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普通の女の子

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「レジナルド様は以前フェルナンド殿下からドーナツの作り方を教わってそれを再現されたのでしたよね?」
 琥珀色の髪をした少女は嬉しそうに目を輝かせて隣にいる騎士を見上げた。
「ん…あぁ、そんなこともあったかな?」
「南国の新しい菓子でしたか?あれは再現するのに苦労されたと私もレジー殿から聞いております。」
「そうだ…苦労したんだった。」
「まぁ、フェルナンド殿下の手紙では上手く伝わらなかったのでしょうか?」
「そうだな、菓子はやはり実際に味わったものでないとな…」
「そうそう、殿下だって実際に作られた訳じゃないから作り方もそこまで詳しく書いてなかった…らしいですよ?」
 レジナルドはエリックに目配せをした。
「ソフィア嬢はどんな菓子がお好きなのですか?」
「あら、私ですか?そうですわねぇ…。カラフルな見た目で一口で摘めるような物が好きですわ、チョコレートや飴、ゼリー何でもいいんですの、甘ければ。」
 ドーナツから話を逸らすことが出来た…上出来だ。
「そうでしたか。女性はやはり見た目が可愛らしいものがお好きなのでしょう?」
 ソフィアはにっこりと笑うと可愛らしく首を傾げてみせた。
「レジナルド様も同じなのでは?見た目は可愛らしい方がお好きでしょ?」
「…そんな事はありません。」
 レジナルドはその姿を冷ややかな目で見ていた。セシリアの従妹であるソフィアという娘の狙いはどうやらジークフリートではなく自分で正解だったようだ。

 ビューロー侯爵邸に到着して早々ソフィアは侯爵の所まで挨拶に来たのだと無理矢理王宮まで押しかけてきた。そして騎士団に来たところでばったりとジークフリート一行に出くわしてしまったのだ。
 ソフィアはセシリアと同じ色の髪と肌をしていた。瞳は薄い青色で少し遠目に見れば確かにセシリアと似ているところもある。しかし漂う雰囲気はセシリアと言うよりどちらかと言えばレイラ寄り──ピンク色のドレスに負けないほどはっきりとした目鼻立ちのとても華やかなご令嬢だった。
 急いでいるからと挨拶だけしてその場をやり過ごそうとしたその時、ソフィアがすれ違いざまにレジナルドに向かって声をかけてきた。
「貴方がジークフリート殿下の幼馴染だというレジナルド様ですね?」
 レジナルドが返事をするよりジークフリートがの肩を叩く方が先だった。
「ソフィア嬢、こちらがレジナルドだ…。その騎士はエリックと言う。二人とも私に仕えている者だが、良かったら後で王宮を案内させよう。私は忙しいから代わりに…。」
「ありがとうございます、殿下。では楽しみにしておりますわ。、後ほど。」
 ソフィアはに向かってニッコリと笑いかけるとその場で王太子一行を見送った。

 そこから急遽エリックをレジナルドの身代わりに立てるという手荒な作戦が立てられたのだ。ソフィアがいくら頑張ったところでエリックが相手ならば引き出せる情報は少ない。エリックが時間を稼いでいる間にレジナルドも自由に動けることになる。何処まで通用するかは分からなかったがせめてセシリアが戻って来るまでは少しでも長く時間を稼ぎたいという思惑があった。

「今王宮の案内終わってソフィア嬢がやっと帰って行ったよ。明日も来るってさ…。」
「ご苦労だったな。やはりレジーが狙いだったんだな?早速色目を使っていたそうじゃないか。」
 ジークフリートは椅子にもたれたままレジナルドを楽しそうに見上げた。
「下調べもある程度はしてきたんだと思う。でも、この先どう持って行くつもりだと思う?」
「正直まださっぱりだ。もう少し様子見という所だな。エリックは上手くやれそうか?」
「それ!なんか今んとこ行けそうな感じなんだよね、不思議と。エリックの方がかなり年上なのになんでバレてないのか逆に不思議かも。」
「たまたまエリックは休み明けで髭を剃って髪も短くしていたからな、顔だけではなかなか判断できないのだろう。まぁ裸でも見ない限りはバレないのではないか?」
「裸?いや、それは流石にエリックでも不味いだろ?」
「お前の方が不味いに決まっている。」
「…」
「それで?ビューロー侯爵の邸までエリックが送って行ったというのは本当か?」
「あぁ、一応止めようとしたんだけどちょっとした手違いがあって…。」
「手違いが?」
 レジナルドはジークフリートの隣の椅子に座りながら、申し訳なさそうに切り出した。
「一つ言い忘れてたんだけど、エリックはああ見えて惚れっぽい所がある。」
「それは…不味いのではないか?」
「まぁ今日は大丈夫だろう…。明日の事は俺には何とも言えない。」
「エリック…。」
 ジークフリートは早くもエリックを身代わりに立てたことを後悔し始めていた。
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