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第七話 貴方にとって私は悪者
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ヨアニス殿下が王都のスクリヴァ公爵邸を訪れたのは、学園の卒業パーティの夜から三日ほど経ったころだった。
応接室で向かい合って座る。
殿下の後ろには黒い髪を油で撫でつけて額を出し、王家支給の黒銀の鎧を纏った近衛騎士のアカマースがいる。今日は非番ではないようだ。アカマースの隣にはもうひとりの近衛騎士がいた。
開口一番、殿下は言った。
「……君がそんなに私を愛していたとは知らなかったよ」
「え?」
「プセマは毒で死んだよ。ああ、驚いたような顔をしなくてもいい。君は知っていたんだろう? プセマに毒を飲ませたのは君なんだから!」
プセマ様はあのときすでに死んでいたらしい。
殿下と近衛騎士の方々は、それを隠してパーティの出席者を取り調べた。私もいろいろ聞かれたが、なにも知らなかったので大した情報は教えられなかった。
私がプセマ様毒殺の犯人だというのは、サマラス子爵令嬢の発言から判明したのだと殿下は言う。
「彼女が見ていたんだ。プセマが杯を選ぶ前に、君がその杯に細工していたことを」
「お言葉ですが殿下、プセマ様がどの杯を選ぶかなんて、だれにもわかりませんわ」
「言い訳は良い! 君が取ってプセマに勧めたのかもしれないじゃないか!」
「サマラス子爵令嬢は、私がそうしていたのも見たと言っているのですか?」
「……いや、彼女が見たと言ったのは君が杯になにかを入れて、プセマがその杯を手に取ったところだけだ」
「もっときちんとお調べください」
そんな証言なんの証拠にもならない。
殿下にとって悪いことはすべて私のせいなのだろうか。
あの悪夢と同じことを考える。私は殿下に憎まれるために生まれてきたのかもしれない。
「煩いっ!」
悪夢の中のように私を睨みつけたヨアニス殿下は、その瞳に私を映すと苦しそうな表情で視線を逸らした。
運命のプセマ様を喪った悲しみで混乱しているだけなのかもしれない。
本当に私がプセマ様毒殺の犯人だと思われているのだとしたら、こんな会話をすることもなく捕縛されて投獄されていることだろう。
「とにかく、君がプセマを殺したんだ」
「なぜですか?」
「私を愛しているからだ。プセマを殺して私を取り戻そうとしたんだろう?」
「婚約解消を申し出たのは私からです。……確かに昔、遠い昔に貴方を愛していたことはあります。政略的なものだったとはいえ、婚約者でしたものね。でも、貴方の運命がプセマ様だと気づいたので諦めたのです。私では貴方の運命になれませんもの」
私の言葉が真実かどうか見抜こうとしているかのように、ヨアニス殿下の緑色の瞳が私を射る。
こんなに見つめられるなんて、婚約していたころにもなかった。
殿下の瞳はいつも彼女を追っていた。プセマ様を映していた。彼女が殿下の運命だったのだから、それも仕方のないことだろう。
「……」
しばらく私を見つめていた殿下は、先ほどと同じように苦しそうな表情で顔を背ける。
殿下が見つめたいのは今もプセマ様ひとりなのに違いない。
大切な運命を喪って、殿下はこれからどうなってしまうのか。身を引くと決意したときに捨てたはずの恋心が、少しだけ疼いた。
「父と弟達にも言われたよ。君が犯人のはずがないと。だが、私は君を信じられない。私を愛していなかったとしても、婚約者を奪い取った形になるプセマのことは憎んでいたかもしれない。だから、しばらく監視をつけさせてもらう」
「……わかりました」
卒業パーティの翌日でなく数日経ってから殿下が訪れたのは、国王陛下や弟王子方と話し合っていたからだろう。
いきなり投獄されて処刑されるようなことにはならずにすみそうだ。
ヨアニス殿下が監視だと言って残していったのは、同行していたアカマースだった。殿下はもうひとりの近衛騎士と一緒に帰っていった。
応接室で向かい合って座る。
殿下の後ろには黒い髪を油で撫でつけて額を出し、王家支給の黒銀の鎧を纏った近衛騎士のアカマースがいる。今日は非番ではないようだ。アカマースの隣にはもうひとりの近衛騎士がいた。
開口一番、殿下は言った。
「……君がそんなに私を愛していたとは知らなかったよ」
「え?」
「プセマは毒で死んだよ。ああ、驚いたような顔をしなくてもいい。君は知っていたんだろう? プセマに毒を飲ませたのは君なんだから!」
プセマ様はあのときすでに死んでいたらしい。
殿下と近衛騎士の方々は、それを隠してパーティの出席者を取り調べた。私もいろいろ聞かれたが、なにも知らなかったので大した情報は教えられなかった。
私がプセマ様毒殺の犯人だというのは、サマラス子爵令嬢の発言から判明したのだと殿下は言う。
「彼女が見ていたんだ。プセマが杯を選ぶ前に、君がその杯に細工していたことを」
「お言葉ですが殿下、プセマ様がどの杯を選ぶかなんて、だれにもわかりませんわ」
「言い訳は良い! 君が取ってプセマに勧めたのかもしれないじゃないか!」
「サマラス子爵令嬢は、私がそうしていたのも見たと言っているのですか?」
「……いや、彼女が見たと言ったのは君が杯になにかを入れて、プセマがその杯を手に取ったところだけだ」
「もっときちんとお調べください」
そんな証言なんの証拠にもならない。
殿下にとって悪いことはすべて私のせいなのだろうか。
あの悪夢と同じことを考える。私は殿下に憎まれるために生まれてきたのかもしれない。
「煩いっ!」
悪夢の中のように私を睨みつけたヨアニス殿下は、その瞳に私を映すと苦しそうな表情で視線を逸らした。
運命のプセマ様を喪った悲しみで混乱しているだけなのかもしれない。
本当に私がプセマ様毒殺の犯人だと思われているのだとしたら、こんな会話をすることもなく捕縛されて投獄されていることだろう。
「とにかく、君がプセマを殺したんだ」
「なぜですか?」
「私を愛しているからだ。プセマを殺して私を取り戻そうとしたんだろう?」
「婚約解消を申し出たのは私からです。……確かに昔、遠い昔に貴方を愛していたことはあります。政略的なものだったとはいえ、婚約者でしたものね。でも、貴方の運命がプセマ様だと気づいたので諦めたのです。私では貴方の運命になれませんもの」
私の言葉が真実かどうか見抜こうとしているかのように、ヨアニス殿下の緑色の瞳が私を射る。
こんなに見つめられるなんて、婚約していたころにもなかった。
殿下の瞳はいつも彼女を追っていた。プセマ様を映していた。彼女が殿下の運命だったのだから、それも仕方のないことだろう。
「……」
しばらく私を見つめていた殿下は、先ほどと同じように苦しそうな表情で顔を背ける。
殿下が見つめたいのは今もプセマ様ひとりなのに違いない。
大切な運命を喪って、殿下はこれからどうなってしまうのか。身を引くと決意したときに捨てたはずの恋心が、少しだけ疼いた。
「父と弟達にも言われたよ。君が犯人のはずがないと。だが、私は君を信じられない。私を愛していなかったとしても、婚約者を奪い取った形になるプセマのことは憎んでいたかもしれない。だから、しばらく監視をつけさせてもらう」
「……わかりました」
卒業パーティの翌日でなく数日経ってから殿下が訪れたのは、国王陛下や弟王子方と話し合っていたからだろう。
いきなり投獄されて処刑されるようなことにはならずにすみそうだ。
ヨアニス殿下が監視だと言って残していったのは、同行していたアカマースだった。殿下はもうひとりの近衛騎士と一緒に帰っていった。
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