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お迎えの時間
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ダニエルは侍女の言っていた通り昼前には侯爵邸へ凛花を迎えに戻ってきた。これからもう一度騎士団の本部に連れて行かれ、昨日の続きの事情聴取が行われるのだろう。
「遅くなってしまって申し訳ない。」
「大丈夫、そんなに遅れてないわ。」
大丈夫と口にしながらも少し不機嫌そうな凛花の様子を見るとダニエルは顎に手をあてた。
「もしかして、今朝のことで怒ってるのか?」
「……もしかしなくても、そうよ。」
ダニエルは後ろに控えている侍女の方に目をやると凛花の腰に手を回し廊下を歩き出した。少しだけ声のトーンを落とすと二人はこそこそと話しを始める。
「手紙の内容は確認した?」
「どうやって?私に文字が読めるわけないじゃない!誰かに読ませるような迂闊なこともできないでしょ?それよりも、今朝私の部屋にダニエルが寝ていたってどういうこと?」
「じゃあ手紙はまだ読んでないんだね?」
「そうよ!そんなことより、話聞いてる?」
ダニエルは凛花をまじまじと見下ろすとそれには何も答えず、そのまま馬車まで歩いて行く。
──無視?結局肝心な事は何も教えてくれないんだから!
使用人数名に見送られて馬車が動き出すと、凛花は待っていたかのようにダニエルを問いただした。
「それで?今朝のことは話す気がないんでしょ?だったら手紙は?この手紙には何て書いてあったの?」
枕元に置いてあった手紙を懐から取り出した凛花を、ダニエルは驚いた様子で見返した。
「…わざわざ持って来たのか?」
「まずかった?」
ダニエルが凛花の手から手紙を取り返そうとするとそれを予想していたかのように凛花はスっとかわした。
「また誤魔化そうとしてるでしょ?内容教えてくれないと返さないわよ?」
「それは確かにリンカに宛てたものだが……。」
「だが?」
「……もう必要ないだろう?」
「じゃあ、これも私には言えないって事ね?」
「……」
──何なの?ほんっとムカつく!
凛花はダニエルがもう何も白状しそうにないことを悟ると、盛大にため息をつき、その手紙を懐に戻した。
窓の外へ視線を向けると遠くに見える何か高い建物をボーッと眺める。
ダニエルの口数が少ないのは今に始まったことではないのだろう。振り回される周りはたまったものでは無いが、少しずつ凛花にも分かるようになってきた。しかし肝心な事をいつも答えてくれないのはスマホ代わりとしては失格だ。
「それで、馬車が騎士団の本部とは違うところに向かってる気がするのは何故なの?」
また答えてもらえないかもしれないと半分ヤケになりながら、凛花はダニエルを見た。
「分かるのか?流石だな。」
ダニエルは窓の外を顎で示すと感心した様に頷いた。どうやら今回は答えてくれるらしい。
「騎士団本部ではなく王宮に向かっているところだ。着き次第王太子殿下に謁見する。」
「私、この国に来て二日目で何で王太子殿下と謁見とかいう運びになっちゃったんだろう?」
ダニエルは再び窓の外に向けられた凛花の視線の先を目で追いながら首を軽く横に振った。
「今朝陛下に婚約届を出したら途中のどこかで阻止された。だから王太子殿下に直接持って行ったんだ。」
「……王太子殿下ってそうやって簡単に会える人なの?」
「リンカ一人では無理だと思う。俺は殿下なら比較的簡単に会える。陛下は流石に当日約束をするのは難しいかな。」
──前日予約ならOKってことね。やっぱりなんかダニエルって普通の貴族とか騎士と違う感が……。
「殿下が婚約届を陛下に直接渡してくれるんだが、その代わりにリンカに会わせろと言ってきた。」
ダニエルは王太子殿下に直訴することができるという自分の立場を特別だとは思っていないようだ。
「ねぇダニエル、王太子殿下ってどちら側の人なの?」
「どちら側というと?」
「カタリーナ殿下の味方?それともダニエルの方?」
ダニエルは眉をしかめると即答した。
「中立派だろうな。そういう面倒事には巻き込まれたくないから傍観するタイプだ。」
「私大丈夫かな…。なるべくしゃべらないようにするからね?」
「それは…。まぁリンカに任せる。」
凛花の心配を他所に馬車は王宮の門で止められることもなく速度を落とすのみで進んで行く。馬車に向かって敬礼をしている門番の騎士が目に入ると、凛花はダニエルの妙に王宮に慣れた様子がだんだん不審に思えてきた。
──今ダニエルに聞いた所でまた誤魔化されるのがオチだわ。だったらもう開き直るしかないか。王太子殿下は中立派って言ってる事だし、まぁいきなり捕まえられることはないでしょう……。
「遅くなってしまって申し訳ない。」
「大丈夫、そんなに遅れてないわ。」
大丈夫と口にしながらも少し不機嫌そうな凛花の様子を見るとダニエルは顎に手をあてた。
「もしかして、今朝のことで怒ってるのか?」
「……もしかしなくても、そうよ。」
ダニエルは後ろに控えている侍女の方に目をやると凛花の腰に手を回し廊下を歩き出した。少しだけ声のトーンを落とすと二人はこそこそと話しを始める。
「手紙の内容は確認した?」
「どうやって?私に文字が読めるわけないじゃない!誰かに読ませるような迂闊なこともできないでしょ?それよりも、今朝私の部屋にダニエルが寝ていたってどういうこと?」
「じゃあ手紙はまだ読んでないんだね?」
「そうよ!そんなことより、話聞いてる?」
ダニエルは凛花をまじまじと見下ろすとそれには何も答えず、そのまま馬車まで歩いて行く。
──無視?結局肝心な事は何も教えてくれないんだから!
使用人数名に見送られて馬車が動き出すと、凛花は待っていたかのようにダニエルを問いただした。
「それで?今朝のことは話す気がないんでしょ?だったら手紙は?この手紙には何て書いてあったの?」
枕元に置いてあった手紙を懐から取り出した凛花を、ダニエルは驚いた様子で見返した。
「…わざわざ持って来たのか?」
「まずかった?」
ダニエルが凛花の手から手紙を取り返そうとするとそれを予想していたかのように凛花はスっとかわした。
「また誤魔化そうとしてるでしょ?内容教えてくれないと返さないわよ?」
「それは確かにリンカに宛てたものだが……。」
「だが?」
「……もう必要ないだろう?」
「じゃあ、これも私には言えないって事ね?」
「……」
──何なの?ほんっとムカつく!
凛花はダニエルがもう何も白状しそうにないことを悟ると、盛大にため息をつき、その手紙を懐に戻した。
窓の外へ視線を向けると遠くに見える何か高い建物をボーッと眺める。
ダニエルの口数が少ないのは今に始まったことではないのだろう。振り回される周りはたまったものでは無いが、少しずつ凛花にも分かるようになってきた。しかし肝心な事をいつも答えてくれないのはスマホ代わりとしては失格だ。
「それで、馬車が騎士団の本部とは違うところに向かってる気がするのは何故なの?」
また答えてもらえないかもしれないと半分ヤケになりながら、凛花はダニエルを見た。
「分かるのか?流石だな。」
ダニエルは窓の外を顎で示すと感心した様に頷いた。どうやら今回は答えてくれるらしい。
「騎士団本部ではなく王宮に向かっているところだ。着き次第王太子殿下に謁見する。」
「私、この国に来て二日目で何で王太子殿下と謁見とかいう運びになっちゃったんだろう?」
ダニエルは再び窓の外に向けられた凛花の視線の先を目で追いながら首を軽く横に振った。
「今朝陛下に婚約届を出したら途中のどこかで阻止された。だから王太子殿下に直接持って行ったんだ。」
「……王太子殿下ってそうやって簡単に会える人なの?」
「リンカ一人では無理だと思う。俺は殿下なら比較的簡単に会える。陛下は流石に当日約束をするのは難しいかな。」
──前日予約ならOKってことね。やっぱりなんかダニエルって普通の貴族とか騎士と違う感が……。
「殿下が婚約届を陛下に直接渡してくれるんだが、その代わりにリンカに会わせろと言ってきた。」
ダニエルは王太子殿下に直訴することができるという自分の立場を特別だとは思っていないようだ。
「ねぇダニエル、王太子殿下ってどちら側の人なの?」
「どちら側というと?」
「カタリーナ殿下の味方?それともダニエルの方?」
ダニエルは眉をしかめると即答した。
「中立派だろうな。そういう面倒事には巻き込まれたくないから傍観するタイプだ。」
「私大丈夫かな…。なるべくしゃべらないようにするからね?」
「それは…。まぁリンカに任せる。」
凛花の心配を他所に馬車は王宮の門で止められることもなく速度を落とすのみで進んで行く。馬車に向かって敬礼をしている門番の騎士が目に入ると、凛花はダニエルの妙に王宮に慣れた様子がだんだん不審に思えてきた。
──今ダニエルに聞いた所でまた誤魔化されるのがオチだわ。だったらもう開き直るしかないか。王太子殿下は中立派って言ってる事だし、まぁいきなり捕まえられることはないでしょう……。
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