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都市税争奪対抗戦編
42話 新たな依頼
しおりを挟む都市税争奪対抗戦に向け、特訓開始から数日経った日…
メイドスギルド支部長、ブライトの手配で南に位置する都市アーデラルから風音の発注した家の建築に助っ人として、人夫と職人、材料がメイドスに到着する。約100名の人夫と職人が作業に参加する。まずは、井戸が掘られる作業が始められていた。家の土台と外壁も同時進行で取り掛かかっていた。
風音が、事前に用意した石には術を施し決められた場所へブライトが立ち合いの元で埋められていく。当初の予定では、5つの石であったが"保険を掛けとくか"と風音が言い出し合計10個の石を用意した。
作業は、急ピッチで進む。
▽▽▽
特訓開始から5日目… ゼス達は、2日間イノシシを林の下から土手の上まで運び、引きずりながら肉屋に売りに行っていたがのだが、あまりにも量が多いと店主から文句を言われた為、風穴で倒れた木を土手の上まで引きずり上げる特訓に変更となっていた。
倒木に、ロープを括りつけて皆で引っ張り上げる。基礎体力を上げている班のメンバーの身体からは悲鳴が聞こえてきそうな状況だった。
風音はアルマに、一通り使える魔法を見せて貰うと戦略を立てる。
アルマ・マリー・ダム・俺を、初戦のオブジェクト防衛にするようだ。風音が中央突破、その後方にゼス。両サイドからカーベルと透明化したカリナが攻め込む。真正直に、オブジェクト破壊を目的とした攻めではなく後衛の攪乱が主な役割だ。まずは、戦闘不能者を相手側に出して攻め易くする作戦のようだ。
防衛は、マリーがペロを召喚させて匂いで対アサシン用に片サイドを感知して貰う。もう片サイドには、設置型のマジックアイテムとアルマの範囲魔法で防衛していく予定だ。俺とダムで、感知から漏れたアサシンと中央突破してきた相手冒険者の排除となる。
対戦での肝は、対戦相手にアサシンの有無… 都市税争奪対抗戦では、陣地上にパネルが設置され参加登録された冒険者ランクが表示されるのだという。職業と名前は無記入となるらしい。パネルで、人数確認と冒険者ランクを頼りに戦況を把握出来るシステムが取られていた。ここで、風音の後方に付くゼスが素早く状況の把握をしてアサシンの有無を判断。存在しなければ一気に敵陣へ押し上げていく事になる。当然、相手も状況把握する者がいるので透明化したカリナの存在も見破られるだろう。
土手の上に、引き上げた倒木の上で小休憩する俺達。そこへ、黒蓮に乗って戻ってきた風音が言う。
「少し早いが終いにするぞ 皆で温泉じゃ」
俺達は、一旦ゼスの家に戻り着替えを持ち通常馬車で温泉に向かった。
都市税争奪対抗戦… 通称『税杯』
国を挙げての一大イベント。国中から、前夜祭から後夜祭の計4日間の間に何百、何千と王都に人があふれかえるのだ。早い者はすでに宿屋の予約を入れ観戦を待ち遠しくする者、冒険者達も名を売るチャンスとばかりに気合をいれる。
そして、商人達も例外ではなかった。
各都市の、露天商達に抜かりは無い。商人や職人の、材料仕入れや販売先の情報窓口になっている"生活組合"。普段は、都市管轄で運営されているが都市税争奪対抗戦では委託店舗の権利を国から買い、対抗戦の期間だけ特設闘技場の周りで露店を開ける委託券を発行販売するのだ。
普段の商いを、屋台で生活している者が優先的に委託券を購入できる。
メイドスの"生活組合"で銀貨5枚を支払うと委託券を発行して貰える。この委託券に"メイドス 023"と都市名と番号が振られる。定員100までとなっていて、屋台で生活する者の発行が終わると普段は店を構えて商いしている者が購入できるのだ。当然、余り枠があれば即完売、早い者勝ち。
ある意味、商人系の人々の方が冒険者より逞しいと感じる。
―― 夜… ゼスの家で
温泉から帰った俺達は、ゼスの家で食事をしていた。すると、馬の足音がしたかと思うと玄関を叩き風音を呼ぶ声がした。
ドンドンッ
「かざねくん、いるか!?」
声の主は、支部長のブライトのようだ。
酒を飲んでいた風音が玄関に向かう。
「なんじゃ 騒々しいのう」
「実は… 」
何やらブライトは、小声で風音に話している様子だった。
「少し出てくる」
風音は、そう言うと黒蓮に乗り出かけていった。
…
風音とブライトが向かったのは、建設中の現場だった。どうした事か、職人や人夫が敷地内で何やら騒いでいる。
風音の、寛ぎ空間である離れの井戸に温泉が出てしまったらしい。予定では、池を作り魚を飼うつもりだったのだが予定は御破算。だが、悪くない…
風音は急遽、露天風呂に変更させる。
敷地はまだある。少し離れてしまうが池の位置を修正するとギルド支部へブライトと向かった。
「待たせたのう トーマス 話を聞こうではないか」
応接室に、出向くとギルド本部ダンジョン・遺跡部門の責任者トーマスがソファーに掛けてお茶を啜っていた。
「やあ かざねくん 忙しいところ すまないね」
トーマスの話によると、カテリーナから今回の都市税争奪対抗戦にメイドス、すなわち風音達が参加する事を知り、それならと『税杯』が終わった後でも地下遺跡の調査に入らないかと依頼の誘いだった。ダンジョンの未開拓部分に関しては、各都市で依頼を受け付けているが地下遺跡に限っては情報の公開をしていなかった。
その理由の1つとして、魔獣が強力で手に終えなかったらしい。数十年前に特務機関で討伐隊を組み挑んだが多大な犠牲が出たらしく、情報は隠蔽。国の上層部とギルド本部の数名しか実情を把握している者はいないのだという。当然、トーマスも実情を知る1人だった。風音達が依頼を引き受けるなら今回の調査に同行するという。
「なぜ わしらに? 」
「今回、話を持ってきたのはギルド本部長だよ」
「ほほう… 」
「わたしの見解では副本部長の報告… 北ダンジョンでの討伐を報告したのが、きっかけかも知れない わたしも、かざねくん達なら行ける気がする」
「本部長め… わしを試すつもりか? よかろう! その依頼 と、言いたいところじゃが皆にも相談してから返答しよう 明日まで待ってくれ」
「わかった 良い返事を期待してるよ」
こうして、トーマスから地下遺跡調査の依頼を聞いた風音はゼスの家に戻り相談する。
…
「なるほど… 国の上層部とギルド本部の数名しか知らない情報を、事前に俺達にも教えて貰えないとな… 準備もあるし受けるに受けれないな」
「俺は、風音やゼスさんがやるのなら行くよ」
「私達も問題ありません! 」
「ゼス 明日は休みじゃが わしとギルドまで行ってトーマスと話そうではないか」
「了解だ 事前に情報を知らせてくれるなら受けよう」
地下遺跡… 強力すぎる魔獣とはどんなものなのか。緊張しつつも、自分の力を試してみたい… そんな気持ちになる。自分に、こんな積極性なんか無かったはずなのに少しづつ変わっていくのが自分でも解っていた。こんな風に慣れたのは風音のおかげなのだろう。
依頼の件は、風音達がまとめてくれるだろう。俺は明日の休みを利用して行きたかったところに行ってみようと思う…
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