愛は、これから

豆狸

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最終話 愛は、これから

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 すっかり体も回復して、光り輝くフィズィ様のようにとはいかないまでも、私がそれなりに見られる姿になったころに、私とクリサフィス様の婚礼がおこなわれました。
 平民のフォトプロス商会の娘と、同じく平民のフォトプロス商会で働く青年の結婚式です。なのになぜか祖国から大公殿下とそのご家族が出席してくださいました。
 花嫁衣裳の私を見つめて、クリサフィス様がおっしゃいます。

「とても綺麗ですよ、カシア。……一刻も早く式を終えましょう。こんなに美しい君をだれにも見せたくない!」
「お式が終わったら披露宴です。フォトプロス商会の宣伝もしなくてはいけないのですから、私達は最後まで頑張らなくてはいけませんよ」
「……」

 迷子になった仔犬のような目で見つめられましたが、新郎新婦が途中で姿を消すわけにはいきません。
 ふたりで聖王猊下のもとへと歩きながら、そっとクリサフィス様に尋ねます。
 本来は平民同士の婚礼を聖王猊下が取り仕切ってくださるようなことはないのですけれど、私にかけられていたという呪いの件で猊下の対抗派閥だったヴァトラフォス大神官を排除出来たことへのお礼なのだそうです。

「……クリサフィス様。婚礼前にも申し上げましたが、私はまだ貴方をお慕いしているとは言いかねます。家のために嫁ぐようなものでもよろしいのでしょうか」

 参列してくださっていることでもわかるように、クリサフィス様は勘当された今もご実家の大公家と深く結びついていらっしゃいます。
 爵位と祖国での販路を捨てて神聖アゲロス教国で裸一貫からやり直すことにした我が家へ、彼は多大な援助をしてくださいました。
 私が彼に嫁ぐことにしたのは、物静かとはなんだったのかと思うほどに愛の言葉を浴びせてくるクリサフィス様に押し切られたのと、家の将来を考えたからなのです。

「……君の愛は、これからで構いませんよ」

 そう言って笑うクリサフィス様をお慕いしていると言い切ることはまだ出来ません。
 でもすでにかなり心惹かれていることは、これからお伝えしていきましょう。
 そんなわけで私達は、聖王猊下の御名のもとに結婚したのでした。
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