騎士様は甘い物に目がない

ゆみ

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幻のタルト

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 フェルナンド王太子は今回の来訪でセシリア嬢をステーリアまで連れ帰ることは諦めたようだ。しかしリーナ王女との婚約はまだ正式に結ばれた訳では無い、保留だ。結論を先延ばししたような感は否めない。もちろんジークフリートの事だ、フェルナンド王太子が次の手を仕掛けてくることも考え、早々にセシリア嬢との婚姻を結ぶよう動く事だろう…。
 しかし、フェルナンド王太子がセシリア嬢に渡した首飾りを見た時には驚いた。あんな見事なブルーサファイアを目にする事が出来るとは…。フェルナンド王太子とセシリア嬢は同じ様に紺色の瞳をしている。首飾りにあしらわれたブルーサファイアもまた同じ色の輝きを放つ素晴らしいものだった。それを見て確信した。候爵夫人が密かに手配していたのはこの首飾りだったのだ。

 ふと手に持っていた皿に視線を落とす。そこには艶々に輝くブルーベリーがふんだんに載せられたブルーベリータルト…。食べなくてもその甘さが分かってしまうほどに濃い紺色。
 フォークを持った手が自然に下がるのが分かった。

 これで、この先全てが上手く行くはずだ。ジークフリートは彼女を守ると何度も誓ってくれた。自分もまたジークフリートを護ると誓ったのだ。
 レジナルドもうすうすは気付いていた。セシリア嬢は、ただただ守られるだけの儚い人ではない。そして認めないといけないことも分かっている。とても賢く、気高く、花のように甘く笑う──愛しい存在。それは決してレジナルドのような者が手に入れることは出来ない…。
 熱いものが込み上げてくるのがわかったがもう止めることが出来なかった。

──なんてことだ、食べられる訳がなかった。目の前に、すぐ目の前の皿の上にそれはあると言うのに…。
 この先、この季節が巡って来る度にこんな思いをするのはごめんだ、そう思った。

 机の上に皿をそっと置くが息を整えることはまだ出来そうにない。今はまだこれでいい…。ジークフリートもきっと許してくれるはずだ。もう少しだけ、このままで…。
 目を閉じて頬を流れる熱いものはそのままに両手で顔を覆った。

 貴方は気づいているだろうか?
 ブルーベリーは口に入れその歯で齧るまで香ることはない。甘く香った気がしたのはきっと幻──。
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