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唯一の存在
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どうしてこうなったのか…。レジナルドは王都にある植物園を散歩しながら自分の立場も忘れてうんざりとした表情を見せ始めていた。
「…で、レジナルド様もそう思っていらっしゃるのでしょう?」
「…そうですね。」
何の話を聞かれたのかもうさっぱり分かっていないのだが、先程から澱みなく話し続けているご令嬢にとりあえず曖昧な返事を返す。
「やっぱり、私もそうだと言いましたのよ?それなのに──。」
まだ話の先は続くようだが植物園の出口が見えてきた。助かった…。
レジナルドは足取りも軽くそちらの方に向かおうとすると、ご令嬢が自分とは全く反対側に向かおうとしていることに気がついた。
「こちらに少しだけよろしくて?私妹に頼まれて少し見たいものが有りますの。」
「…そうでしたか。」
これが済めば…。拳をぐっと握りしめにこやかな表情をどうにか作るとそちらへ向かう。このよく喋るご令嬢、実はあのエリックという騎士の妹なのだ。しかし今の発言からするとこの他に少なくとももう一人は妹がいるということだろう。
ご令嬢が向かった先には植物園で育てられた花の苗やポプリなど土産物が並んだ売店が見える。
──植物園の土産屋か。
レジナルドにも唯一苦手な菓子がある。香りの高いハーブが練り込まれた甘い菓子だ。ケーキや飲み物の上に飾りで載せてあるミントなどはギリギリセーフだがそれでも口にしたくはないので丁寧に取り出してから頂くことに決めている。ハーブティーは物によっては飲まない。何時だったか危うく飲まされそうになったラベンダーティーは控えめに言っても最悪だった。香りは幾ら砂糖を入れても誤魔化せないから…。
勿論ハーブはハーブでも料理の香辛料として口にする物であれば問題は無い。だがあの強い香りはどうも甘い物とは相性が悪いと思っている。
ご令嬢が土産に買うのは珍しい花か何かだろうかと遠目に眺めながら待っていると、迷うことなく一直線に菓子の置いてある棚に向かっているのが見えた。なんだか嫌な予感が…。
「お待たせ致しました。さぁ、こちらは先程お話していた物です、私からレジナルド様に。」
にこやかに差し出されたのは──予想通りその色が目にも鮮やかなハーブティーとクッキーのセットだ。
──先程お話していた、と今言ったよな?
ろくに話も聞かずに曖昧な返事を返していた罰なのだろうか…。ハーブティーの色はどう見てもラベンダーのそれだ。クッキーの方はなんだか小さい葉っぱなので種類まではよく分からない。
ゴクリと唾を飲み込むとその包みを受け取り、申し訳ないがお礼の言葉はどうやっても出てきそうにないので黙って頭だけ下げておいた。
エリックにも土産を渡すと言うので騎士団までご令嬢を送り届けるとそのままジークフリートの執務室に向かって重たい足を運ぶ。
「ただいま…。」
「随分と早かったのだな?」
「あぁ、問題は無さそうだったよ。だからわざわざ二人で下見なんか行く必要ないって言ったのにさ…。」
そう、今回の任務、実はジークフリートがセシリアを伴い初めての公務で訪れる予定の植物園の下見だったのだ。レジナルドが一人で行こうとしているのを何処から聞いてきたのかエリックが是非妹を連れて行って欲しいと父親に直訴したそうで…。花祭りのリーナの護衛にエリックを付けて貰った件もあったので此方としても了承するしかなかったのだ。
「で、伯爵令嬢の方はどうだった?」
──ははーん、やっぱり。ジークの奴も一枚噛んでいたな?
レジナルドはジークフリートの目の前に土産の袋を突き付けるように掲げた。
「これは…。レジー残念だったな…。」
ジークフリートはレジナルドが嫌いな物もよく知っているから土産の袋を見ただけで察したようだ。
「何か企んでたな?」
「お前に良かれと思ってだな…。兄の騎士とは好みが似ているようだとスコール団長も言っていたから。」
「好みが似ているのは兄の方だし、甘いものに関してだけだから!女の子の好みはまた別でしょ?」
「…そんなに怒るとは思わなかったんだ。」
「怒っては…ないよ…。」
お土産をジークフリートの机の上にそっと置く。
分かってる、ジークもあのよく喋る妹殿も悪くないんだ。…でも、何か分からないけど直感的に駄目だと思う物って、誰にでも一つくらいはあると思うんだよね…。
「しかしどうして彼女はお前の唯一嫌いなものを選んだんだ?」
「…それが、話の流れで選んだみたいなんだけど。よく分からないんだ。」
「分からない?どうせ上の空で聞いていなかったんだろう?」
──やっぱりお見通しかよ。
「ごめん。ずーっとしゃべり通しだったからいい加減疲れちゃって…。」
「なんだ、そんなに話が合う相手だったのか?」
「違う、向こうが一方的にずっと喋ってたんだよ!」
「一方的に?」
ジークフリートの目が一気に優しくなった──いや、あれは憐みの目だな。
「…で、レジナルド様もそう思っていらっしゃるのでしょう?」
「…そうですね。」
何の話を聞かれたのかもうさっぱり分かっていないのだが、先程から澱みなく話し続けているご令嬢にとりあえず曖昧な返事を返す。
「やっぱり、私もそうだと言いましたのよ?それなのに──。」
まだ話の先は続くようだが植物園の出口が見えてきた。助かった…。
レジナルドは足取りも軽くそちらの方に向かおうとすると、ご令嬢が自分とは全く反対側に向かおうとしていることに気がついた。
「こちらに少しだけよろしくて?私妹に頼まれて少し見たいものが有りますの。」
「…そうでしたか。」
これが済めば…。拳をぐっと握りしめにこやかな表情をどうにか作るとそちらへ向かう。このよく喋るご令嬢、実はあのエリックという騎士の妹なのだ。しかし今の発言からするとこの他に少なくとももう一人は妹がいるということだろう。
ご令嬢が向かった先には植物園で育てられた花の苗やポプリなど土産物が並んだ売店が見える。
──植物園の土産屋か。
レジナルドにも唯一苦手な菓子がある。香りの高いハーブが練り込まれた甘い菓子だ。ケーキや飲み物の上に飾りで載せてあるミントなどはギリギリセーフだがそれでも口にしたくはないので丁寧に取り出してから頂くことに決めている。ハーブティーは物によっては飲まない。何時だったか危うく飲まされそうになったラベンダーティーは控えめに言っても最悪だった。香りは幾ら砂糖を入れても誤魔化せないから…。
勿論ハーブはハーブでも料理の香辛料として口にする物であれば問題は無い。だがあの強い香りはどうも甘い物とは相性が悪いと思っている。
ご令嬢が土産に買うのは珍しい花か何かだろうかと遠目に眺めながら待っていると、迷うことなく一直線に菓子の置いてある棚に向かっているのが見えた。なんだか嫌な予感が…。
「お待たせ致しました。さぁ、こちらは先程お話していた物です、私からレジナルド様に。」
にこやかに差し出されたのは──予想通りその色が目にも鮮やかなハーブティーとクッキーのセットだ。
──先程お話していた、と今言ったよな?
ろくに話も聞かずに曖昧な返事を返していた罰なのだろうか…。ハーブティーの色はどう見てもラベンダーのそれだ。クッキーの方はなんだか小さい葉っぱなので種類まではよく分からない。
ゴクリと唾を飲み込むとその包みを受け取り、申し訳ないがお礼の言葉はどうやっても出てきそうにないので黙って頭だけ下げておいた。
エリックにも土産を渡すと言うので騎士団までご令嬢を送り届けるとそのままジークフリートの執務室に向かって重たい足を運ぶ。
「ただいま…。」
「随分と早かったのだな?」
「あぁ、問題は無さそうだったよ。だからわざわざ二人で下見なんか行く必要ないって言ったのにさ…。」
そう、今回の任務、実はジークフリートがセシリアを伴い初めての公務で訪れる予定の植物園の下見だったのだ。レジナルドが一人で行こうとしているのを何処から聞いてきたのかエリックが是非妹を連れて行って欲しいと父親に直訴したそうで…。花祭りのリーナの護衛にエリックを付けて貰った件もあったので此方としても了承するしかなかったのだ。
「で、伯爵令嬢の方はどうだった?」
──ははーん、やっぱり。ジークの奴も一枚噛んでいたな?
レジナルドはジークフリートの目の前に土産の袋を突き付けるように掲げた。
「これは…。レジー残念だったな…。」
ジークフリートはレジナルドが嫌いな物もよく知っているから土産の袋を見ただけで察したようだ。
「何か企んでたな?」
「お前に良かれと思ってだな…。兄の騎士とは好みが似ているようだとスコール団長も言っていたから。」
「好みが似ているのは兄の方だし、甘いものに関してだけだから!女の子の好みはまた別でしょ?」
「…そんなに怒るとは思わなかったんだ。」
「怒っては…ないよ…。」
お土産をジークフリートの机の上にそっと置く。
分かってる、ジークもあのよく喋る妹殿も悪くないんだ。…でも、何か分からないけど直感的に駄目だと思う物って、誰にでも一つくらいはあると思うんだよね…。
「しかしどうして彼女はお前の唯一嫌いなものを選んだんだ?」
「…それが、話の流れで選んだみたいなんだけど。よく分からないんだ。」
「分からない?どうせ上の空で聞いていなかったんだろう?」
──やっぱりお見通しかよ。
「ごめん。ずーっとしゃべり通しだったからいい加減疲れちゃって…。」
「なんだ、そんなに話が合う相手だったのか?」
「違う、向こうが一方的にずっと喋ってたんだよ!」
「一方的に?」
ジークフリートの目が一気に優しくなった──いや、あれは憐みの目だな。
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