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語り過ぎ注意

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 馬車は門から出ると王都の道を伯爵邸へと戻って行く。またもやダニエルと二人きりの移動になったが凛花は騎士団に来る時よりも随分気持ちに余裕が出来ていた。

「さっき会ったカタリーナ殿下って王女様なんですよね?」
 凛花の問いに窓の外を見ていたダニエルは振り向きながら頷いた。
「そうだ。この国の事も記憶にないのか?カタリーナ殿下は第一王女、兄の王太子殿下と妹の第二王女殿下の三人兄妹だ。」

──王子一人と王女二人。王女に思いを寄せられる騎士団副団長。多分登場人物はまだ出揃ってないはずだから、ゲームにしても小説にしても話は始まっていないって事かな?

「気になる事でも?」
「あ、ダニエル様はカタリーナ殿下と…その…仲が良いのかな~なんて。」
「仲が良かったらあんな風に逃げたりしない。」
 顔を少しだけ顰めたダニエルは腕を組んで後ろにもたれかかった。少しだけ開いた馬車の窓から入る風にさらさらの髪がなびいて思わず見惚れてしまいそうな姿だ。
「じゃあ、カタリーナ殿下の片思いなんですね。ダニエル様はカッコイイからモテるんでしょう?カタリーナ殿下の他にも沢山の女性から言い寄られているんじゃないですか?」
 ダニエルは憂鬱そうな顔で凛花を見返した。
「……知っているか?近頃この国では騎士団に入るには顔が良ければ実力など要らないのではないかと囁かれはじめている。」
「顔?だって、騎士団って王族や国を守ったりするのが仕事なんですよね?顔なんて関係ないんじゃ?」
「もちろんだ。だがカタリーナ殿下に気に入られた者が他より優遇されているのも事実だ。第一騎士団はろくに剣も振れないのに見目ばかり整った若者が集まるようになった。」
「第一騎士団……」

──カタリーナ殿下逆ハー状態?
 凛花はふとダニエルの顔を見上げた。

「ダニエル様は第二騎士団ですよね?」
「今の所は、な。」
「異動の話でもあるんですか?」
「……殿下からな。もしそうなれば──」
 そこではっとした様子でダニエルは顔を上げると信じられないというように凛花に目をやった。
「俺は何故こんなことをお前に話しているんだ……?」
「私が聞いたからでしょ?」
「いや……そうだが。」

 ダニエルは余計な話をしてしまったと反省をしたのか、それからしばらくは何も話をしようとしなかった。

──せっかく情報が手に入りそうだったのに!

 溜息をつくと凛花は今ダニエルから得たばかりの情報を頭の中で整理することにした。とはいうもののそれもたいした量ではないためあっという間に終わってしまう。
 凛花は横目でチラッとダニエルの方を見た。窓の外を見つめているようだ。

「もう一つだけ聞いてもいいですか?」
「…答えられることならば。」
「ダニエル様はどなたかと婚約していらっしゃるのですか?」
「…」
 答えられないと言うことだろうかと凛花が考えていると、ダニエルが凛花の方に身を乗り出してきた。
「お前はどうなんだ?婚約者の記憶はないのか?」
「私?」
「人に聞くのならばまず自分の事を話すべきだ。」
「…婚約した記憶はありませんが、多分、記憶が戻ったとしてもそういう相手はいなかったと思いますよ?」

──だって高校三年ではじめて付き合った相手には一週間で振られちゃったし。手を繋いで一緒に帰っただけだったし……。

「…何を考えている?」
「へ?」
 いつの間にかダニエルの顔が近くなっている事に気が付いた。気付けばダニエルは席を移動して隣に来ている。
「ちょっと、近いですって!」
「お前、何か思い出した事でもあるのではないか?ときどき考え込んでいるのはそういう事だろう?」
 琥珀色の瞳が凛花を覗き込んでくる。
「私は質問にきちんと答えました!ダニエル様は?」
 負けじと睨み返すように見上げる。ダニエルとはこうして至近距離で見つめ合ってばかりだと言うのに甘い雰囲気にちっともならないというのはどうしたことだろうか…。

「婚約はしていない。」
 ダニエルも凛花から目を逸らさずに真剣な表情をして答える。
「そうですか。」

『 もう一つだけ聞きたい事』の答えを貰ってしまうと、またもう一つの聞きたい事がわいてくる。

──好きな人、いるのかな?

 その質問は次の機会まで取っておくことにした凛花は、とりあえずイケメンとの睨めっこの負けを認め、琥珀色の瞳から目を逸らした。
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