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第2部 放課後トップレディの初恋
繋がり合う気持ち ③
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「そして多分、君とアイツはすでに両想いのはずだ。……違うかな?」
どうしてそこまで分かったのか不思議に思って目をみはると、悠さんはそれを肯定と受け取ったらしい。
「どうやら当たりみたいだな。だってあのチョコ、本命だったんだろ? アイツが昨日もらってきたチョコん中で、手作りはあれだけだったから」
「……はい」
わたしは素直に認めた。いくらお菓子作りが得意な女子でも、わざわざ義理チョコまで手作りにしないだろう。……まぁ、そういう女子も探せばどこかにいるかもしれないけれど。
「わたし、生まれて初めて好きになった人が貢さんなんです。知り合ったのがちょうど父が倒れた頃だったんで、彼の存在はものすごく心強くて。わたしが前向きな気持ちになれたのも、父の死を心から悲しんで思いっきり泣くことができたのも彼のおかげなんです。それに、今でもすごく助けられてます」
彼がいなければ、わたしが父の死からここまで立ち直れたかどうかも、会長の仕事と高校生活という二刀流だってうまくやり遂げられていたかどうかも分からない。
「――あの、悠さんはご存じですか? 貢さんがいつからわたしのことを好きになったのか。……もしかして、初めて会った時から……とか?」
「うん、実はそうらしい。でも、どうしてそう思ったの?」
「それは……、初対面の夜に、彼が言ってたからです。わたしのお婿さん候補に、自分も入れてもらうことは可能ですか、って。……その時は彼が『冗談です』ってごまかしてたんで、わたしも本気で言ってるのかホントに冗談なのか分からなかったんですけど」
「へぇー、アイツそんなこと言ったのか。でも兄のオレが思うに、そりゃ本気だな」
「やっぱり……。悠さんもそう思われますか?」
前日の彼の言動から、わたしもやっとそれが本気だったんだと受け入れることができた。けれど、同時に「わたしなんかでいいんだろうか」という気持ちもあった。八歳も年下だし、まだ子供だし、彼の恋人になるならもっとふさわしい、お似合いの女性が他にいるんじゃないか。と。
でも……、わたしが彼を好きだという気持ちも、彼も同じ気持ちだったらいいなぁと思っていたことも事実なのだ。
「ということは……、わたしも貢さんも一目ぼれ同士だったってことですよね」
「えっ、そうだったのか? つうことは、アイツと君って知り合った時からすでに両想いだったっつうことかー」
「そう……なりますね。そっか、そうだったんだ……」
その時になってやっと、出会ってからの彼の優しさの意味が心にストンと落ちた。彼がずっとわたしに対して親切だったのも、葬儀の日に親族の前からわたしを連れ出してくれたことも、思いっきり泣かせてくれたことも全部、わたしへのまっすぐな恋心からだったんだと。もちろん、わたしの秘書になってくれたことも。
でも元々誠実な彼のことだから、そこに下心とか打算なんて入り込んでいなかったと思う。
「わたし……、貢さんに謝らなきゃ。既読スルーしちゃったこと。それと、彼にちゃんと気持ち伝えます。だって、誤解されて落ち込まれてるのはイヤだから。――悠さん、ありがとうございました」
「いやいや、いいって。んじゃ、オレはそろそろ帰るわー。あ、アイツにオレのことで何か言われたら、『ナンパされわけじゃない』って言っといてよ。オレ彼女いるし、間違っても弟が惚れた女の子に手ぇ出すようなことは絶対しねぇから」
悠さんはそう言って、すっかり冷めたブラックコーヒーを飲み干した。
「はい、分かりました。そう言っときます」
「よしよし。あ、でも連絡先だけは交換しとこうか。アイツと何かあった時に、絢乃ちゃんがオレを頼れるように」
「ええ、いいですよ。交換しましょう」
わたしは「これってナンパにならないのかな……」と思いながら、悠さんと連絡先を交換した。
――わたしもカフェラテとガトーショコラを平らげたタイミングで、悠さんと二人でお店を出た。
「じゃあな、絢乃ちゃん♪ 貢によろしく。自分の気持ち、しっかりアイツに伝えな」
「はい。今日は本当にありがとうございました!」
わたしは新宿駅前の適当なベンチに腰を下ろし、バッグからスマホを取り出した。メッセージアプリのトーク画面を開き、彼からのメッセージの返信を打とうと思ったけれど、気が変わった。
「こういう時は、ライン打つより電話の方がいいよね」
緑色のアプリを閉じ、電話のアイコンをタップした。履歴から彼の番号をリダイアルする。わたしから彼に電話するのは実に一ヶ月ぶりだった。
『――はい。絢乃さん、どうされたんですか? お電話なんて珍しいですね』
「桐島さん、お休みの日にごめんね? 今、どこで何してるの?」
休日の彼をわたしは知らなかった。週末は実家に帰っていると聞いたけれど、それ以外の情報が極端に少なかったのだ。「コーヒーとクルマが好き」ということ以外に、どんな趣味を持っているのか聞いたことがなかった。
『今は……市谷ですかね。今日は朝から都内のカフェ巡りをしていたんです。ちなみに、僕が会社でお出ししているコーヒーの豆も、実家近くのコーヒー専門店から仕入れてるんですよ。……っと、長々と失礼しました』
自分の好きなことについて生き生きと語る彼は、すごく微笑ましかった。
『それはともかく、絢乃さんは今どちらに?』
「わたしは今、新宿にいるの。里歩と一緒にランチして、ボウリングして、別れた後貴方のお兄さまに声かけられてね。ついさっきまで一緒だったの」
『えっ、兄にですか!? それってナンパじゃ……』
「ナンパじゃないよ。お仕事の帰りに偶然わたしを見かけて声をかけただけだって。……確かに、外見がちょっとチャラチャラしてるから誤解されそうではあるけど」
お兄さまが想像していたとおりの反応に、わたしは電話口で苦笑いした。
悠さんは、外見的には久保さんにちょっと似ているかもしれない。彼の四~五年後、という感じだろうか。
「そんなことより、わたしが今日電話したのはね、貴方と話がしたくて。電話じゃなくて、直接会って話したいの。あと、昨日の既読スルーについても弁解させてほしい。だから……、今から会えないかな? 新宿まで来られる?」
『そこは〝謝りたい〟じゃなくて〝弁解させてほしい〟なんですね』
彼は愉快そうに笑った後、「分かりました」と言った。
『ここからそちらまで近いので、あと十分くらいで着けると思います。では今からクルマで向かいますね』
「うん、待ってるね」
――電話を終えた後、わたしは彼がすぐに見つけられるようその場を動かずにいた。
「昨日のこと謝るだけじゃダメだよね。ちゃんと彼に告白しよう。……でも、何て言ったらいいんだろう……?」
生まれて初めての愛の告白に、どんな言葉を選べばいいのかを一生懸命考えながら、わたしは彼が来るのを待っていた。
「――絢乃さん、お待たせしてすみません」
それから十分もしないうちに貢の愛車が目の前に停まり、運転席の窓から彼が顔を出した。
「ううん、待ってないよ。っていうか謝らないで。呼びつけたのはわたしの方なんだから」
彼に会いたい、と言ったのはわたしのワガママだったのに、どうして彼が謝るの? 謝らなきゃいけないのはむしろわたしの方だったのに。
「あ……、ですよね。絢乃さん、あまり長くクルマを停めておけないので、とりあえず乗って下さい。どこかへ移動しましょう」
路上駐車は迷惑になるし、こんな公衆の面前で告白するのも憚られる。そんなわたしの気持ちを知ってか知らずか、彼はクルマを一旦降りて助手席のドアを開けてくれた。
どうしてそこまで分かったのか不思議に思って目をみはると、悠さんはそれを肯定と受け取ったらしい。
「どうやら当たりみたいだな。だってあのチョコ、本命だったんだろ? アイツが昨日もらってきたチョコん中で、手作りはあれだけだったから」
「……はい」
わたしは素直に認めた。いくらお菓子作りが得意な女子でも、わざわざ義理チョコまで手作りにしないだろう。……まぁ、そういう女子も探せばどこかにいるかもしれないけれど。
「わたし、生まれて初めて好きになった人が貢さんなんです。知り合ったのがちょうど父が倒れた頃だったんで、彼の存在はものすごく心強くて。わたしが前向きな気持ちになれたのも、父の死を心から悲しんで思いっきり泣くことができたのも彼のおかげなんです。それに、今でもすごく助けられてます」
彼がいなければ、わたしが父の死からここまで立ち直れたかどうかも、会長の仕事と高校生活という二刀流だってうまくやり遂げられていたかどうかも分からない。
「――あの、悠さんはご存じですか? 貢さんがいつからわたしのことを好きになったのか。……もしかして、初めて会った時から……とか?」
「うん、実はそうらしい。でも、どうしてそう思ったの?」
「それは……、初対面の夜に、彼が言ってたからです。わたしのお婿さん候補に、自分も入れてもらうことは可能ですか、って。……その時は彼が『冗談です』ってごまかしてたんで、わたしも本気で言ってるのかホントに冗談なのか分からなかったんですけど」
「へぇー、アイツそんなこと言ったのか。でも兄のオレが思うに、そりゃ本気だな」
「やっぱり……。悠さんもそう思われますか?」
前日の彼の言動から、わたしもやっとそれが本気だったんだと受け入れることができた。けれど、同時に「わたしなんかでいいんだろうか」という気持ちもあった。八歳も年下だし、まだ子供だし、彼の恋人になるならもっとふさわしい、お似合いの女性が他にいるんじゃないか。と。
でも……、わたしが彼を好きだという気持ちも、彼も同じ気持ちだったらいいなぁと思っていたことも事実なのだ。
「ということは……、わたしも貢さんも一目ぼれ同士だったってことですよね」
「えっ、そうだったのか? つうことは、アイツと君って知り合った時からすでに両想いだったっつうことかー」
「そう……なりますね。そっか、そうだったんだ……」
その時になってやっと、出会ってからの彼の優しさの意味が心にストンと落ちた。彼がずっとわたしに対して親切だったのも、葬儀の日に親族の前からわたしを連れ出してくれたことも、思いっきり泣かせてくれたことも全部、わたしへのまっすぐな恋心からだったんだと。もちろん、わたしの秘書になってくれたことも。
でも元々誠実な彼のことだから、そこに下心とか打算なんて入り込んでいなかったと思う。
「わたし……、貢さんに謝らなきゃ。既読スルーしちゃったこと。それと、彼にちゃんと気持ち伝えます。だって、誤解されて落ち込まれてるのはイヤだから。――悠さん、ありがとうございました」
「いやいや、いいって。んじゃ、オレはそろそろ帰るわー。あ、アイツにオレのことで何か言われたら、『ナンパされわけじゃない』って言っといてよ。オレ彼女いるし、間違っても弟が惚れた女の子に手ぇ出すようなことは絶対しねぇから」
悠さんはそう言って、すっかり冷めたブラックコーヒーを飲み干した。
「はい、分かりました。そう言っときます」
「よしよし。あ、でも連絡先だけは交換しとこうか。アイツと何かあった時に、絢乃ちゃんがオレを頼れるように」
「ええ、いいですよ。交換しましょう」
わたしは「これってナンパにならないのかな……」と思いながら、悠さんと連絡先を交換した。
――わたしもカフェラテとガトーショコラを平らげたタイミングで、悠さんと二人でお店を出た。
「じゃあな、絢乃ちゃん♪ 貢によろしく。自分の気持ち、しっかりアイツに伝えな」
「はい。今日は本当にありがとうございました!」
わたしは新宿駅前の適当なベンチに腰を下ろし、バッグからスマホを取り出した。メッセージアプリのトーク画面を開き、彼からのメッセージの返信を打とうと思ったけれど、気が変わった。
「こういう時は、ライン打つより電話の方がいいよね」
緑色のアプリを閉じ、電話のアイコンをタップした。履歴から彼の番号をリダイアルする。わたしから彼に電話するのは実に一ヶ月ぶりだった。
『――はい。絢乃さん、どうされたんですか? お電話なんて珍しいですね』
「桐島さん、お休みの日にごめんね? 今、どこで何してるの?」
休日の彼をわたしは知らなかった。週末は実家に帰っていると聞いたけれど、それ以外の情報が極端に少なかったのだ。「コーヒーとクルマが好き」ということ以外に、どんな趣味を持っているのか聞いたことがなかった。
『今は……市谷ですかね。今日は朝から都内のカフェ巡りをしていたんです。ちなみに、僕が会社でお出ししているコーヒーの豆も、実家近くのコーヒー専門店から仕入れてるんですよ。……っと、長々と失礼しました』
自分の好きなことについて生き生きと語る彼は、すごく微笑ましかった。
『それはともかく、絢乃さんは今どちらに?』
「わたしは今、新宿にいるの。里歩と一緒にランチして、ボウリングして、別れた後貴方のお兄さまに声かけられてね。ついさっきまで一緒だったの」
『えっ、兄にですか!? それってナンパじゃ……』
「ナンパじゃないよ。お仕事の帰りに偶然わたしを見かけて声をかけただけだって。……確かに、外見がちょっとチャラチャラしてるから誤解されそうではあるけど」
お兄さまが想像していたとおりの反応に、わたしは電話口で苦笑いした。
悠さんは、外見的には久保さんにちょっと似ているかもしれない。彼の四~五年後、という感じだろうか。
「そんなことより、わたしが今日電話したのはね、貴方と話がしたくて。電話じゃなくて、直接会って話したいの。あと、昨日の既読スルーについても弁解させてほしい。だから……、今から会えないかな? 新宿まで来られる?」
『そこは〝謝りたい〟じゃなくて〝弁解させてほしい〟なんですね』
彼は愉快そうに笑った後、「分かりました」と言った。
『ここからそちらまで近いので、あと十分くらいで着けると思います。では今からクルマで向かいますね』
「うん、待ってるね」
――電話を終えた後、わたしは彼がすぐに見つけられるようその場を動かずにいた。
「昨日のこと謝るだけじゃダメだよね。ちゃんと彼に告白しよう。……でも、何て言ったらいいんだろう……?」
生まれて初めての愛の告白に、どんな言葉を選べばいいのかを一生懸命考えながら、わたしは彼が来るのを待っていた。
「――絢乃さん、お待たせしてすみません」
それから十分もしないうちに貢の愛車が目の前に停まり、運転席の窓から彼が顔を出した。
「ううん、待ってないよ。っていうか謝らないで。呼びつけたのはわたしの方なんだから」
彼に会いたい、と言ったのはわたしのワガママだったのに、どうして彼が謝るの? 謝らなきゃいけないのはむしろわたしの方だったのに。
「あ……、ですよね。絢乃さん、あまり長くクルマを停めておけないので、とりあえず乗って下さい。どこかへ移動しましょう」
路上駐車は迷惑になるし、こんな公衆の面前で告白するのも憚られる。そんなわたしの気持ちを知ってか知らずか、彼はクルマを一旦降りて助手席のドアを開けてくれた。
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