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大切な人と食べるアイスクリーム
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一年前の花祭りの夜、ジークフリートと二人でアイスクリームを食べようと思い立ったのは偶然だった。たまたま朝から蒸し暑く不快な一日だったので、急遽思い立って料理長に相談したのだったと記憶している。
花祭りの夜は王宮に残る陛下と王太子の為に特別なメニューを考えていた料理長も、その日の暑さに閉口していたため快く承諾してくれた。そうと決まれば氷室の使用許可を取ることなどレジナルドにとっては容易いことだった。こういう時に自分が公爵家、つまりは王家と遠戚にあたる身分であることを実感する。王太子の側近というだけではこういう無茶はできなかっただろう。
──まさか一年後に三人でアイスクリームを食べることになるなんて、あの時は思いもしなかったな。
花祭りを後日に控え、護衛の騎士の配置も当日の動きも全てが順調に整えられた。結局王宮から祭りに参加するのは例年通りリーナ王女の一人…。セシリアは王宮でゆっくりと過ごすことを選んだのだ。ジークフリートにとってもセシリアと二人でゆっくりと過ごせるいい機会だ。
準備のために下見に上がった塔の上から王都の広場を見下ろし、レジナルドは吹き上げる風にその髪を揺らした。広場を見渡せる南の塔のここならば三人が座るテーブルを置いても広さ的には問題はないだろう。あとは暗くなった後のことを考えて灯りをいくつか配置して…。
視線を上げると広場の中央にある時計台が目に入った。祭りの当日、この時計台の午前零時の鐘が鳴る時ジークフリートは婚約者の手をとって愛を囁くのだろう。『恋人たちの時間』と呼ばれるそのほんのひと時──広場の灯りが全て落とされた瞬間に手をとりあう二人の姿が目に浮かぶようだ。
セシリアと思いが通じ合ってからのジークフリートはどこかレジナルドに遠慮をしている。レジナルドがセシリアに思いを寄せていたことを知っているのだからそれは仕方ないことなのだが、いつまでも遠慮されていたらこちらも申し訳なく思ってしまう。一方的に二人の邪魔をしたのは自分の方なのだから。
──花祭りの夜くらい、二人きりにしてほしいと言えばいいのに。
ジークフリートは祭りは三人で過ごすと言って聞かないだろう。その気持ちは嬉しいがそれが遠慮をしてのことならば余計な気は遣わないで欲しい。自分はただ、本当に大切な人には幸せになってほしい…そう思っている。
「世話の焼ける二人だな…。」
ジークフリートもまた同じように考えていた。レジナルドは花祭りの夜くらいはとセシリアと自分を二人きりにしようと気を遣うことだろう。特に夜暗くなってからは…。セシリアと二人で過ごす時間は確かに大事だ。しかしジークフリートとレジナルドが花祭りを一緒に過ごすこともひょっとしたらあと数回しかないかもしれない。先の事は誰にも分からない。去年の自分は今年の花祭りもレジナルドと二人である事を疑いもしなかったのだ。来年はこの三人が二人になっているかもしれない、四人に増えることも…。
今を大事にしたい、大切な人と一緒に過ごしたい。花祭りの夜に将来の伴侶と巡り合うことができるという言い伝えを共に笑いあった幼馴染。自分とセシリアが二人きりになったならばレジナルドは一人だ。
アイスクリームを口にした時のレジナルドの嬉しそうな笑顔が目に浮かんだ。甘いものを食べると人は幸せな気持ちになるというが、その顔を見ただけで周りも幸せになれるのだ。
「一人でアイスクリームを食べるなんて、そんなの駄目だろう。」
思わず口をついて出た言葉にジークフリートは一人微笑んだ。
花祭りの夜は王宮に残る陛下と王太子の為に特別なメニューを考えていた料理長も、その日の暑さに閉口していたため快く承諾してくれた。そうと決まれば氷室の使用許可を取ることなどレジナルドにとっては容易いことだった。こういう時に自分が公爵家、つまりは王家と遠戚にあたる身分であることを実感する。王太子の側近というだけではこういう無茶はできなかっただろう。
──まさか一年後に三人でアイスクリームを食べることになるなんて、あの時は思いもしなかったな。
花祭りを後日に控え、護衛の騎士の配置も当日の動きも全てが順調に整えられた。結局王宮から祭りに参加するのは例年通りリーナ王女の一人…。セシリアは王宮でゆっくりと過ごすことを選んだのだ。ジークフリートにとってもセシリアと二人でゆっくりと過ごせるいい機会だ。
準備のために下見に上がった塔の上から王都の広場を見下ろし、レジナルドは吹き上げる風にその髪を揺らした。広場を見渡せる南の塔のここならば三人が座るテーブルを置いても広さ的には問題はないだろう。あとは暗くなった後のことを考えて灯りをいくつか配置して…。
視線を上げると広場の中央にある時計台が目に入った。祭りの当日、この時計台の午前零時の鐘が鳴る時ジークフリートは婚約者の手をとって愛を囁くのだろう。『恋人たちの時間』と呼ばれるそのほんのひと時──広場の灯りが全て落とされた瞬間に手をとりあう二人の姿が目に浮かぶようだ。
セシリアと思いが通じ合ってからのジークフリートはどこかレジナルドに遠慮をしている。レジナルドがセシリアに思いを寄せていたことを知っているのだからそれは仕方ないことなのだが、いつまでも遠慮されていたらこちらも申し訳なく思ってしまう。一方的に二人の邪魔をしたのは自分の方なのだから。
──花祭りの夜くらい、二人きりにしてほしいと言えばいいのに。
ジークフリートは祭りは三人で過ごすと言って聞かないだろう。その気持ちは嬉しいがそれが遠慮をしてのことならば余計な気は遣わないで欲しい。自分はただ、本当に大切な人には幸せになってほしい…そう思っている。
「世話の焼ける二人だな…。」
ジークフリートもまた同じように考えていた。レジナルドは花祭りの夜くらいはとセシリアと自分を二人きりにしようと気を遣うことだろう。特に夜暗くなってからは…。セシリアと二人で過ごす時間は確かに大事だ。しかしジークフリートとレジナルドが花祭りを一緒に過ごすこともひょっとしたらあと数回しかないかもしれない。先の事は誰にも分からない。去年の自分は今年の花祭りもレジナルドと二人である事を疑いもしなかったのだ。来年はこの三人が二人になっているかもしれない、四人に増えることも…。
今を大事にしたい、大切な人と一緒に過ごしたい。花祭りの夜に将来の伴侶と巡り合うことができるという言い伝えを共に笑いあった幼馴染。自分とセシリアが二人きりになったならばレジナルドは一人だ。
アイスクリームを口にした時のレジナルドの嬉しそうな笑顔が目に浮かんだ。甘いものを食べると人は幸せな気持ちになるというが、その顔を見ただけで周りも幸せになれるのだ。
「一人でアイスクリームを食べるなんて、そんなの駄目だろう。」
思わず口をついて出た言葉にジークフリートは一人微笑んだ。
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