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一匹目!

※ダンジョンわんこ日記 七日目

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 ……許さない。吾は絶対にマスターを許さないのだ!

 吾がどんなにお願いしても、マスターはトイレへ行く。
 モンスターとは違うから仕方がないとわかっていても寂しいのだ。
 おまけにときどきすごく長い。どうしてなのだ!

 それでも吾は良いボスモンスターだから、おとなしくマスターがトイレから出てくるのを待っていたのだ。
 マスターの匂いが染みついた洗濯物が入った籠は、吾の唯一の希望だった。
 なのに……マスターは中身を洗ってしまったのだ。

 ゴウンゴウン──

 洗濯機が回る音がする。
 マスターは洗濯籠の中身を吾ごと放り込んだ後で、吾を救出した。
 どこかをぶつけたりしなかったし、ちょっと面白かったけど、それはそれだ。吾はマスターを許さない。

 マスターに顔を見せないよううつ伏せになって、お尻を向けてやるのだ。
 尻尾も振ったりしないのだぞ。
 ……わふ? マスターが、マスターが後ろ足の肉球をぷにぷにし始めた!

 吾の肉球をぷにぷにするマスターの指先は、痛いほど強くなく、くすぐったいほど弱くない絶妙の力加減だった。
 人間がマッサージされるときはこんな気持ちなのだろうか。
 心地良くてなんだか眠くなってくる。……いや! 吾はマスターを許さないのだ!

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 洗濯機が止まったので、外に干しに行くことになった。
 吾は肉球をぷにぷにされたくらいで機嫌を直すほど安いボスモンスターではない。
 マスターのことを許したと思ったら大間違いなのだ。

「うちのアパートの敷地内ならいいんじゃないかしら。タロ君はとても賢いし」
「わふ!」

 大家に褒められたのだ!
 ん。吾はリードなしで暴れるようなボスモンスターではないぞ。
 ……べ、べつに機嫌を直したりなんかしてないのだからな!

「あー、タロくんだ」
「ハルちゃん、おはよう」
「卯月さん、おはよう」
「おはようございます」
「わふー」

 春人と冬人とお隣のマザーだ。
 マスターとお隣のマザーが物干し台に洗濯物を干し始める。
 大家も家庭菜園の世話に戻った。春人と冬人の面倒は吾が見なくては!

「わふわふ♪」
「タロくん、まてまてー」
「ふー、物干しにぶつからないよう気をつけるんだぞ」

 これは群れのボスモンスターとして、春人冬人と遊んでやっているだけなのだ。
 全然上機嫌だったりはしないのだ。
 わふー♪ 今日は良い天気なのだー。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 マスターはせっかくの服を洗濯しちゃうから、これからは吾が管理することにした。
 畳んでいる間に後ろからこっそり引いていった洗濯物の上に座り、吾はネットチャンネルのヒーロードラマを観ていた。オルトロス星人は映画にしか出てこないが、本編のドラマも面白いぞ。
 マスターは諦めて、昨日のマッドゴーレムキングのコアでアイテムコアを作成している。

「あーあ、取り返しのつかないことになっちゃった」
「なにがー?」

 マスターはコアを具現化する最低限の魔力を削除してしまったらしい。
 なにを作りたかったのだ? え? 吾のマント? オルトロス星人みたいなヤツ?
 作って欲しいのだ! コアが足りなければ、ダンジョンで影(シャドウ)を倒すぞ?

「ありがとう。でもMPももうないから、今日は無理だよ」
「……そうなのか」
「わたしのMPはMAXでも100しかないからね」

 この世界は魔法がないので、人間達の魔力が少ない。
 吾は、マスターに頼んで『MP譲渡』の魔法スキルを習得させてもらった。
 吾のMPを譲渡するから、カッコいいマントを作って欲しいのだ!

 そして──

 マスターは素敵なマントを作ってくれた。
 吾と同じ三角の耳とフサフサの尻尾も付いている。
 くれる前にマスターが着て匂いも付けてくれた。オルトロス星人のとはちょっとデザインや色が違うけど、吾にぴったりだから問題ないのだ!

 ……だけど、洗濯物はまんまと奪われてしまった。
 ぐぬぬ。今度は絶対洗濯させたりしないのだ!
 強く心に誓う吾であった。
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