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永遠の友情と永遠の愛情 ①
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――我が家に帰ってきてからの、甘~い新婚初夜から一夜明けた。
昨夜があまりにも情熱的だったため、グッタリと疲れていた今朝は二人とも朝九時ごろまで寝てしまった。
特にわたしは、二回も貢と盛り上がってしまったせいか、今朝は股関節がズンと重い。でも、その分最愛の人を受け入れた痛みだと思うとすごく幸せに感じる。
今日は親友の里歩、唯ちゃんと三人での女子会だ。五日前、結婚式の後に約束してから今日という日が待ちどおしかった。
自慢の茶色がかったロングヘアーを大きなヘアクリップでアップにまとめ、メイクをして昨夜選んだ七分袖のトップスとミモレ丈のフレアースカートに着替えて髪を下ろしてから気がついた。
「……あ」
胸元が淋しいなと思ったら、ネックレスを着け忘れていたのだ。
さすがに入浴時と就寝前には外しているけれど、それ以外の時は肌身離さず着けているオープンハートのネックレスは貢から去年の誕生日にプレゼントされたもの。ハイブランドのものではないけど、彼から贈られたダイヤのエンゲージリング、シンプルなプラチナの結婚指輪と並んでわたしの宝物である。
「なんで髪下ろす前に気づかなかったんだろ……。――貢、ゴメン。ちょっと」
一度下ろした髪をまたアップにすれば済むだけのことなのだけれど、それもまた面倒だ。わたしは寝室で、今日久しぶりに会うことになっているお友だちにメッセージを送っていたらしい貢に声をかけた。
「……はい? 何ですか?」
「ネックレス、着けてくれない? ね、お願いっ!」
わたしはドレッサーの抽斗から淡いピンク色の細長いベルベットのケースを取り出して、彼に差し出す。ネックレスを着けていない時には、必ずこのケースに戻して保管しているのだ。
「またですか……。いいですよ。じゃあ後ろ向いて下さい」
彼は呆れつつも、わたしのお願いを聞いてくれた。「またですか」と言ったのは、わたしがしばしば同じお願いをしているからである。
「わぁい、ありがとー♡」
わたしは喜んで彼に背中を向け、髪を手早くまとめて持ち上げる。
彼はだいぶ手慣れた様子で留め具を外し、わたしの首にチェーンをかけてくれた。
最初に着けてもらったのは、プレゼントされた時だった。あの時はけっこう苦戦していたなぁと懐かしい気持ちになる。あれからまだ一年と二ヶ月しか経っていないのに。
とか物思いにふけっていたら、うなじにチュッと生暖かいものが触れた。どうやら彼がうなじにキスを落としてきたらしい。
そして、ネックレスを着け終わった彼の手が後ろから脇を抜けてわたしの胸元に伸ばされて――。
「ん……、こらこら。そういうのは夜までお預けね」
「…………ハイ」
クセの悪い彼の手をパチンと叩いて振り向くと、飼い主に叱られて耳を垂らしたワンちゃんみたいな彼がそこにいた。
一緒に暮らすようになってから分かったのだけれど、彼はどうもむっつりスケベらしい。普段は優しくて真面目ないい人なのに、何かのキッカケでエッチなスイッチが入ってしまうのだ。
「ほら、下に行こ。杉本さん、お昼前に来るんでしょ」
「はい。……あ、それがですね。さっきラインが来たんですけど、昼を過ぎそうなんですって。絢乃さんのお出かけまでに間に合いそうもないですね」
「そっか……。土曜日だもん、仕方ないよ」
「でも、夕方まではいてくれるように僕が引き留めておきますから」
「うん、ありがと。じゃあ降りよう」
出かける支度も整い、わたしたち夫婦は母の待っている一階のリビングダイニングへと降りていった。
* * * *
「――ママ、史子さん、おはよう!」
「おはようございます。すみません、今日は二人とも、すっかり朝寝坊してしまって」
ダイニングでモーニングティーを楽しんでいた母と、朝食の片付けを始めていた家政婦さんに声をかける。
休暇中で、今日は土曜日とはいえ、起きて来るのがあまりにもゆっくりすぎたなぁとちょっと申し訳ない気持ちになったのだ。
「いいのよぉ。新婚さんなんだから、ゆっくり起きてきても。史子さんとも、今朝は好きなだけ寝かせてあげましょうねって話してたんだもの。ねぇ?」
「ええ。ですので若奥さま、若旦那さま。どうぞお気になさらず。――お二人とも、コーヒーはお召し上がりになります?」
「うん、ありがとう。わたし、朝食は軽めでいいよ。この時間だし。十一時ごろには出かけるから」
「僕の朝食は普通で。……ああ、コーヒーなら僕が淹れますよ」
「いえいえ! 若旦那さまもこちらでのんびりしていらして下さいまし。家政婦であるわたくしの仕事でございますから」
「……はあ。じゃあお願いします」
史子さんに気を遣っていた貢が、最終的にはすごすごと引き下がった。
結婚前まではひとり暮らしで、簡単なお料理も含めて何でも自分でやってきた彼らしいといえば彼らしいのだけれど、ちょっと気を遣いすぎなんじゃないかな……。そろそろこの家の雰囲気になじんでほしい。
「……あ、そうだ、お義母さん。今日の昼過ぎに、僕の高校時代の友人がこの家に遊びに来るんです。杉本っていう男なんですけど」
「あら、そうなの? 昨日は聞いてなかったけど」
「うん。貢、あの後寝室に上がっていってから連絡して、その場で決まったみたい。ママ、その頃にはもう休んでたから」
いつの間にそんな話になっていたのかと首を傾げる母に、わたし補足説明をする。でもまあ、朝起きてから母に伝えればいいかと思っていたことに変わりはない。
「多分、来られた頃にはもうわたしはいないけど、おもてなしは任せるね、史子さん」
ちょうど二人分のコーヒーと朝食を運んできてくれたので、史子さんに頼んだ。
わたしの分の朝食はこんがり焼かれたバタートーストと二分の一本のバナナだけ。コーヒーはわたしの好みに合わせて甘めのカフェオレだ。
貢の分はトーストにベーコンエッグとバナナが丸ごと一本分。ただしちゃんと二つにカットされている。コーヒーはミルク入りの微糖だろう。
「はい、畏まりました。お昼のご用意もしておいた方がよろしゅうございますかねぇ、若旦那さま?」
「ああ、はい。そうですね、お願いします」
「貢……、そろそろ史子さんに敬語、いらなくない? ――いただきます」
「いただきます。……すみません、史子さん。僕、まだこういう扱いに慣れてなくて」
朝食を食べ始めたわたしと貢。彼はまだ、この家の一員になったことに実感がないみたい。史子さんに対して横柄な態度を取れとまでは言わないけれど、もう少し砕けた接し方でもいいんじゃないかな……。
確かに、わたしもまだ「若奥さま」って呼ばれるのはちょっとくすぐったい。
そこへ、ビシッとダークグレーのスーツで決めたドライバーの寺田さんがやってきた。
「おはようございます、若奥さま、若旦那さま。――若奥さま、今日はお出かけいらっしゃいますね。私めが恵比寿までお送り致します」
「えっ、いいの?」
「はい。当主さまからのご指示でございます」
彼の言った「当主さま」というのは、この篠沢家現当主である母のことだ。父がまだ健在だった頃には「奥さま」と呼んでいたけれど、父亡き後この呼び方をするようになった
「あなたも次期当主なんだから、たまには寺田に甘えちゃいなさい」
母に「ホントにいいの?」と目で訴えると、母はそう言ってくれた。
「うん……。じゃあ寺田さん、よろしく」
早々に朝食を終えたわたしは、十一時少し前に出かけることにした。
「――じゃあ、ちょっと早いけどもう行くね。貢、何かお土産買ってくるから」
「そんなこと、気にしなくていいですから。楽しんできて下さいね。行ってらっしゃい」
「うん、行ってきま~す! じゃあ寺田さん、行こう」
最愛の夫と母に見送られ、わたしは家を出発した。
昨夜があまりにも情熱的だったため、グッタリと疲れていた今朝は二人とも朝九時ごろまで寝てしまった。
特にわたしは、二回も貢と盛り上がってしまったせいか、今朝は股関節がズンと重い。でも、その分最愛の人を受け入れた痛みだと思うとすごく幸せに感じる。
今日は親友の里歩、唯ちゃんと三人での女子会だ。五日前、結婚式の後に約束してから今日という日が待ちどおしかった。
自慢の茶色がかったロングヘアーを大きなヘアクリップでアップにまとめ、メイクをして昨夜選んだ七分袖のトップスとミモレ丈のフレアースカートに着替えて髪を下ろしてから気がついた。
「……あ」
胸元が淋しいなと思ったら、ネックレスを着け忘れていたのだ。
さすがに入浴時と就寝前には外しているけれど、それ以外の時は肌身離さず着けているオープンハートのネックレスは貢から去年の誕生日にプレゼントされたもの。ハイブランドのものではないけど、彼から贈られたダイヤのエンゲージリング、シンプルなプラチナの結婚指輪と並んでわたしの宝物である。
「なんで髪下ろす前に気づかなかったんだろ……。――貢、ゴメン。ちょっと」
一度下ろした髪をまたアップにすれば済むだけのことなのだけれど、それもまた面倒だ。わたしは寝室で、今日久しぶりに会うことになっているお友だちにメッセージを送っていたらしい貢に声をかけた。
「……はい? 何ですか?」
「ネックレス、着けてくれない? ね、お願いっ!」
わたしはドレッサーの抽斗から淡いピンク色の細長いベルベットのケースを取り出して、彼に差し出す。ネックレスを着けていない時には、必ずこのケースに戻して保管しているのだ。
「またですか……。いいですよ。じゃあ後ろ向いて下さい」
彼は呆れつつも、わたしのお願いを聞いてくれた。「またですか」と言ったのは、わたしがしばしば同じお願いをしているからである。
「わぁい、ありがとー♡」
わたしは喜んで彼に背中を向け、髪を手早くまとめて持ち上げる。
彼はだいぶ手慣れた様子で留め具を外し、わたしの首にチェーンをかけてくれた。
最初に着けてもらったのは、プレゼントされた時だった。あの時はけっこう苦戦していたなぁと懐かしい気持ちになる。あれからまだ一年と二ヶ月しか経っていないのに。
とか物思いにふけっていたら、うなじにチュッと生暖かいものが触れた。どうやら彼がうなじにキスを落としてきたらしい。
そして、ネックレスを着け終わった彼の手が後ろから脇を抜けてわたしの胸元に伸ばされて――。
「ん……、こらこら。そういうのは夜までお預けね」
「…………ハイ」
クセの悪い彼の手をパチンと叩いて振り向くと、飼い主に叱られて耳を垂らしたワンちゃんみたいな彼がそこにいた。
一緒に暮らすようになってから分かったのだけれど、彼はどうもむっつりスケベらしい。普段は優しくて真面目ないい人なのに、何かのキッカケでエッチなスイッチが入ってしまうのだ。
「ほら、下に行こ。杉本さん、お昼前に来るんでしょ」
「はい。……あ、それがですね。さっきラインが来たんですけど、昼を過ぎそうなんですって。絢乃さんのお出かけまでに間に合いそうもないですね」
「そっか……。土曜日だもん、仕方ないよ」
「でも、夕方まではいてくれるように僕が引き留めておきますから」
「うん、ありがと。じゃあ降りよう」
出かける支度も整い、わたしたち夫婦は母の待っている一階のリビングダイニングへと降りていった。
* * * *
「――ママ、史子さん、おはよう!」
「おはようございます。すみません、今日は二人とも、すっかり朝寝坊してしまって」
ダイニングでモーニングティーを楽しんでいた母と、朝食の片付けを始めていた家政婦さんに声をかける。
休暇中で、今日は土曜日とはいえ、起きて来るのがあまりにもゆっくりすぎたなぁとちょっと申し訳ない気持ちになったのだ。
「いいのよぉ。新婚さんなんだから、ゆっくり起きてきても。史子さんとも、今朝は好きなだけ寝かせてあげましょうねって話してたんだもの。ねぇ?」
「ええ。ですので若奥さま、若旦那さま。どうぞお気になさらず。――お二人とも、コーヒーはお召し上がりになります?」
「うん、ありがとう。わたし、朝食は軽めでいいよ。この時間だし。十一時ごろには出かけるから」
「僕の朝食は普通で。……ああ、コーヒーなら僕が淹れますよ」
「いえいえ! 若旦那さまもこちらでのんびりしていらして下さいまし。家政婦であるわたくしの仕事でございますから」
「……はあ。じゃあお願いします」
史子さんに気を遣っていた貢が、最終的にはすごすごと引き下がった。
結婚前まではひとり暮らしで、簡単なお料理も含めて何でも自分でやってきた彼らしいといえば彼らしいのだけれど、ちょっと気を遣いすぎなんじゃないかな……。そろそろこの家の雰囲気になじんでほしい。
「……あ、そうだ、お義母さん。今日の昼過ぎに、僕の高校時代の友人がこの家に遊びに来るんです。杉本っていう男なんですけど」
「あら、そうなの? 昨日は聞いてなかったけど」
「うん。貢、あの後寝室に上がっていってから連絡して、その場で決まったみたい。ママ、その頃にはもう休んでたから」
いつの間にそんな話になっていたのかと首を傾げる母に、わたし補足説明をする。でもまあ、朝起きてから母に伝えればいいかと思っていたことに変わりはない。
「多分、来られた頃にはもうわたしはいないけど、おもてなしは任せるね、史子さん」
ちょうど二人分のコーヒーと朝食を運んできてくれたので、史子さんに頼んだ。
わたしの分の朝食はこんがり焼かれたバタートーストと二分の一本のバナナだけ。コーヒーはわたしの好みに合わせて甘めのカフェオレだ。
貢の分はトーストにベーコンエッグとバナナが丸ごと一本分。ただしちゃんと二つにカットされている。コーヒーはミルク入りの微糖だろう。
「はい、畏まりました。お昼のご用意もしておいた方がよろしゅうございますかねぇ、若旦那さま?」
「ああ、はい。そうですね、お願いします」
「貢……、そろそろ史子さんに敬語、いらなくない? ――いただきます」
「いただきます。……すみません、史子さん。僕、まだこういう扱いに慣れてなくて」
朝食を食べ始めたわたしと貢。彼はまだ、この家の一員になったことに実感がないみたい。史子さんに対して横柄な態度を取れとまでは言わないけれど、もう少し砕けた接し方でもいいんじゃないかな……。
確かに、わたしもまだ「若奥さま」って呼ばれるのはちょっとくすぐったい。
そこへ、ビシッとダークグレーのスーツで決めたドライバーの寺田さんがやってきた。
「おはようございます、若奥さま、若旦那さま。――若奥さま、今日はお出かけいらっしゃいますね。私めが恵比寿までお送り致します」
「えっ、いいの?」
「はい。当主さまからのご指示でございます」
彼の言った「当主さま」というのは、この篠沢家現当主である母のことだ。父がまだ健在だった頃には「奥さま」と呼んでいたけれど、父亡き後この呼び方をするようになった
「あなたも次期当主なんだから、たまには寺田に甘えちゃいなさい」
母に「ホントにいいの?」と目で訴えると、母はそう言ってくれた。
「うん……。じゃあ寺田さん、よろしく」
早々に朝食を終えたわたしは、十一時少し前に出かけることにした。
「――じゃあ、ちょっと早いけどもう行くね。貢、何かお土産買ってくるから」
「そんなこと、気にしなくていいですから。楽しんできて下さいね。行ってらっしゃい」
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最愛の夫と母に見送られ、わたしは家を出発した。
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