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第43章 白い球体は、上空へ 

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 真琴たちは、相変わらずエスピラールの階段を上っていた。

「もう少しだ、もう少しで天辺だ」
 パイロが、振り返り真琴たちを見る。
「本当に?この階段が永遠に続くかと思っていたよ」
 真琴たちに笑顔が戻る。
「何か聞こえるだろ?」
 パイロが掌を前にして耳の後ろに添える。

 真琴たちは、足を止めて耳を澄ました。
 確かに、何か、かすかに聞こえる。
 鳴き声?
 声?
 ”オッコーン、オッコーン”という声が聞こえる。

「聞こえたら、天辺はもうすぐだ」
 パイロが、階段を上る。
 真琴たちは後に続くが、パイロの速さにはかなわない。
 どんどん先に昇って行く。
「着いたよ」と、パイロの声。

 真琴たちが昇って行くと、そこは踊り場になっていて、パイロが座っていた。
 パイロの後ろには、大きな扉があった。
 まだ、”オッコーン”という音が聞こえている。
 真琴たちもパイロの周りに座った。

「ここだ」
 パイロが、座りながら右親指を立てて、後ろの扉を指さした。
「ここが、エスピラールの天辺だ。
 エスピラールは、”再生の塔”とも呼ばれている。
 生まれる準備が出来た者から別の世界へ旅たつ。
 別の世界で一生を終えたら、また、ここへやって来る。
 それを繰り返しているんだ。
 この世界は、終わることはない。
 別の世界で終わる事を体験することで、得るものがあるからと言われている」 

 そういうと、パイロが立ち上がり振り向いた。
 音が聞こえる扉をゆっくりと開けた。

 オッコーン、オッコーン、オッコーン…。

 声が大きくなり、声の振動が身体に伝わってきた。
 真琴たちは、中に入り扉を閉めた。
 中は暗かった。丁度、映画館に入ったようで、何も見えない。
 真琴は、目が慣れるまで、目を凝らしていた。

 何かいる……たくさん

 その沢山の何かが右から左の方に流れているようだった。
 その一つ一つは、揺れていた。
 真琴は、目を凝らす。
「赤ちゃんだ!」
 真琴は思わず声を上げてしまった。

 揺れていたのは、赤ん坊の群れだった。
 その赤ん坊の行先に目をやると、鈍いオレンジ色の灯りがあり、その灯りの上に、穴が開いていた。
 その穴に赤ん坊はゆっくりと吸い込まれていった。

 ”オッコーン”という声は、赤ん坊たちが出しているらしい。

 真琴は、しばらく、その声を聴いていた。
 リズミカルで、歌のようにも聞こえた。
 この声は、遠い遠い昔に聞いたような気がしていた。
 真琴は、不思議と気持ちが落ち着く。
 母親に抱かれているような気持ちだ。

「サア、シュッパツダ。
 コノ セカイトモ オワカレ。
 コワクナイヨ、ミンナ イッショサ。
 スガタハ カワルケド
 ワタシダト スグワカル」

 真琴の頭に飛び込んできた。
 テレパシーみたいなもの?
 耳からは相変わらずオッコーンという声が聞こえているのに。

 パイロのポケットがモゾモゾしている。
 パイロは、ポケットからそっと取り出した。
 ノウムのメモリだった。
 メモリの差し込みが、虫の足のように動く。
「ノウム、君はもっと準備が必要だ。身体を選ばないとね」
 パイロは、掌のノウムに話かける。
 暗い部屋の奥から、黒いフード付きのマントを着た者が、パイロの前に現れた。
 パイロに向かって、両手を差し出した。
「頼んだよ、身体を選んでやってくれ」
 差し出された掌にノウムのメモリを受け取ると、お辞儀をして部屋の奥に行ってしまった。

「では、屋上へ行きましょう」
 パイロが、真琴たちを導く。
 最後の階段を上がると、扉があった。
「鍵で、ここを開けて。最初に渡しただろ。君にしかこの扉を開けることができないんだ」
 パイロは、真琴にさあと目で合図した。
 真琴は、胸のポケットを探り、鍵を取り出し、鍵穴にさすと右回りに回した。
 カチャっと音を立て、鍵が外れた。
 真琴は、ゆっくりと扉を開ける。
 そこは、エスピラールの屋上だ。
 まさに絶景だ。
 雲の上に居るようだ。遥か遠くまで見渡せる。
 天空には、白い球体が浮いている。
 昼間の月のような白い球体。
 響介と絢音が、白い塔のバルコニーで見た球体に似ていた。
 でも、小さい。
 赤ん坊が入るくらいの大きさで、たくさん宙に浮かんでいた。
 空に放たれた風船のように。
 上空へ登って行く。

「このエスピラールで、再生の準備が出来た者は、あの別の世界に向かって飛び立つのです」
 パイロが球体を指さした。
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