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幕間 第一章執筆完了。
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『復縁にはまだ時間がかかるかもしれないけれど、この親子はもう大丈夫だとわたしも陸さんも思った。』
「――徳永さん? 熊谷です。お疲れさまです。第一章の原稿データ、いまメールでそちらに送りましたんで、確認お願いしますね」
『はい、分かりました。先生、とりあえずお疲れさまでした。第二章もよろしくお願いしますね』
〈さくら祭り〉を無事に終えた夜。わたしはオフィスで無事に第一章の原稿を書き終え、データを担当編集者の徳永さんに送信。これでとりあえず、第一章分は入稿を終えた。
……コンコン、とノックの音が聞こえ、「どうぞ」と返事をすると陸さんが入ってきた。彼が手にしているのは、美優ちゃんにお父さんから手渡されたはずのテディベアの紙袋と同じもの。
でも、彼は今日早番で、夕方には一旦寮に帰ったはずだ。わざわざまた戻ってきたのかな?
「――春陽ちゃん、仕事は一段落ついたのか?」
「あ、うん。いま第一章の原稿データを編集者さんに送ったところだよ」
「そっか。――あのさ、春陽ちゃん。これ」
彼は持っていた紙袋をわたしに差し出す。中に入っていたのは、美優ちゃんのために作ってもらったテディベアと色違いの白いクマ。鼻の部分はワインレッドの糸でステッチされている。
「え……、ありがとう。――これって」
「美優ちゃんのと一緒に作ってもらったんだ。春陽ちゃん、ちょっと早いけど、二十四歳の誕生日おめでとう」
テディベアの首には、「HAPPY BIRTHDAY!」とメッセージの入ったワインレッドのリボンが結ばれている。わたしはメッセージカードを開いて読む。
『春陽ちゃん、Happy Birthday!
親父さんの代わりに、春陽ちゃんの好きなテディベアを贈ります。 高良 陸』
そこには陸さんの丁寧な字で、そう書かれている。
「これ……、お父さんの代わりに?」
「うん。なんか、誕生祝いのリボンも選べるって聞いたから。喜んでもらえると嬉しいな、って。……あ、このクマの代金は俺の自腹だから領収書はもらってない」
「そんな……。高かったんでしょ、これ? 自腹なんて悪いよ。この分もちゃんと経費で――」
「いいから! 俺の気持ちなんだから、素直に受け取っとけよ。俺がただ、春陽ちゃんお誕生日プレゼントを用意したかっただけだからさ」
必死にそう言う陸さんの顔は、ちょっと赤い。……あれ? 陸さん、これって本当に「お父さんの代わり」っていうだけなの?
「……うん。ありがと、陸さん。この子、絶対に大事にする」
「そうそう、それでいいんだよ。じゃあ、俺は寮に帰るから。明日は中番だったよな?」
「うん……。今日は色々とお疲れさまでした」
わたしに手をひらひらと振ってオフィスを出ていく彼を、わたしはもらったテディベアを抱いたまま見送る。この子は父のようで、陸さんのようでもある。
「……ねえお父さん、陸さんってホントにお父さんの代わりってだけでこの子をくれたのかな? もしかして、志穂さんが言ってたみたいにホントはわたしのこと……」
ベッドの縁に腰を下ろしたわたしは、モフモフのテディベアの頭に顎を乗せ、独りごちた。
「――徳永さん? 熊谷です。お疲れさまです。第一章の原稿データ、いまメールでそちらに送りましたんで、確認お願いしますね」
『はい、分かりました。先生、とりあえずお疲れさまでした。第二章もよろしくお願いしますね』
〈さくら祭り〉を無事に終えた夜。わたしはオフィスで無事に第一章の原稿を書き終え、データを担当編集者の徳永さんに送信。これでとりあえず、第一章分は入稿を終えた。
……コンコン、とノックの音が聞こえ、「どうぞ」と返事をすると陸さんが入ってきた。彼が手にしているのは、美優ちゃんにお父さんから手渡されたはずのテディベアの紙袋と同じもの。
でも、彼は今日早番で、夕方には一旦寮に帰ったはずだ。わざわざまた戻ってきたのかな?
「――春陽ちゃん、仕事は一段落ついたのか?」
「あ、うん。いま第一章の原稿データを編集者さんに送ったところだよ」
「そっか。――あのさ、春陽ちゃん。これ」
彼は持っていた紙袋をわたしに差し出す。中に入っていたのは、美優ちゃんのために作ってもらったテディベアと色違いの白いクマ。鼻の部分はワインレッドの糸でステッチされている。
「え……、ありがとう。――これって」
「美優ちゃんのと一緒に作ってもらったんだ。春陽ちゃん、ちょっと早いけど、二十四歳の誕生日おめでとう」
テディベアの首には、「HAPPY BIRTHDAY!」とメッセージの入ったワインレッドのリボンが結ばれている。わたしはメッセージカードを開いて読む。
『春陽ちゃん、Happy Birthday!
親父さんの代わりに、春陽ちゃんの好きなテディベアを贈ります。 高良 陸』
そこには陸さんの丁寧な字で、そう書かれている。
「これ……、お父さんの代わりに?」
「うん。なんか、誕生祝いのリボンも選べるって聞いたから。喜んでもらえると嬉しいな、って。……あ、このクマの代金は俺の自腹だから領収書はもらってない」
「そんな……。高かったんでしょ、これ? 自腹なんて悪いよ。この分もちゃんと経費で――」
「いいから! 俺の気持ちなんだから、素直に受け取っとけよ。俺がただ、春陽ちゃんお誕生日プレゼントを用意したかっただけだからさ」
必死にそう言う陸さんの顔は、ちょっと赤い。……あれ? 陸さん、これって本当に「お父さんの代わり」っていうだけなの?
「……うん。ありがと、陸さん。この子、絶対に大事にする」
「そうそう、それでいいんだよ。じゃあ、俺は寮に帰るから。明日は中番だったよな?」
「うん……。今日は色々とお疲れさまでした」
わたしに手をひらひらと振ってオフィスを出ていく彼を、わたしはもらったテディベアを抱いたまま見送る。この子は父のようで、陸さんのようでもある。
「……ねえお父さん、陸さんってホントにお父さんの代わりってだけでこの子をくれたのかな? もしかして、志穂さんが言ってたみたいにホントはわたしのこと……」
ベッドの縁に腰を下ろしたわたしは、モフモフのテディベアの頭に顎を乗せ、独りごちた。
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