上 下
35 / 127
一匹目!

30・モフモフわんことダンジョン苺

しおりを挟む
 ダンジョンの壁や地面は破壊できないので、苺の種を置いて腕輪に付与した植物魔法を発動した。
 期待に満ちた目で見てくるタロ君に、やる前から無理とは言えなかったのだ。

 あーあ、30MPの無駄遣いだ。
 今日は苺の後でタロ君にシャドウのモンスターコアをもらって、新しいアイテムコアも作成しようと思ってたのに。
 まあいいか。四百人の訪問者ビジターが来てもDPに百日分の余裕もできないことに愕然としたから、変わったことして気分転換したくなっただけだしね。

 わたしから腕輪へと魔力らしきものが移動し、腕輪から種へと放出される。

「……あ、あれっ?」

 小さな苺の種から芽が出て茎が伸びて葉が生えて──

「な、なんで?」
「おおー」

 タロ君が感嘆の声を上げる。
 地面に埋められさえしていない苺の種は、黒い豆柴モードのタロ君と変わらないくらい巨大な実を生み出した。
 一個だけじゃない。ストロベリーポットのときと同じで鈴生りだ。ボス部屋のステージが苺畑になっている。

「なんでこんなに大きく?」
「んー……」

 いつものようにタロ君が目を瞑って確認してくれる。

「ダンジョンの施設がマスターの魔力を増幅したみたいなのだ」
「そ、そっか。ここはわたしのダンジョンだものね」

 期待に満ちた黄金の瞳がわたしを映す。

「……食べていいよ」
「マスターは?」
「わたしはこんなに大きなの食べられないよ。タロ君もオルトロスモードで食べたら?」
「わかったのだ!」

 双頭の黒い巨犬が出現し、嬉しげに苺を食べていく。
 うちのボスモンスターは良い子だから、α症候群にはならないと思う。
 うん、ならないといいなあ。

 わたしは苺畑と化したステージを見回す。
 苺が急激に成長していく姿も鈴生りになった巨大な実も話題になりそうだけど、うん、まあ最初からわかってた通り、一般公開できるようなものではないよね。……DPってどうやって稼げばいいんだろ。
 なんて思っていたら、目の前にスライムが落ちてきた。

「……落ちたりするんだ」

 落ちてきたスライムは白色で淡く発光している。
 大きさはクッションほど。
 タロ君が教えてくれたように花が咲いていた。スライムの半透明の体内で花びらが揺れている。

「モンスターや人間が攻撃しない限りスライムが落ちてきたりはしないのだ」

 片方の頭で巨大な苺を頬張りながら、タロ君が教えてくれる。

 無数に密集しているスライムは怖いが、一体だけなら怖くはなかった。むしろ可愛い。
 ぷるぷるしているスライムに向かって一歩踏み出したら、するっと後退りされる。
 いや、そもそもどっちが前なんだろう?

「じゃあなんで落ちて来たんだろうね」
「マスターに用事があるんじゃないのか?」
「でも近づくと逃げるよ?」
「ゴーストと一緒で、ダンジョンのぬしたるマスターに怯えているのだ」
「名前をつけたら落ち着くってこと? でもスライムは普通のモンスターとは違うんだよね?」
「モンスターもスライムも魔力の結晶であることは変わりないのだ」
「そうなの?……じゃあスラ……ぷる……」

 なにかと被りそうな名前ばかり頭に浮かぶ。……うーん。
 しばらく考えて、わたしは決めた。
 スライムの前? にしゃがんで呼びかける。

「あなたの名前はアジサイよ。アジサイ、わたしになにか用?」

 お花シリーズ続行です。
 スライムは属性ごとに色が違うらしいのでアジサイにしてみました。
 アジサイは、恐る恐るといった様子でわたしに近づいて来る。

(マスター)

 頭の中に念話が響いた。……あら、すごい。
 ゴーストのときは気持ちが伝わって来るだけで、念話で話しかけられたりはしなかった。
 スライムって結構頭が良かったりするのかな。

(私どもの願いを聞いていただけないでしょうか?)
「願いにもよるけどなぁに?」
(私どももこの植物を食してもよろしいでしょうか?)
「……え? 苺が食べたくて、わざわざ落ちてきたの?」
(その通りでございます、マスター)

 わたしはタロ君を見た。

「タロ君、スライム……アジサイ達にも苺あげてもいい?」
「吾はもういっぱい食べたからかまわないのだ」
「じゃあ食べていいけど……」

 頭上の様子を想像して、背筋が冷えるのを感じながらアジサイに告げる。

「全員分には足りないと思うよ?」
(私どもは感覚を共有しています。何体かの親株が食べれば、それぞれに属する子株にも美味しさが伝わります)
「だったらいいよ。ケンカせずに食べてね」
(((マスターの仰せのままに)))

 光る白スライムと風を発する緑スライムが何体かずつ落ちてきて、苺を食べ始める。
 わたしとタロ君は苺畑と化しているステージから降りた。
 口の周りについた苺の汁を舐め取って、タロ君がアクビを漏らす。

「ちょっとお昼寝する?」
「ん。お昼寝するのだ」
「アジサイー、もし可能なら苺の茎や葉も食べちゃっていいからね」
(((マスターの仰せのままに)))

 わたしはオルトロスソファにもたれて眠りに就いた。
 起きたら1000000百万DPくらい稼げてるといいのになあ。
 ……1000000÷7000……ギリギリ百五十日にならない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

神様と妖の静穏化

彩女莉瑠
ファンタジー
 幼い頃から不思議な体験をしている倉田奏は不思議な力を持つ女子高生と出会い、今までにない不思議な1年を体験していく。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

処理中です...