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謝罪と約束
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余程急いで駆けつけたのだろう。ロジェは息を整えるとソファーに崩れ落ちたままのシルヴィに向かって前置きもなくいきなり怒鳴り声を上げた。
「一体何の真似だ?あそこで何をしていた?」
シルヴィはその勢いに驚き瞬きを数回するとロジェの顔を真っ直ぐに見上げた。
──やっぱり、またこの人は怒っている。
ロジェはポカンと見上げるだけで何も言おうとしないシルヴィに気を削がれたのか向いのソファーの背にガックリと手をついた。
「ガレル商会に何の用があった?もしかしてあの指輪を持ち込む気だったのか?」
「……貴方に会えるかと思って。」
「は?」
ロジェが顔を上げると琥珀の瞳が光を受けて明るく輝いた。栗色の髪も普段より明るく見える。
「友人が貴方をガレル商会でよく見かけると言っていたから、あそこで待っていたら会えるかもしれないと思って。」
「……」
「ごめんなさい。」
「どうして謝る?」
「また 馬鹿な真似をするな と怒るんでしょう?」
「そうだな。まぁ、それはいい。」
ロジェはやれやれと言うように頭を振りながらため息をついた。
「私も時間がないから手短にしてほしい。用とはなんだ?会いたかったというのであれば何か話したい事があるんだろう?」
「……はい。」
「レオに会いたいと言っているとアングラード侯爵から聞いた。その件か?」
ロジェは窓の外を見ているフリをしてシルヴィに目を向けようとしなかった。
シルヴィは自分が何か悪いことをしているような気分になって手元に視線を落とすと頷いた。
「侯爵から聞いてらしたんですね。」
「……相談されただけだ。レオと会わせるかどうかを最終的に決めるのは私ではない。」
「ロジェ様は事情を全部ご存知ですよね?レオ様は本当にご無事なんですか?」
ロジェが再びうんざりした様子でため息をつくのが分かった。余程この話をシルヴィにしたくないのだろう。
「またその話か。レオは無事だと言ったはずだ。それをまた聞いてどうする?」
「はっきり知りたいんです。今レオ様の身に何が起きているのかを。」
「……シルヴィ、君はもうレオの婚約者ではないはずだ。部外者に言えることはこれ以上何もない。」
シルヴィは何か言い返してやりたいと思いながら続ける言葉を必死に探した。
「部外者……かもしれませんけれど。」
「婚約している間一度も会わなかった、それが君の答えだったはずだ。それなのに今更会いたいと言われてもレオだって困る。」
「そうやってみんながレオ様の事を隠そうとするから余計気になるんじゃないですか。」
「会ったら話したくなる、話したら相手に好意を抱くかもしれない……そう言ったのは君じゃなかったか?」
「一年前と今では状況が違います……っていうか、どうしてそれを?」
窓の外に門から入って来た馬車が確認できた。恐らくロジェを迎えに来たのだろう。
ロジェは視線をシルヴィに戻すと、上着の襟を整え直した。
「時間だ。私はもう行く。」
「……」
ロジェは扉に手をかける前に一度立ち止まると、背中越しにシルヴィに声をかけた。
「夜、出てくることが出来るか?そうだな……今夜は無理だが。明日の夜。」
「それは、できますけど。何があるんですか?」
「迎えをやるからここへもう一度来い。直接会わせることはできないが顔を見せてやることくらいできるかもしれない。」
ロジェはシルヴィの返事を待たずに扉を開けると慌ただしく立ち去った。
シルヴィはその場から動くこともできず、遠ざかっていく足音に耳を傾けていた。
ドキドキと鼓動が早まっている。
──明日の夜、レオ様に会える。
ロジェはレオの名前こそ出さなかったが、会話の内容から明らかにそういうことだ。
ソファーにうずくまったまま一向に動こうとしないシルヴィを、扉の陰から二人の大男が心配そうに見ていた。
やがて、シルヴィが顔を上げたのを確認すると日に焼けた男の方が気まずそうに声をかけてきた。
「長い間何もない所でお待たせして申し訳ありませんでした。お腹……空いてますよね?」
シルヴィはようやく自分の空腹を思い出すと、二人を軽く睨んだ。
「お腹も空いたけど、それよりも喉が乾きました。」
「はい、でしたら今すぐ!」
「いいから、もう帰らせてくれない?」
男二人は動きを止めると、目配せをしあってしょんぼりとうなだれた。
まるで叱られた大型犬のようなその姿にシルヴィは思わず苦笑した。
「あなた達、ガレル商会の関係者じゃなかったの?」
「いえ、私達はロジェ王子の部隊の者です。」
「部隊……というと、軍の騎士隊の?」
「はい。帰還してからは各隊順番に王都の警邏を担当しています。それで今日はたまたま商会から連絡があったので見回りをして警戒していただけです。」
「そうだったの。」
ロジェの隊所属ということはこの二人も先に帰還してきたのだろう。
昨日から王都へは続々と本隊が到着しはじめていた。多くの者が家族との再会を喜び、街には帰還を祝う空気が満ち始めていた。
全てが次に向けて動き出そうとしている中で、身動きがとれないでいたシルヴィもまた動き出せそうな予感がした。
「一体何の真似だ?あそこで何をしていた?」
シルヴィはその勢いに驚き瞬きを数回するとロジェの顔を真っ直ぐに見上げた。
──やっぱり、またこの人は怒っている。
ロジェはポカンと見上げるだけで何も言おうとしないシルヴィに気を削がれたのか向いのソファーの背にガックリと手をついた。
「ガレル商会に何の用があった?もしかしてあの指輪を持ち込む気だったのか?」
「……貴方に会えるかと思って。」
「は?」
ロジェが顔を上げると琥珀の瞳が光を受けて明るく輝いた。栗色の髪も普段より明るく見える。
「友人が貴方をガレル商会でよく見かけると言っていたから、あそこで待っていたら会えるかもしれないと思って。」
「……」
「ごめんなさい。」
「どうして謝る?」
「また 馬鹿な真似をするな と怒るんでしょう?」
「そうだな。まぁ、それはいい。」
ロジェはやれやれと言うように頭を振りながらため息をついた。
「私も時間がないから手短にしてほしい。用とはなんだ?会いたかったというのであれば何か話したい事があるんだろう?」
「……はい。」
「レオに会いたいと言っているとアングラード侯爵から聞いた。その件か?」
ロジェは窓の外を見ているフリをしてシルヴィに目を向けようとしなかった。
シルヴィは自分が何か悪いことをしているような気分になって手元に視線を落とすと頷いた。
「侯爵から聞いてらしたんですね。」
「……相談されただけだ。レオと会わせるかどうかを最終的に決めるのは私ではない。」
「ロジェ様は事情を全部ご存知ですよね?レオ様は本当にご無事なんですか?」
ロジェが再びうんざりした様子でため息をつくのが分かった。余程この話をシルヴィにしたくないのだろう。
「またその話か。レオは無事だと言ったはずだ。それをまた聞いてどうする?」
「はっきり知りたいんです。今レオ様の身に何が起きているのかを。」
「……シルヴィ、君はもうレオの婚約者ではないはずだ。部外者に言えることはこれ以上何もない。」
シルヴィは何か言い返してやりたいと思いながら続ける言葉を必死に探した。
「部外者……かもしれませんけれど。」
「婚約している間一度も会わなかった、それが君の答えだったはずだ。それなのに今更会いたいと言われてもレオだって困る。」
「そうやってみんながレオ様の事を隠そうとするから余計気になるんじゃないですか。」
「会ったら話したくなる、話したら相手に好意を抱くかもしれない……そう言ったのは君じゃなかったか?」
「一年前と今では状況が違います……っていうか、どうしてそれを?」
窓の外に門から入って来た馬車が確認できた。恐らくロジェを迎えに来たのだろう。
ロジェは視線をシルヴィに戻すと、上着の襟を整え直した。
「時間だ。私はもう行く。」
「……」
ロジェは扉に手をかける前に一度立ち止まると、背中越しにシルヴィに声をかけた。
「夜、出てくることが出来るか?そうだな……今夜は無理だが。明日の夜。」
「それは、できますけど。何があるんですか?」
「迎えをやるからここへもう一度来い。直接会わせることはできないが顔を見せてやることくらいできるかもしれない。」
ロジェはシルヴィの返事を待たずに扉を開けると慌ただしく立ち去った。
シルヴィはその場から動くこともできず、遠ざかっていく足音に耳を傾けていた。
ドキドキと鼓動が早まっている。
──明日の夜、レオ様に会える。
ロジェはレオの名前こそ出さなかったが、会話の内容から明らかにそういうことだ。
ソファーにうずくまったまま一向に動こうとしないシルヴィを、扉の陰から二人の大男が心配そうに見ていた。
やがて、シルヴィが顔を上げたのを確認すると日に焼けた男の方が気まずそうに声をかけてきた。
「長い間何もない所でお待たせして申し訳ありませんでした。お腹……空いてますよね?」
シルヴィはようやく自分の空腹を思い出すと、二人を軽く睨んだ。
「お腹も空いたけど、それよりも喉が乾きました。」
「はい、でしたら今すぐ!」
「いいから、もう帰らせてくれない?」
男二人は動きを止めると、目配せをしあってしょんぼりとうなだれた。
まるで叱られた大型犬のようなその姿にシルヴィは思わず苦笑した。
「あなた達、ガレル商会の関係者じゃなかったの?」
「いえ、私達はロジェ王子の部隊の者です。」
「部隊……というと、軍の騎士隊の?」
「はい。帰還してからは各隊順番に王都の警邏を担当しています。それで今日はたまたま商会から連絡があったので見回りをして警戒していただけです。」
「そうだったの。」
ロジェの隊所属ということはこの二人も先に帰還してきたのだろう。
昨日から王都へは続々と本隊が到着しはじめていた。多くの者が家族との再会を喜び、街には帰還を祝う空気が満ち始めていた。
全てが次に向けて動き出そうとしている中で、身動きがとれないでいたシルヴィもまた動き出せそうな予感がした。
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