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新しい日々のはじまり
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「もっと他にすることがあると思うんだけどさ、よかったの?本当に。」
「長期休暇も終わったことですし……。ダメでしたか?」
「リアが望むことだ、私は喜んで付き合うさ。」
結局休む暇など欠片もなく、むしろ騒ぎばかりで長期休暇が終わると、セシリアは何事もなかったかのようにまた学園へ通うと言い出したのだった。
王妃帰還の報と王宮での一連の騒動のお蔭でレジナルドの離宮での不敬は闇に葬られる形となった。王宮には騒動の余韻は未だ残るものの、その行方は騎士団と国王の傘下に委ねられたので少なくとも王太子やその婚約者が出る幕はなかった。
「まぁ学園からレイラ嬢もいなくなったことだしいいんだけどね。でも本当にしばらくの間は覚悟決めといてね?」
「はい、公爵家の名に恥じぬよう頑張ります。」
「レジーも頼んだぞ?」
「心配なのはジークのその豹変ぶりもなんだよ?頼むからもうちょっと抑えて?ほら、もっと離れる。」
レジナルドはジークフリートの手をセシリアの肩から外すと頼むよと苦笑した。
長期休暇明けの学園はいつにも増して空気がざわついていたが、まさかその只中に王太子とその婚約者を乗せた馬車が到着するとは誰もが予想もしておらず、学園の玄関前は一目その姿を見ようと集まった者達でちょっとした騒ぎになっていた。
馬車が学園の玄関正面に停まるとレジナルドが扉に手をかけ、二人に向かって頷いて見せた。
「行くよ?」
レジナルドは先に馬車を降りると扉を支え、次にジークフリートが降り立つのをじっと見守る。続いて軽やかに降り立ったジークフリートは上着をすっと整えるとそのまま恭しく馬車の中に向って手を差し伸べた。
馬車の中からセシリアの白い手が現れた瞬間、注目していた学園中の者たちが一気に沸き立った。悲鳴に近いものも混ざっているようだ。
「ほら、ね?」
二人にだけ見えるように口を動かしたレジナルドが先導するように歩き出すと自然に人垣が割れて道ができはじめた。馬車を降りたセシリアはジークフリートの方に向って頷くと手を取り合ってゆっくりと歩き出す。人垣に囲まれた二人はまるで結婚式を終えたばかりのような祝福を受けることになった。
「おめでとうございます!」
「殿下!おめでとうございます!」
ジークフリートは祝福の声に応えるように一度立ち止まると、セシリアの左手を軽く持ち上げそこに恭しく口付けた。セシリアの左手には朝の陽射しを受けて銀色の『妃の指輪』が眩く光り輝いていた。
「ジーク様!」
赤くなり恥ずかしそうにするセシリアを横目に、ジークフリートは嬉しそうにその左手を高く掲げると周りによく見えるようにした。
「あ~あ、あれだけ抑えろって言ったのに…。」
人垣の中には意味も分からずにただ便乗して騒いでいるだけの者も多かったが、ジークフリートが嬉しそうに祝福に応える姿を見てそれがセシリアが正式な妃であると示す指輪であることを悟った者も少なくなかった。本来ならば王太子の結婚式の日に贈られる指輪だと気付いた者は少ないはずだ。
「結婚式まで待たなくても問題ないと母上は言っていたからな。本当の事は私たちだけが知っていればいい。」
「リア様は自分のものだって見せつけたいだけなんじゃないの?」
「違う、これからそうなるんだと見せつけたいだけだ。」
「それ婚約って言うんだよ?知ってた?」
「お二人とも、そろそろ限界です。ジーク様、手を降ろしてください。」
真っ赤な顔をして訴えるセシリアを目にすると、ジークフリートは何とも言えない表情になりすぐに手を降ろし、セシリアをその背に隠した。
「はいはい、俺は何も見ませんからね?」
「とりあえずこの場を離れましょう?お願いですから……。」
収拾のつかなくなりそうな勢いの人垣を抜けると、前を行くレジナルドが二人を振り返りながらニッコリと笑った。
「それにしてもこの景色、フェルナンド殿下にも見せたかったな。」
「仮にヴィルヘルムにいたとしても姉上と同い年だからアイツはもう卒業していただろう?」
「あ~、もうそうだけどさ?その通りなんだけどさぁ?何かほらみんながこんなに祝福してるところを見せつけたいよね!」
ジークフリートはレジナルドの肩を叩くと輝くような笑顔を見せた。
「それなら私に任せておけ。二年後の結婚式にはフェルナンドを必ず招待する。」
「でしたら私にも一つ考えがあります。」
ざわめきが少し遠のいた所でセシリアが歩みを緩めると嬉しそうに微笑んだ。
「何?リア様の考えって。」
セシリアはゆっくりと二人の顔を眺めると、内緒話をするかのように人差し指を立てた。
「明日にでも、私招待状を書いてステーリアに送ります。」
「は?明日?」
「二年後の結婚式の招待状を明日……か?」
「はい、いい考えだと思いませんか?」
「いいね、リア様最高!」
「フェルナンドの奴の悔しがる顔が目に浮かぶな!」
長期休暇明けの学園は騒ぎを聞き付け集まった教師たちによりようやく事態の収拾がつくまで、それから半日かかった。
「長期休暇も終わったことですし……。ダメでしたか?」
「リアが望むことだ、私は喜んで付き合うさ。」
結局休む暇など欠片もなく、むしろ騒ぎばかりで長期休暇が終わると、セシリアは何事もなかったかのようにまた学園へ通うと言い出したのだった。
王妃帰還の報と王宮での一連の騒動のお蔭でレジナルドの離宮での不敬は闇に葬られる形となった。王宮には騒動の余韻は未だ残るものの、その行方は騎士団と国王の傘下に委ねられたので少なくとも王太子やその婚約者が出る幕はなかった。
「まぁ学園からレイラ嬢もいなくなったことだしいいんだけどね。でも本当にしばらくの間は覚悟決めといてね?」
「はい、公爵家の名に恥じぬよう頑張ります。」
「レジーも頼んだぞ?」
「心配なのはジークのその豹変ぶりもなんだよ?頼むからもうちょっと抑えて?ほら、もっと離れる。」
レジナルドはジークフリートの手をセシリアの肩から外すと頼むよと苦笑した。
長期休暇明けの学園はいつにも増して空気がざわついていたが、まさかその只中に王太子とその婚約者を乗せた馬車が到着するとは誰もが予想もしておらず、学園の玄関前は一目その姿を見ようと集まった者達でちょっとした騒ぎになっていた。
馬車が学園の玄関正面に停まるとレジナルドが扉に手をかけ、二人に向かって頷いて見せた。
「行くよ?」
レジナルドは先に馬車を降りると扉を支え、次にジークフリートが降り立つのをじっと見守る。続いて軽やかに降り立ったジークフリートは上着をすっと整えるとそのまま恭しく馬車の中に向って手を差し伸べた。
馬車の中からセシリアの白い手が現れた瞬間、注目していた学園中の者たちが一気に沸き立った。悲鳴に近いものも混ざっているようだ。
「ほら、ね?」
二人にだけ見えるように口を動かしたレジナルドが先導するように歩き出すと自然に人垣が割れて道ができはじめた。馬車を降りたセシリアはジークフリートの方に向って頷くと手を取り合ってゆっくりと歩き出す。人垣に囲まれた二人はまるで結婚式を終えたばかりのような祝福を受けることになった。
「おめでとうございます!」
「殿下!おめでとうございます!」
ジークフリートは祝福の声に応えるように一度立ち止まると、セシリアの左手を軽く持ち上げそこに恭しく口付けた。セシリアの左手には朝の陽射しを受けて銀色の『妃の指輪』が眩く光り輝いていた。
「ジーク様!」
赤くなり恥ずかしそうにするセシリアを横目に、ジークフリートは嬉しそうにその左手を高く掲げると周りによく見えるようにした。
「あ~あ、あれだけ抑えろって言ったのに…。」
人垣の中には意味も分からずにただ便乗して騒いでいるだけの者も多かったが、ジークフリートが嬉しそうに祝福に応える姿を見てそれがセシリアが正式な妃であると示す指輪であることを悟った者も少なくなかった。本来ならば王太子の結婚式の日に贈られる指輪だと気付いた者は少ないはずだ。
「結婚式まで待たなくても問題ないと母上は言っていたからな。本当の事は私たちだけが知っていればいい。」
「リア様は自分のものだって見せつけたいだけなんじゃないの?」
「違う、これからそうなるんだと見せつけたいだけだ。」
「それ婚約って言うんだよ?知ってた?」
「お二人とも、そろそろ限界です。ジーク様、手を降ろしてください。」
真っ赤な顔をして訴えるセシリアを目にすると、ジークフリートは何とも言えない表情になりすぐに手を降ろし、セシリアをその背に隠した。
「はいはい、俺は何も見ませんからね?」
「とりあえずこの場を離れましょう?お願いですから……。」
収拾のつかなくなりそうな勢いの人垣を抜けると、前を行くレジナルドが二人を振り返りながらニッコリと笑った。
「それにしてもこの景色、フェルナンド殿下にも見せたかったな。」
「仮にヴィルヘルムにいたとしても姉上と同い年だからアイツはもう卒業していただろう?」
「あ~、もうそうだけどさ?その通りなんだけどさぁ?何かほらみんながこんなに祝福してるところを見せつけたいよね!」
ジークフリートはレジナルドの肩を叩くと輝くような笑顔を見せた。
「それなら私に任せておけ。二年後の結婚式にはフェルナンドを必ず招待する。」
「でしたら私にも一つ考えがあります。」
ざわめきが少し遠のいた所でセシリアが歩みを緩めると嬉しそうに微笑んだ。
「何?リア様の考えって。」
セシリアはゆっくりと二人の顔を眺めると、内緒話をするかのように人差し指を立てた。
「明日にでも、私招待状を書いてステーリアに送ります。」
「は?明日?」
「二年後の結婚式の招待状を明日……か?」
「はい、いい考えだと思いませんか?」
「いいね、リア様最高!」
「フェルナンドの奴の悔しがる顔が目に浮かぶな!」
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