11 / 135
#1
11
しおりを挟む
料理の腕で差を見せつけられ、打ちのめされたあたしは、ますます躍起になった。
そもそも、日本で作る料理とは材料からして違いすぎるのだ。
せめて、醤油と砂糖があれば、多少はマシな料理ができるのに。
(って、醤油なんてあるわけないな。砂糖なら、あるいは……)
今のところ、キッチンには窓から吊るされたにんにくと玉ねぎとハーブ、塩、干し肉、ラードっぽい何か(うっすらとチーズみたいな乳製品の味がするが、温めると透明になるので、脂には違いなさそうだ)、あとはワインのような香りの酒くらいだ。
あまりに調味料のレパートリーがない。
この世界ではこれが当たり前なのかもしれないが、砂糖か、それがなくても蜂蜜くらいは欲しいところだった。
「ねえ」
思い切って話しかけてみる。
あたしは言葉遣いに気を使うのはやめていた。あまりペコペコと卑屈な態度も良くないだろうという判断である。
はじめは、言葉遣いや態度を見咎められて、生意気だと思われるかもしれないなどと考えていたが、どう考えてもこの男はそんなことを気にしない––––というか、あたしについての一切合切を気にしていない。
きっと「死ななきゃいいだろう」くらいに思われているに違いない。
それはさておき。
「あの……砂糖ってないですか」
男に反応がないので、気にせず続ける。
料理のレパートリーを増やすためにも、ジャム以外の甘みが欲しいところだ。
ジャム付きの肉料理も慣れると悪くないのだが、どれも同じ味になるのだ。酸味もあるし、正直調味料としては使いづらい。
「あたしの故郷の料理では、砂糖と……大豆から作ったソースをよく使っていて、美味しいんです。ソースは無理でも、砂糖があるだけでも多少はマシな料理が作れると……あ、砂糖じゃなくて、蜂蜜でも、なんでもいいですけど」
すると、男は珍しく本から目を離し、キッチンに向かう。
そして食器棚の上にある壺を取り出して、まな板の横置いた。
(壺……? 砂糖……?)
(あたしの言葉に反応するなんて、珍しいこともあるもんだ)
そして、他にも酒瓶、香水瓶みたいな瓶、おろし金みたいな道具やらを置いて、また自分の席に座った。
あたしはなんと言ったらいいかわからず、とりあえずキッチンに向かう。
壺を開けると、焦げ茶色の塊が入っていた。
(この匂いは、黒砂糖?)
石みたいな塊だが、おそらくおろし金ですりおろして使うのだろう。
(あたしのために用意してくれた?)
「あの、ありがとうございます」
男に声をかける。
言うまでもなく、一切の反応無し。
(お礼を無視されるのって、けっこう堪えるな)
だが、今はそんな事を言っている場合ではない。
男は間違いなくあたしの安全を守り、かつ養ってくれている。
対してあたしは何の役にも立っていないのだ。こんな状況で、男の態度に腹を立てるのは、どう考えても人として間違えている。
(まぁ、それでも無視する人間のことを好意的に見ることはできないんだけど)
(慣れよう。こういうものなのだと思おう)
せめて、男の態度を責めたり、返事がないことに腹を立てたりするのはやめようと決心する。
(で、だ)
(この瓶、なんだろう)
ここに置かれたということは、使ってもいいということだろう。
瓶の蓋を取る。
(これは、なんだろう、焼酎みたいな匂いがする。うーん、まぁとにかくお酒?)
(こちらは、ちょっとスパイシーな……うん、ちょっとウスターソースに似てるかも?)
そして。
「これって……!?」
それは、どこか醤油に似た香りの液体だった。
正確に言うと、ちょっと古くなって悪くなった醤油に、スパイスかハーブを漬け込んだような香りだった。
まぁ、実際は明らかに醤油ではないのだが、なめてみるとしょっぱくて、若干の酸味と、醤油に似た渋みと甘みがある。
(これなら、醤油の代用になるんじゃない?)
(じゃがいもに似た芋もあるし、イノシシの肉も、玉ねぎもある)
(なら、作るのは一つしかない)
肉じゃがを作ろう!
そもそも、日本で作る料理とは材料からして違いすぎるのだ。
せめて、醤油と砂糖があれば、多少はマシな料理ができるのに。
(って、醤油なんてあるわけないな。砂糖なら、あるいは……)
今のところ、キッチンには窓から吊るされたにんにくと玉ねぎとハーブ、塩、干し肉、ラードっぽい何か(うっすらとチーズみたいな乳製品の味がするが、温めると透明になるので、脂には違いなさそうだ)、あとはワインのような香りの酒くらいだ。
あまりに調味料のレパートリーがない。
この世界ではこれが当たり前なのかもしれないが、砂糖か、それがなくても蜂蜜くらいは欲しいところだった。
「ねえ」
思い切って話しかけてみる。
あたしは言葉遣いに気を使うのはやめていた。あまりペコペコと卑屈な態度も良くないだろうという判断である。
はじめは、言葉遣いや態度を見咎められて、生意気だと思われるかもしれないなどと考えていたが、どう考えてもこの男はそんなことを気にしない––––というか、あたしについての一切合切を気にしていない。
きっと「死ななきゃいいだろう」くらいに思われているに違いない。
それはさておき。
「あの……砂糖ってないですか」
男に反応がないので、気にせず続ける。
料理のレパートリーを増やすためにも、ジャム以外の甘みが欲しいところだ。
ジャム付きの肉料理も慣れると悪くないのだが、どれも同じ味になるのだ。酸味もあるし、正直調味料としては使いづらい。
「あたしの故郷の料理では、砂糖と……大豆から作ったソースをよく使っていて、美味しいんです。ソースは無理でも、砂糖があるだけでも多少はマシな料理が作れると……あ、砂糖じゃなくて、蜂蜜でも、なんでもいいですけど」
すると、男は珍しく本から目を離し、キッチンに向かう。
そして食器棚の上にある壺を取り出して、まな板の横置いた。
(壺……? 砂糖……?)
(あたしの言葉に反応するなんて、珍しいこともあるもんだ)
そして、他にも酒瓶、香水瓶みたいな瓶、おろし金みたいな道具やらを置いて、また自分の席に座った。
あたしはなんと言ったらいいかわからず、とりあえずキッチンに向かう。
壺を開けると、焦げ茶色の塊が入っていた。
(この匂いは、黒砂糖?)
石みたいな塊だが、おそらくおろし金ですりおろして使うのだろう。
(あたしのために用意してくれた?)
「あの、ありがとうございます」
男に声をかける。
言うまでもなく、一切の反応無し。
(お礼を無視されるのって、けっこう堪えるな)
だが、今はそんな事を言っている場合ではない。
男は間違いなくあたしの安全を守り、かつ養ってくれている。
対してあたしは何の役にも立っていないのだ。こんな状況で、男の態度に腹を立てるのは、どう考えても人として間違えている。
(まぁ、それでも無視する人間のことを好意的に見ることはできないんだけど)
(慣れよう。こういうものなのだと思おう)
せめて、男の態度を責めたり、返事がないことに腹を立てたりするのはやめようと決心する。
(で、だ)
(この瓶、なんだろう)
ここに置かれたということは、使ってもいいということだろう。
瓶の蓋を取る。
(これは、なんだろう、焼酎みたいな匂いがする。うーん、まぁとにかくお酒?)
(こちらは、ちょっとスパイシーな……うん、ちょっとウスターソースに似てるかも?)
そして。
「これって……!?」
それは、どこか醤油に似た香りの液体だった。
正確に言うと、ちょっと古くなって悪くなった醤油に、スパイスかハーブを漬け込んだような香りだった。
まぁ、実際は明らかに醤油ではないのだが、なめてみるとしょっぱくて、若干の酸味と、醤油に似た渋みと甘みがある。
(これなら、醤油の代用になるんじゃない?)
(じゃがいもに似た芋もあるし、イノシシの肉も、玉ねぎもある)
(なら、作るのは一つしかない)
肉じゃがを作ろう!
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
凶器は透明な優しさ
楓
恋愛
入社5年目の岩倉紗希は、新卒の女の子である姫野香代の教育担当に選ばれる。
初めての後輩に戸惑いつつも、姫野さんとは良好な先輩後輩の関係を築いていけている
・・・そう思っていたのは岩倉紗希だけであった。
姫野の思いは岩倉の思いとは全く異なり
2人の思いの違いが徐々に大きくなり・・・
そして心を殺された
『ラノベ作家のおっさん…異世界に転生する』
来夢
ファンタジー
『あらすじ』
心臓病を患っている、主人公である鈴也(レイヤ)は、幼少の時から見た夢を脚色しながら物語にして、ライトノベルの作品として投稿しようと書き始めた。
そんなある日…鈴也は小説を書き始めたのが切っ掛けなのか、10年振りに夢の続きを見る。
すると、今まで見た夢の中の男の子と女の子は、青年の姿に成長していて、自分の書いている物語の主人公でもあるヴェルは、理由は分からないが呪いの攻撃を受けて横たわっていた。
ジュリエッタというヒロインの聖女は「ホーリーライト!デスペル!!」と、仲間の静止を聞かず、涙を流しながら呪いを解く魔法を掛け続けるが、ついには力尽きて死んでしまった。
「へっ?そんな馬鹿な!主人公が死んだら物語の続きはどうするんだ!」
そんな後味の悪い夢から覚め、風呂に入ると心臓発作で鈴也は死んでしまう。
その後、直ぐに世界が暗転。神様に会うようなセレモニーも無く、チートスキルを授かる事もなく、ただ日本にいた記憶を残したまま赤ん坊になって、自分の書いた小説の中の世界へと転生をする。
”自分の書いた小説に抗える事が出来るのか?いや、抗わないと周りの人達が不幸になる。書いた以上責任もあるし、物語が進めば転生をしてしまった自分も青年になると死んでしまう
そう思い、自分の書いた物語に抗う事を決意する。
旦那様は魔王様!
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
十七歳の誕生日――
誰からも愛されずに生きてきた沙良の目の前に、シヴァと名乗る男があらわれる。
お前は生贄だと告げられ、異界に連れてこられた沙良は、シヴァの正体が魔王だと教えられて……。
じれったい二人と、二人を引っ掻き回す周囲との、どたばたラブコメディ!
【作品一覧】
1、イケニエになりました!?
2、ミリアムのドキドキ大作戦☆
3、放蕩王弟帰城する!
4、離宮の夜は大混乱!?
5、旦那様は魔王様
外伝【魔界でいちばん大嫌い~絶対に好きになんて、ならないんだから!~】※こちらの作品内ではなく別掲載です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
風のフルーティスト -Canary-
蒼乃悠生
恋愛
——私は音に恋をした。
——でも、恋の音とは、どんなものかわからない。
結婚をしていない三十三歳の女、眞野しほり(まのしほり)。
甘えたがりの性格から、元彼から「甘えるな」と言われ続け、人に甘えてはいけないと考えている。
母親から彼氏はいるのか、結婚はまだかと責められる中、会社の先輩奈良栄楊(ならさかやなぎ)に優しくされる。
ある日、〝練習〟の帰り道、後ろを付いてくる人影が。
実は落とし物を届けにきてくれた、高校生の福岡湊(ふくおかそう)だった。
親友の日野和夏希(ひのわなつき)と一緒にフルートとピアノのコンサートを開く予定だったが、ある人物に大切なフルートと夏希を傷つけられ、開催が困難な状況へ。
音を通して、改めて音楽と、高校生という年の差がある湊への気持ちを見つめ直す、音の恋愛物語。
「ずっとそばにいたい」
「湊くん、好きになって……ごめんなさい」
「年齢差の壁は、高いなぁ」
「私、嘘をつきたくない」
表紙:神葉あすと様(@kanburst)
私の突然の申し出に対応いただき、ありがとうございました!!
当作品は、「風のフルーティスト」の改稿版です。
内容、キャラクターの容姿、口調、性格の微調整、文章などを訂正しました。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる