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異世界転移編
1話 祠
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人も通らぬ獣道… 昼間でも日が差さず、近くの集落に住む住人達でさえ滅多に通らぬ場所がある。そこには小さな祠があった。
その祠は大昔より、蛇を祀っていたと伝えられていた。災害や病気、特に水害から守ってもらえると言われ供え物を献上していたという。
しかし… 時代に反映してか住民達は活気のある都市へと流れ、祠への信仰も徐々に薄れていった。今では山の麓に住む老婆が、りんごやみかんといった果物を山に入った時に1~2つ置いていく程度であった。
▽▽▽
深夜、1台の軽自動車が山の麓に停車する。
静まり返った路肩から、1人の若い女が車から降りてきた。歳は二十歳前後だろう… 目立たぬ黒い服装に身を包み、顔色は青褪めていた。両腕で抱える様に荷物が1つ、タオルの様なもので包まれている。
女は、周囲を見渡し誰も居ない事を確認して山道へと駆け上がっていく。
息を切らしながらも、山の中腹に辿り着くと祠がある獣道へと入っていった。
「はぁはぁ… うっ!…」
女は時折、苦悶に満ちた表情で足の動きを止めた。息を整え再び足を動かす。
…… …
獣道に入り10分も経ったことだろう、恐らく女が目指していたと思われる祠に着いた。
息を切らし、真っ青な顔から脂汗を垂らした女は少しづつ祠に近づき片手で荷物を抱えながら祠の扉に手をかける。
扉を開いた女は、ポケットから用意していた懐中電灯を取り出しスイッチを入れる。祠の手前を覗くように照らして確認する。
祠は、木材で建てられた物で広さは小学3年生2人が体育座りで一杯といったところだろうか。女は、それ以上の確認をせず懐中電灯を祠の中に置き、抱えてきた荷物を両手で中央付近に置いた。
その瞬間。
女は金縛りだろうか、急に体の身動きか出来なくなった。手足が硬直したような感覚に襲われ、首も動かせない状態だ。
しかし、目は見える。上下左右に眼球だけは動かせる、確認できる。
そんな状態にも関わらず女は異変に感づいた。祠の奥部分の暗闇に何かが、こちらを伺っている…
物を引きずる様な音が静かにした。
ズズズッ…
こちらの様子を伺っていたのは、巨大な真っ白い蛇だった。
真っ白い蛇は女が置いた懐中電灯が照らす光の中へ移動すると、塒を巻きはじめた。
大蛇の頭は、成人男性の腕はあろう大きさで胴回りは一升瓶はありそうだ。真っ白い大蛇が、じっとこちらを見つめている。時折、チロッチロッと舌を出しているのが見て分かる。
真っ白い大蛇が鎌首を擡げた。まさに異形…
その瞬間、女は恐怖のあまり悲鳴を上げたが声が出ない。目を一瞬だけ瞑るが飛び掛ってくるとも知れない大蛇への警戒が上回り、目をゆっくり開けていく。
次の瞬間、どっと身体が重くなり自分が乗ってきた車の脇に立っていた。
汗でびっしょりになった衣服のせいだろうか、極度の緊張のせいなのか…
荷物を差し出し金縛りにあった格好で立ち竦んでいたのだ。女は自分の手や足元を確認する。
「あぁ… 動く… 解けた… 」
そう呟くと、重い体を引きずる様に運転席に座り込む。ポケットからキーを取り出しエンジンをかけた。一刻も早く、この場から離れたい衝動に駆られると同時に足腰の痛み、頭の中に靄が罹ったような現象から少しでも楽になりたかったのだ。
バックミラーを確認し、来た道に戻ろうと車を方向転換させる。道路は下り坂になっていて反対車線側にはガードレールが連なっている。ガードレールの下は崖だ、この高さから落ちれば大抵は即死だろう。
下り坂、先に見える1つ目の左カーブを曲がる手前… 耳元で声がした。
「惨い事をするのう… 人とは、ここまで惨い事が出来るのか…」
ギョッとした女はバックミラー越しに後部座席を覗き込んだ。そこには、真っ白い和服を着た十歳くらいの綺麗な少女が乗っていた。
目鼻立ちはスッとし、肌は透き通るような白、後ろで束ねた真っ黒い髪には、花びらを象った赤い簪が挿されている。だが、一般の十歳前後の少女達とは違い明らかに異質な、何か気品のようなものを感じさせる。
少女は後部座席のドアに頬杖をつき窓の外を眺めていた。バックミラー越しに観察していると少女の冷ややかな視線と目が合った。
「ヒィィッ」
たまらなくなった女はアクセルを踏み込む。この場から即座に逃避したい衝動に囚われる。すぐそこに大きなカーブがある事も忘れる程に。
バックミラーから目を逸らし、来た道を帰るだけの女に次の恐怖を呼び込んだ。
祠に居た、真っ白い大蛇の数倍もある白蛇が道路の真ん中で塒を巻き口を開け待ち構えていた。首筋や顔が瞬時に強張っていくのがハッキリと分かった。
とっさにハンドルを右に切る。
「ぎゃあああああーー」
ドーーーーン
悲痛な叫びを上げながら、薄い鉄板1枚で加工されたガードレールを突き破り、女が運転する車は崖底に転落していく。
横転し、原型を保てず変型した車が、崖底に到達した数秒後だった…
ドンッ
ガードレールを突き破った派手な音とは真逆に、低く籠る様な音と同時に火災が発生した。火は見る見るうちに勢いを増し、黒い煙を立ち昇らせる。その様子を、まるで始めからそこに居たかのように、突き破ったガードレールの脇から火災を見下ろす少女。
…
少女の足元には、全長五十センチ程しかない白蛇が1匹にじり寄って来た。
少女は、白蛇に少しだけ悲しげな笑みを浮かばせ声をかける。
「さて… 戻るぞ」
そう言うと、少女は山の中に消えていった。
▽▽▽
祠の中で、少女は膝を抱えて半開きの眼でタオルに包まれた『荷物』を見つめていた。
…… …
どれだけの時間が経ったのだろう…
暗闇の中、微かな日差しが入り込んだ。少女は、ぽつりと呟いた。
「『ややこ』よ… 生きたいか それとも… 」
少女は、抱えた膝を崩すと『ややこ』と呼びかけた荷物を覗き込む。
生まれ落ち、まだ間もないであろう赤ん坊の姿がそこにあった。少女は、じっと赤ん坊を凝視する。
…
しばらくすると少女は覗き込むのを止め、自身の体を起こし真っ赤な簪に手を掛け右手に握り締める。
少女は左の掌を自分の顔に向けると中央目掛けて右手に握り締めた簪の挿部を突き刺した。
見る見る掌に、少女の赤い血が溜まっていく。
少女は赤ん坊の口元へ掌に溜まった血をポタポタと落としていった。その最中、問い掛ける様に囁く。
「このような事をするは始めてじゃが… お前に罪は無い… 生きるのも逝くのも… お前次第じゃ… 」
時間にして2~3分だろう。少女の傷口は綺麗に塞がっていた。ふぅーと、ため息をつく少女。祠の天井を仰ぎ呟やいた。
「命令じゃ ややこを守れ 少し疲れた…」
静かに、そう言うと少女の姿は、スゥーと消えていった。すると、入れ替わるように扉の隙間から二十センチあるかないか小さな蛇が祠に入ってきた。蛇は、赤ん坊の周りを回り始めると蛇の身体が大きくなっていく。
回るのを止めた蛇は、赤ん坊には触れず塒を巻き、扉の方を見つめていた。
誰かが来るのを待っているかのように…
その祠は大昔より、蛇を祀っていたと伝えられていた。災害や病気、特に水害から守ってもらえると言われ供え物を献上していたという。
しかし… 時代に反映してか住民達は活気のある都市へと流れ、祠への信仰も徐々に薄れていった。今では山の麓に住む老婆が、りんごやみかんといった果物を山に入った時に1~2つ置いていく程度であった。
▽▽▽
深夜、1台の軽自動車が山の麓に停車する。
静まり返った路肩から、1人の若い女が車から降りてきた。歳は二十歳前後だろう… 目立たぬ黒い服装に身を包み、顔色は青褪めていた。両腕で抱える様に荷物が1つ、タオルの様なもので包まれている。
女は、周囲を見渡し誰も居ない事を確認して山道へと駆け上がっていく。
息を切らしながらも、山の中腹に辿り着くと祠がある獣道へと入っていった。
「はぁはぁ… うっ!…」
女は時折、苦悶に満ちた表情で足の動きを止めた。息を整え再び足を動かす。
…… …
獣道に入り10分も経ったことだろう、恐らく女が目指していたと思われる祠に着いた。
息を切らし、真っ青な顔から脂汗を垂らした女は少しづつ祠に近づき片手で荷物を抱えながら祠の扉に手をかける。
扉を開いた女は、ポケットから用意していた懐中電灯を取り出しスイッチを入れる。祠の手前を覗くように照らして確認する。
祠は、木材で建てられた物で広さは小学3年生2人が体育座りで一杯といったところだろうか。女は、それ以上の確認をせず懐中電灯を祠の中に置き、抱えてきた荷物を両手で中央付近に置いた。
その瞬間。
女は金縛りだろうか、急に体の身動きか出来なくなった。手足が硬直したような感覚に襲われ、首も動かせない状態だ。
しかし、目は見える。上下左右に眼球だけは動かせる、確認できる。
そんな状態にも関わらず女は異変に感づいた。祠の奥部分の暗闇に何かが、こちらを伺っている…
物を引きずる様な音が静かにした。
ズズズッ…
こちらの様子を伺っていたのは、巨大な真っ白い蛇だった。
真っ白い蛇は女が置いた懐中電灯が照らす光の中へ移動すると、塒を巻きはじめた。
大蛇の頭は、成人男性の腕はあろう大きさで胴回りは一升瓶はありそうだ。真っ白い大蛇が、じっとこちらを見つめている。時折、チロッチロッと舌を出しているのが見て分かる。
真っ白い大蛇が鎌首を擡げた。まさに異形…
その瞬間、女は恐怖のあまり悲鳴を上げたが声が出ない。目を一瞬だけ瞑るが飛び掛ってくるとも知れない大蛇への警戒が上回り、目をゆっくり開けていく。
次の瞬間、どっと身体が重くなり自分が乗ってきた車の脇に立っていた。
汗でびっしょりになった衣服のせいだろうか、極度の緊張のせいなのか…
荷物を差し出し金縛りにあった格好で立ち竦んでいたのだ。女は自分の手や足元を確認する。
「あぁ… 動く… 解けた… 」
そう呟くと、重い体を引きずる様に運転席に座り込む。ポケットからキーを取り出しエンジンをかけた。一刻も早く、この場から離れたい衝動に駆られると同時に足腰の痛み、頭の中に靄が罹ったような現象から少しでも楽になりたかったのだ。
バックミラーを確認し、来た道に戻ろうと車を方向転換させる。道路は下り坂になっていて反対車線側にはガードレールが連なっている。ガードレールの下は崖だ、この高さから落ちれば大抵は即死だろう。
下り坂、先に見える1つ目の左カーブを曲がる手前… 耳元で声がした。
「惨い事をするのう… 人とは、ここまで惨い事が出来るのか…」
ギョッとした女はバックミラー越しに後部座席を覗き込んだ。そこには、真っ白い和服を着た十歳くらいの綺麗な少女が乗っていた。
目鼻立ちはスッとし、肌は透き通るような白、後ろで束ねた真っ黒い髪には、花びらを象った赤い簪が挿されている。だが、一般の十歳前後の少女達とは違い明らかに異質な、何か気品のようなものを感じさせる。
少女は後部座席のドアに頬杖をつき窓の外を眺めていた。バックミラー越しに観察していると少女の冷ややかな視線と目が合った。
「ヒィィッ」
たまらなくなった女はアクセルを踏み込む。この場から即座に逃避したい衝動に囚われる。すぐそこに大きなカーブがある事も忘れる程に。
バックミラーから目を逸らし、来た道を帰るだけの女に次の恐怖を呼び込んだ。
祠に居た、真っ白い大蛇の数倍もある白蛇が道路の真ん中で塒を巻き口を開け待ち構えていた。首筋や顔が瞬時に強張っていくのがハッキリと分かった。
とっさにハンドルを右に切る。
「ぎゃあああああーー」
ドーーーーン
悲痛な叫びを上げながら、薄い鉄板1枚で加工されたガードレールを突き破り、女が運転する車は崖底に転落していく。
横転し、原型を保てず変型した車が、崖底に到達した数秒後だった…
ドンッ
ガードレールを突き破った派手な音とは真逆に、低く籠る様な音と同時に火災が発生した。火は見る見るうちに勢いを増し、黒い煙を立ち昇らせる。その様子を、まるで始めからそこに居たかのように、突き破ったガードレールの脇から火災を見下ろす少女。
…
少女の足元には、全長五十センチ程しかない白蛇が1匹にじり寄って来た。
少女は、白蛇に少しだけ悲しげな笑みを浮かばせ声をかける。
「さて… 戻るぞ」
そう言うと、少女は山の中に消えていった。
▽▽▽
祠の中で、少女は膝を抱えて半開きの眼でタオルに包まれた『荷物』を見つめていた。
…… …
どれだけの時間が経ったのだろう…
暗闇の中、微かな日差しが入り込んだ。少女は、ぽつりと呟いた。
「『ややこ』よ… 生きたいか それとも… 」
少女は、抱えた膝を崩すと『ややこ』と呼びかけた荷物を覗き込む。
生まれ落ち、まだ間もないであろう赤ん坊の姿がそこにあった。少女は、じっと赤ん坊を凝視する。
…
しばらくすると少女は覗き込むのを止め、自身の体を起こし真っ赤な簪に手を掛け右手に握り締める。
少女は左の掌を自分の顔に向けると中央目掛けて右手に握り締めた簪の挿部を突き刺した。
見る見る掌に、少女の赤い血が溜まっていく。
少女は赤ん坊の口元へ掌に溜まった血をポタポタと落としていった。その最中、問い掛ける様に囁く。
「このような事をするは始めてじゃが… お前に罪は無い… 生きるのも逝くのも… お前次第じゃ… 」
時間にして2~3分だろう。少女の傷口は綺麗に塞がっていた。ふぅーと、ため息をつく少女。祠の天井を仰ぎ呟やいた。
「命令じゃ ややこを守れ 少し疲れた…」
静かに、そう言うと少女の姿は、スゥーと消えていった。すると、入れ替わるように扉の隙間から二十センチあるかないか小さな蛇が祠に入ってきた。蛇は、赤ん坊の周りを回り始めると蛇の身体が大きくなっていく。
回るのを止めた蛇は、赤ん坊には触れず塒を巻き、扉の方を見つめていた。
誰かが来るのを待っているかのように…
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