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アリの巣殲滅編

55・スキルアップは難しい。

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 アリの巣殲滅初日を終えて、わたし達は『黄金のケルベロス亭』に帰っていた。
 ……ううん。ベルちゃんとシオン君はここで寝泊まりしてるわけじゃないんだけどね。
 そう勘違いしそうなくらい、ふたりと一緒にいるなあ。

「今日の夕食は冷やしうどんです」

 ふたりのお鍋とわたしとラケルのお皿に、冷やしうどんを作って出す。
 具はネギにツナ、茹でたキャベツにブロッコリー、アボカドとエビの天ぷら。味付けはマヨネーズと出汁じょう油です。
 あ、削ったカツオ節もかけてます。

「パスタより太いな。まるで違う食感で、これも美味い」
「……うん、美味しい」
「コシがあるぞ♪」

 冷やしうどんだけだとふたりは足りないだろうから、稲荷寿司も作ろうか。
 お昼にも食べたから、もういらないかな?
 とか考えていたら、シオン君の視線に気づいた。

「シオン君?」
「シオン、なんでごしゅじん見てるんだ?」
「不躾に見つめてしまってすまない。今日はあれだけの魔石ごはんを用意してもらったというのに相変わらずMPが減っていないし、スキルのレベルも上がっていないので不思議に思ってしまったんだ」

 彼はわたしのことを『鑑定』してたみたい。

「レベルアップってどうやってするの?」
「スキルのレベルアップは難しい。同じことを何度も何度も繰り返すか、今の自分では成功するかわからないような高難易度のことをおこなわなくてはならないんだ」
「ふたりもそうやってレベルアップしたの?」

 ベルちゃんは首を傾げた。

「……『アイテムボックス』は黄金の腕輪ドラウプニル付随だから。私がどうしようとも経年劣化していく。魔術は術式だし」
「シオン君の『鑑定』も聖剣カリバーンからだっけ?」
「俺の場合は聖女とは違うな。与えられたものだから聖剣カリバーンを持っていなくても発動できる」

 そういえば、そうでした。

「じゃあレベルが上がったりもするの?」
「ああ。十五で成人したとき聖剣カリバーンに選ばれて、最初1だったレベルが今では3になっている」
「一年経てば上がるってこと?」
「使わなければダメだ。使用回数によるレベルアップは、これ以上は難しそうだな。なにしろ俺以外に『鑑定』を普段使用できるものがいないから、だれも『鑑定』避けなどしていない。高難易度のことができないからレベルアップするほど経験を積めないんだ」

 床に神聖系魔術強化陣が刻まれた神殿で『鑑定』を受けるときは、最初からその気で行くんだろうしね。

「……葉菜花、お代わり」
「ベルちゃん、稲荷寿司でいい?」
「……ん」
「俺もー!」

 冷やしうどんを食べ終えたベルちゃんとラケルに稲荷寿司を作りながら、シオン君に聞いてみる。

「わたしもなにか難しいことをしてみたらレベルアップできるのかな?」

 『異世界料理再現錬金術』のレベルが上がったら、炊き立てごはんが変成できるようになるといいな。

「理屈ではそうなるが、貴様の場合難しいのではないか?……俺も稲荷寿司。あと巻き寿司を一本切らずにくれ」
「……私も」
「俺はごしゅじんが食べるときに端っこが欲しいぞ」

 ラケル以外は恵方巻きみたいな食べ方をする気らしい。
 今は節分の時期じゃないけれど、節分って元々は季節が変わる前のことだから春と夏の境目のころならおかしくないかもね。
 ふたりにはアナゴ、自分とラケルにはエビとツナの入ったサラダ巻きを変成した。

 今日だけで相当数の魔石ごはんを作ったはずなのに、ダンジョンアントの魔石が減ってる気がしないのはなぜだろう。

「それも美味そうだな。葉菜花のと同じものもくれ」
「……私も食べる」

 シオン君とベルちゃんにサラダ巻きを追加して、さっきの話を蒸し返す。

「わたしの場合は難しいってどういうこと?」
「なにが難しいかわからない」

 シオン君は相変わらず、巻き寿司を一本頬張っても一幅の絵のように整った姿です。

「先日聖女が持ち込んだバッドドラゴンのS級魔石も軽々と変成していただろう? 魔石のランクが高くても大丈夫で、今日のように大量に違うものを変成するのも平気。これまで『異世界料理再現錬金術』を使っていて手こずった経験はあるのか?」
「初めてダンジョンアントの魔石を変成したときは、その前のスライムの魔石との違いに驚いたけど、変成するのが難しいとは思わなかったかな」
「さすが俺のごしゅじんなんだぞ!」
「……葉菜花はすごい」
「ありがとう」

 大事なスキルだし気に入っているけれど、手放しで褒められると照れくさい。
 変成するたびMPの減少を実感するとかなら素直に喜べる気がする。
 でもそんな状態だと、大量の魔石ごはんは作れないかな。

「レベルが1のままだと困ることでもあるのか?」
「そんなことはないよ」

 炊き立てごはんは食べたいが、美味しいものが作れて食べられるんだから現状に不満はない。

「魔石はこの世界の文明の基盤となるものだからな。大量のダンジョンアントのF級魔石で鍋いっぱいのラーメンを作ってくれたように、貴様の力で新しい可能性を見せてもらえるとありがたい」
「……魔石ごはんを作れるだけで素晴らしい」
「えっと、えっと……ごしゅじんはすごいんだぞ!」
「う、うん、ありがとう」

 やっぱりみんなで示し合わせてわたしを褒め殺しにするつもりなんじゃ、と訝しみながらもお礼を言う。

「わたしのほうこそ、いつも助けてもらって感謝してる。シオン君もベルちゃんもラケルもありがとう」
「気にするな」
「……友達、だから」
「俺はごしゅじんの使い魔だからな!」

 頼りになる仲間と一緒に、明日のアリの巣殲滅の食事係も頑張ろうと思います。
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