒ、オルヴィネリ、そして日本という異国の人間が一緒に飲み交わしている。
サーヤにとっては懐かしい、あたしとニコにとっては嬉しい甘味も用意されていて、女子三人で盛り上がった。女子にペトラが含まれないのは、彼女が甘味よりは酒の人だからである。
この世界ではアルコールに年齢制限がないので、まだ未成年のニコもお酒を果汁で割って飲んだりする。
サーヤもお酒が入ると、妙に子供っぽくなって、ペトラにベタベタと甘えている。
どうやらよほど寂しかったらしい。ニコも対抗意識を燃やしてペトラに甘えている。
ペトラは引き剥がすわけにもいかずに困り果てていたが、あたしだけはそれを肴にお茶を楽しんだ。
ペトラも含めた女四人のおしゃべりは、夜遅くまで続いたが、あまり遅くなりすぎると、明日までにオルヴィネリ入りは難しくなる。それに、ライヒ領にはサーヤのことを知っている人間がいくらでもいる。もし見つかれば大騒ぎになってしまう。
暗いうちにライヒを離れる必要があるため、サーヤはベロベロに酔っ払った護衛たちと一緒に帰路につくこととなった。
……こんなに酔っ払って、護衛たちは役に立つのだろうか。
「きっとまた会いましょう。どうか怪我などに気をつけて」
「サーヤも、どうかお幸せに。伝言はたしかに受け取ったわ」
「ええ。きっと伝えてね。次に会えるのを楽しみにしてるわ。ペトラ、ニコさんも、きっとまた会いましょう?」
サーヤはそう言うが、現実は厳しい。
あたしとサーヤでは、身分が違いすぎるのだ––––実際は、きっともう彼女と会うことは二度とないのだろう。
でも、サーヤからハイジへの想いは受け取った。
これでいいのだ。
そう思った。
* * *
珍客たちが帰ると、店に物寂しい空気が残された。
三人で片付けを終わらせ、ペトラにお礼を言ってから、ニコと屋根裏部屋に戻る。
ベッドに入ると、ニコが話しかけてきた。
「リンちゃん、サーヤさんって、リンちゃんと同じところから来た人、なのかな」
「何でそう思うの?」
「だって、リンちゃんと同じ、黒目に黒髪なんだもん、わかるよ」
「……うん、正解。彼女もあたしと同じ『はぐれ』なんだ」
「そう……やっぱり……」
ニコの歯切れが悪い。
なんとなくわかる。
きっとニコは寂しかったのだ。
「ニコ。心配しないで。あたしはずっとニコの一番の友だちでいるよ」
「えっ! そんなつもりじゃ……!」
ニコは慌て始めるが、あたしはそれを止めた。
「ニコ……良いこと教えてあげる」
「……何? リンちゃん」
「サーヤってね、オルヴィネリ……ってわかる? 隣の領主様」
「え? うん、名前は知ってる。この領地のお友達なんだよね」
「正解。でね、サーヤって実は、オルヴィネリのお姫様なんだよ」
「? ……どういう意味?」
「そのままの意味。サーヤはオルヴィネリ伯爵の息子のお嫁さん。来年にはお妃になるんだって」
「……うそだぁ……冗談だよね?」
「本当の本当。あたしと同じようにハイジに拾われて、ライヒ伯爵の養女になって、今はオルヴィネリのお姫様なんだよ」
「……本物の?」
「そう」
「えええーーーっ!」
ガバっと起きる気配がした。
「うそーっ! じゃあ、そんな人がどうしてリンちゃんに会いに来るの?!」
「今日あたしに会いに来たのは、ハイジに伝言があったからよ」
「えええ……そ、そうなんだ……! どういう人なのかなーって思ってたけど……護衛の人も「姫さま」って言ってたけど……まさか本当にお姫さまだなんて……」
「ニコ、これ、本当は内緒なんだからね? あたしとペトラ以外には、ニコしか知らない、二人だけの秘密」
「リンちゃん……」
「だから、心配しないで。あたしはどこにも行かないよ」
「……冬になったら森に行っちゃうくせに……」
「うっ、そ、それ以外の話だよ! これからも夏になれば、この店で働くよ。……それより、早く寝ないと、明日も訓練があるよ」
「えっ! 明日も訓練あるの?! う、う~ん……起きられるかな、あたし……」
「そこは頑張ってもらうしかないね」
「そんなぁ……」
「じゃあ、そろそろおやすみ、ニコ」
「うん……おやすみ、リンちゃん」
こうして、ハイジにまつわる記念すべき一日が終わった。
翌日は、仲良く二人で寝坊をした。
ニコは仕事が終わって自室に戻ろうとしたが、あたしたちに気を使って声をかけそびれていたらしい。
「ご、ごめんなさい……」
「えっ! いいですいいです! 気にしないで!」
サーヤが慌てて頭を下げている。腰の低いお姫様もあったものだ。
とはいえ、ニコをほったらかしにしていたのはあたしも同罪である。
「あたしからもごめん、ニコ……。仕事も任せっきりにしちゃったね」
「それについては、ちょっと大変だったよ……お客さんたちが盛り上がっちゃって……」
恰好の酒の肴を手に入れたお客たちは大盛り上がりだったようだ。
護衛さんたちもさぞ困っただろう。
「ごめんね、今度絶対埋め合わせするから!」
「うん、期待してるね!」
ぱし、と手を合わせて謝ると、ニコはニヘラ、と笑ってくれた。
そういえば、この手を合わせるジェスチャーってこの世界でも通用するのだろうか。
「あ、そうだ、ペトラが話が終わったら下で待ってるから降りてこいって」
「ペトラが? わかった。サーヤ、行こう?」
「ええ。ニコさん、ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「いえ! どうぞお気になさらず!」
「ニコも一緒に行こう?」
「えっ!? いいよ、あたしは……!」
「いいからいいから」
半ば無理矢理ニコの手を引いて、サーヤと階下へ降りる。
* * *
店まで降りると、ペトラが男たちと酒を飲み交わしていた。
「来たね」
ペトラがグイとカップを煽る。
「これは、姫さま! お話はお済みで?」
「いやぁ、この店は良い店ですなぁ!」
「酒も旨いし、料理も最高! ライヒ領とは良き領ですな!」
「さささ、姫も一杯」
「……この状況は一体……?」
出来上がった男たちを前に、サーヤが呆然としているが、これはアレだ。
ペトラに誘われて、断りきれずに飲み比べになったのだろう。
「アンタたちが長話してる間、暇そうにしてたからね。ちょっと付き合ってやったんだよ」
「……ペトラ、お貴族様相手に失礼はだめだって言ってたくせに……」
「いやいや! リン殿! ペトラ殿といえばオルヴィネリまでその名が聞こえる女傑ですぞ!」
「『重騎兵』殿と飲み比べをしたとなると、地元に帰って自慢できます!」
「だから二つ名で呼ぶなつってんだろ! 罰としてもう一杯行きな!」
「おお、これは失礼! ではもう一杯……」
なんだこれ。
ニコが困った顔をしている。この状況の中、自室に戻ることもできずにオロオロしていたのだろう。
申し訳ないことをした。ニコにしてみれば疎外感が半端なかっただろう。
ならば、こっち側に引きずり込んでしまうまでだ。
「サーヤ。こちらがニコ。サーヤの後輩で、あたしの先輩」
紹介を始めると、サーヤがサッとよそ行きの顔に戻って、にっこりとニコに笑いかける。
「あら、可愛らしい後輩ね。よろしく、サーヤです」
「に、ニコですっ!」
「ニコ、こちらがサーヤ。えーと、お隣のオルヴィネリ……」
「わっ! わーっ! リンちゃん、シーッ!」
あたしが言いかけると、サーヤが酷く慌てたようにあたしを止めた。
(えっ? あれっ!? もしかして内緒?)
(実はそうなの。……きっと今頃、地元じゃ大騒ぎになってるわ……)
(まさか、黙って出てきたんじゃないでしょうね?)
(……えへへ)
(……なんてことを……)
思わず頭を抱えた。
護衛たちから話を聞いてすぐに出立したのだろうとは思っていたが、まさか何も言わずに出てきたとは……。
(大丈夫、抜け出したのは何も今回が初めてじゃないし、護衛たちも一緒に居なくなってるのだから、本気で心配はしてないでしょ。……後で絶対メチャクチャ叱られるけど……)
(うん、そこはこってり絞られたほうがいいんじゃないかな)
あたしが言うと、サーヤはプッと膨れて、それから朗らかに笑った。
* * *
はじめこそ話に入って行けずにオロオロしていたニコだったが、サーヤの話術によりあっという間に打ち解けた。
しまいには、昔からの友達のように笑い合っている。
「そうなんですよぅ、リンちゃんったら厳しいったらなくて、付いていくのも必死なんですよ」
「いいなぁ、あたしも剣術とかやってみたいけど、体が弱いからなぁ……ニコさんは元気だから、いっぱい体動かせますね。きっと強くなりますよ」
「そ、そうかな、えへへへ」
二人の会話を眺めながら、あたしもちょっとお酒を頂く。
こう見えて二人は先輩後輩の仲なのである。それを言ったらあたしが一番後輩なわけだが、末っ子感はニコのほうが強いだろう。
サーヤはニコが可愛くて仕方ないらしく、ずっと嬉しそうにしている。
サーヤはサーヤで古巣が懐かしくてたまらないらしく、ニコのエプロンを借りて護衛に水を配ったりして給仕のものまねをしている。
さすがは先輩、なかなか様になっている。久しぶりの給仕で少し危なっかしいところはあるが。
多分サーヤは貴族のような生活よりも、こうした街の生活のほうが好きなのだろう。
自分の身を自分で守れない『はぐれ』でさえなければ、ずっとここでこうして生きて行けただろうに、人生とはままならないものである。
(サーヤがお姫様だと知ったら、ニコひっくり返るわね)
(護衛の皆が「姫さま」なんて呼んでるけど、まさか本物だとは思うまい)
不思議な空間だった。
店じまい後の薄暗いカウンターで、ライヒ、オルヴィネリ、そして日本という異国の人間が一緒に飲み交わしている。
サーヤにとっては懐かしい、あたしとニコにとっては嬉しい甘味も用意されていて、女子三人で盛り上がった。女子にペトラが含まれないのは、彼女が甘味よりは酒の人だからである。
この世界ではアルコールに年齢制限がないので、まだ未成年のニコもお酒を果汁で割って飲んだりする。
サーヤもお酒が入ると、妙に子供っぽくなって、ペトラにベタベタと甘えている。
どうやらよほど寂しかったらしい。ニコも対抗意識を燃やしてペトラに甘えている。
ペトラは引き剥がすわけにもいかずに困り果てていたが、あたしだけはそれを肴にお茶を楽しんだ。
ペトラも含めた女四人のおしゃべりは、夜遅くまで続いたが、あまり遅くなりすぎると、明日までにオルヴィネリ入りは難しくなる。それに、ライヒ領にはサーヤのことを知っている人間がいくらでもいる。もし見つかれば大騒ぎになってしまう。
暗いうちにライヒを離れる必要があるため、サーヤはベロベロに酔っ払った護衛たちと一緒に帰路につくこととなった。
……こんなに酔っ払って、護衛たちは役に立つのだろうか。
「きっとまた会いましょう。どうか怪我などに気をつけて」
「サーヤも、どうかお幸せに。伝言はたしかに受け取ったわ」
「ええ。きっと伝えてね。次に会えるのを楽しみにしてるわ。ペトラ、ニコさんも、きっとまた会いましょう?」
サーヤはそう言うが、現実は厳しい。
あたしとサーヤでは、身分が違いすぎるのだ––––実際は、きっともう彼女と会うことは二度とないのだろう。
でも、サーヤからハイジへの想いは受け取った。
これでいいのだ。
そう思った。
* * *
珍客たちが帰ると、店に物寂しい空気が残された。
三人で片付けを終わらせ、ペトラにお礼を言ってから、ニコと屋根裏部屋に戻る。
ベッドに入ると、ニコが話しかけてきた。
「リンちゃん、サーヤさんって、リンちゃんと同じところから来た人、なのかな」
「何でそう思うの?」
「だって、リンちゃんと同じ、黒目に黒髪なんだもん、わかるよ」
「……うん、正解。彼女もあたしと同じ『はぐれ』なんだ」
「そう……やっぱり……」
ニコの歯切れが悪い。
なんとなくわかる。
きっとニコは寂しかったのだ。
「ニコ。心配しないで。あたしはずっとニコの一番の友だちでいるよ」
「えっ! そんなつもりじゃ……!」
ニコは慌て始めるが、あたしはそれを止めた。
「ニコ……良いこと教えてあげる」
「……何? リンちゃん」
「サーヤってね、オルヴィネリ……ってわかる? 隣の領主様」
「え? うん、名前は知ってる。この領地のお友達なんだよね」
「正解。でね、サーヤって実は、オルヴィネリのお姫様なんだよ」
「? ……どういう意味?」
「そのままの意味。サーヤはオルヴィネリ伯爵の息子のお嫁さん。来年にはお妃になるんだって」
「……うそだぁ……冗談だよね?」
「本当の本当。あたしと同じようにハイジに拾われて、ライヒ伯爵の養女になって、今はオルヴィネリのお姫様なんだよ」
「……本物の?」
「そう」
「えええーーーっ!」
ガバっと起きる気配がした。
「うそーっ! じゃあ、そんな人がどうしてリンちゃんに会いに来るの?!」
「今日あたしに会いに来たのは、ハイジに伝言があったからよ」
「えええ……そ、そうなんだ……! どういう人なのかなーって思ってたけど……護衛の人も「姫さま」って言ってたけど……まさか本当にお姫さまだなんて……」
「ニコ、これ、本当は内緒なんだからね? あたしとペトラ以外には、ニコしか知らない、二人だけの秘密」
「リンちゃん……」
「だから、心配しないで。あたしはどこにも行かないよ」
「……冬になったら森に行っちゃうくせに……」
「うっ、そ、それ以外の話だよ! これからも夏になれば、この店で働くよ。……それより、早く寝ないと、明日も訓練があるよ」
「えっ! 明日も訓練あるの?! う、う~ん……起きられるかな、あたし……」
「そこは頑張ってもらうしかないね」
「そんなぁ……」
「じゃあ、そろそろおやすみ、ニコ」
「うん……おやすみ、リンちゃん」
こうして、ハイジにまつわる記念すべき一日が終わった。
翌日は、仲良く二人で寝坊をした。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
My Doctor
west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生
病気系ですので、苦手な方は引き返してください。
初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです!
主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな)
妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ)
医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
甘い誘惑
さつらぎ結雛
恋愛
幼馴染だった3人がある日突然イケナイ関係に…
どんどん深まっていく。
こんなにも身近に甘い罠があったなんて
あの日まで思いもしなかった。
3人の関係にライバルも続出。
どんどん甘い誘惑の罠にハマっていく胡桃。
一体この罠から抜け出せる事は出来るのか。
※だいぶ性描写、R18、R15要素入ります。
自己責任でお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる