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体験談
袋小路のー
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ある夏の夜のこと。
いつものように深夜の散歩をしていて行きついた場所。
そこは袋小路だった。
地図を見ずに歩くため、よくある事だ。
通りから見たら突き当りに街灯があったため、
よく見えないが曲がって道が続いているのだろう、そう思って進んだのだ。
そうして入り込んだ突き当りの袋小路。
室外機の音はない。下水の音もしない。
離れた家の庭から虫の声だけが聞こえる。
そんな静かな夜。
想像してもらえばわかると思うが、
住宅街の袋小路というのは2、3軒の家のために作られている。
そのため顔見知りの住人以外が入り込む事は基本的にない。
せいぜいが宅配業者だがー
今は深夜だ。
そんな場所に目的もなく散歩している成人男性なんて―
もし住人が気づいたら通報されても文句は言えない。
すぐにUターンして戻ろうとした時。
―人が居た。
突き当りの家の前、門柱の前に人がいた。
それまで気配を全く感じていなかったのに―。
思わず声が出そうになる。
街灯にぼんやりと浮かび上がる、老婆。
そう、静かに静かに椅子に座る、老婆だった。
夏の夜だ。
きっと夕涼みか何かでそこに座っている日があるのだろう。
かなりの高齢のようなので、散歩してる男にも驚くこともなく動くこともない。
だからこちらも人の気配を感じなかったのだろう。
―そんな風に理解はできる。納得はできる。
―できるの、だが。
何れにせよ、一度跳ね上がった心臓を抑えながら軽く会釈をして引き返した。
なにせ気まずいのはこちらだ。
勝手に驚いたのはこちらだ。
そうしてそそくさと去り、家一軒分ほども離れた所で僕はふと、振り返った。
肩越しに、ちらりと、老婆を見た。
―居ない。
居ない?
そこには椅子だけが残っていた。
―案外元気な老人で、さっと家に入ったのだろう。
―でも僕は、扉の音を聞いていない。
*写真は今回紹介するにあたって2年ぶりにそこに行き撮ってきたものです。
できればもう近づきたくなかったので
遠くからの写真になることをご了承ください。
いつものように深夜の散歩をしていて行きついた場所。
そこは袋小路だった。
地図を見ずに歩くため、よくある事だ。
通りから見たら突き当りに街灯があったため、
よく見えないが曲がって道が続いているのだろう、そう思って進んだのだ。
そうして入り込んだ突き当りの袋小路。
室外機の音はない。下水の音もしない。
離れた家の庭から虫の声だけが聞こえる。
そんな静かな夜。
想像してもらえばわかると思うが、
住宅街の袋小路というのは2、3軒の家のために作られている。
そのため顔見知りの住人以外が入り込む事は基本的にない。
せいぜいが宅配業者だがー
今は深夜だ。
そんな場所に目的もなく散歩している成人男性なんて―
もし住人が気づいたら通報されても文句は言えない。
すぐにUターンして戻ろうとした時。
―人が居た。
突き当りの家の前、門柱の前に人がいた。
それまで気配を全く感じていなかったのに―。
思わず声が出そうになる。
街灯にぼんやりと浮かび上がる、老婆。
そう、静かに静かに椅子に座る、老婆だった。
夏の夜だ。
きっと夕涼みか何かでそこに座っている日があるのだろう。
かなりの高齢のようなので、散歩してる男にも驚くこともなく動くこともない。
だからこちらも人の気配を感じなかったのだろう。
―そんな風に理解はできる。納得はできる。
―できるの、だが。
何れにせよ、一度跳ね上がった心臓を抑えながら軽く会釈をして引き返した。
なにせ気まずいのはこちらだ。
勝手に驚いたのはこちらだ。
そうしてそそくさと去り、家一軒分ほども離れた所で僕はふと、振り返った。
肩越しに、ちらりと、老婆を見た。
―居ない。
居ない?
そこには椅子だけが残っていた。
―案外元気な老人で、さっと家に入ったのだろう。
―でも僕は、扉の音を聞いていない。
*写真は今回紹介するにあたって2年ぶりにそこに行き撮ってきたものです。
できればもう近づきたくなかったので
遠くからの写真になることをご了承ください。
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