婚約を破棄したら

豆狸

文字の大きさ
上 下
2 / 11

第二話 家族の反応

しおりを挟む
「ただいま帰りましたわ!」

 今日は王都のロセッティ伯爵邸にお父様がいらっしゃいました。
 一見黒と見紛うほど色の濃い焦げ茶色の髪に、心が安らぐのがわかります。
 この世界が乙女ゲームだったとしてもセリフをスキップしていたので内容はさっぱりわからないという役立たずの前世の記憶持ちですが、前世日本人だったので黒色を見ると落ち着くのです。

「おや、今日は元気だね」
「なにか良いことがあったの?」
「姉上?」

 お母様と五歳の弟は私と同じ金髪です。
 この国の貴族は金髪が多いのです。エルネスト様も金髪でした。髪の色が近いと攻略対象の区別をつけにくいから、この世界は乙女ゲームではないのかもしれません。
 彼のことを思い出したので、私は喜びを爆発させました。

「モレッティ公爵令息に婚約を破棄されましたの!」
「そうか!」
「良かったわね、アリーチェ」
「おめでとうございます、姉上!」

 私が未来の公爵夫人となるために、無理をして刺々しい態度を取り我が儘を言っていたことは家族みんなが知っていました。
 ときどき耐え切れなくなって泣いてしまう私を慰めてくれていました。
 でも本当の自分でいたら、もっと酷いことになっていたでしょう。私は表と裏の顔を使い分けられるほど強くも賢くもありません。刃の鎧の中に隠れて、心を閉ざしていることしか出来なかったのです。

「じゃあアリーチェ。その髪型はやめるんだね?」
「いえ、この髪型はエルネスト様とは関係ありませんわ」

 完全に前世の記憶が蘇ったのは婚約を破棄された瞬間でしたが、たぶん生まれたときからうっすらと残っていたのでしょう。
 エルネスト様の三人の姉君に高位貴族令嬢の洗礼を受けて、強くならなくてはいけないと決意したとき、私が選んだのはこの髪型でした。
 未熟な私はかの女王補佐官のようにはなれませんでした。でもこの髪型を選んだときは、強く凛々しい彼女のようになりたいと願っていたのです。ツンデレになる気はありませんでしたけどね。

 ロセッティ伯爵家は弟が継ぎます。
 私がエルネスト様に見初められてモレッティ公爵家との婚約が結ばれた直後は、両親に新しい子どもを作れという周囲の声がうるさくて大変でした。
 弟が産まれたから良かったものの、中にはお父様に愛妾を作って跡取りを用意しろなんて迫る声もあったのです。お母様はどんなにお心を痛めていたことでしょう。

 公爵夫人にならないのなら気を抜けますし、お父様は今さら私を政略の駒にはしないでしょう。元からそこまで格式高い家ではありませんしね。
 それでも新しい縁談のお相手を支えられるように、強くなる努力だけは忘れないでいたいのです。そう、エルネスト様のためではなく自分のためにこの髪型にしたのですから。
 まあ新しい縁談のお相手に理想を言えるなら、私より年上の方で身分は男爵か一代限りの騎士爵、髪色は黒かそう見えるくらい濃い色、お腹がむっつ以上割れている逞しい男性が良いですね。

 私は細マッチョが好きなのです。
 調合系ゲームで素材を集めに行くときは、いつも物理で殴っていました。
 だって魔法を使うとMPがなくなりますもの。物理攻撃サイコー!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済み】婚約破棄したのはあなたでしょう

水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のマリア・クレイヤは第一王子のマティス・ジェレミーと婚約していた。 しかしある日マティスは「真実の愛に目覚めた」と一方的にマリアとの婚約を破棄した。 マティスの新しい婚約者は庶民の娘のアンリエットだった。 マティスは最初こそ上機嫌だったが、段々とアンリエットは顔こそ良いが、頭は悪くなんの取り柄もないことに気づいていく。 そしてアンリエットに辟易したマティスはマリアとの婚約を結び直そうとする。 しかしマリアは第二王子のロマン・ジェレミーと新しく婚約を結び直していた。 怒り狂ったマティスはマリアに罵詈雑言を投げかける。 そんなマティスに怒ったロマンは国王からの書状を叩きつける。 そこに書かれていた内容にマティスは顔を青ざめさせ……

捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。 彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。 さて、どうなりますでしょうか…… 別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。 突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか? 自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。 私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。 それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。 7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

あなたに恋した私はもういない

梅雨の人
恋愛
僕はある日、一目で君に恋に落ちてしまった。 ずっと僕は君に恋をする。 なのに、君はもう、僕に振り向いてはくれないのだろうか――。 婚約してからあなたに恋をするようになりました。 でも、私は、あなたのことをもう振り返らない――。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

婚約破棄は嘘だった、ですか…?

基本二度寝
恋愛
「君とは婚約破棄をする!」 婚約者ははっきり宣言しました。 「…かしこまりました」 爵位の高い相手から望まれた婚約で、此方には拒否することはできませんでした。 そして、婚約の破棄も拒否はできませんでした。 ※エイプリルフール過ぎてあげるヤツ ※少しだけ続けました

その言葉はそのまま返されたもの

基本二度寝
恋愛
己の人生は既に決まっている。 親の望む令嬢を伴侶に迎え、子を成し、後継者を育てる。 ただそれだけのつまらぬ人生。 ならば、結婚までは好きに過ごしていいだろう?と、思った。 侯爵子息アリストには幼馴染がいる。 幼馴染が、出産に耐えられるほど身体が丈夫であったならアリストは彼女を伴侶にしたかった。 可愛らしく、淑やかな幼馴染が愛おしい。 それが叶うなら子がなくても、と思うのだが、父はそれを認めない。 父の選んだ伯爵令嬢が婚約者になった。 幼馴染のような愛らしさも、優しさもない。 平凡な容姿。口うるさい貴族令嬢。 うんざりだ。 幼馴染はずっと屋敷の中で育てられた為、外の事を知らない。 彼女のために、華やかな舞踏会を見せたかった。 比較的若い者があつまるような、気楽なものならば、多少の粗相も多目に見てもらえるだろう。 アリストは幼馴染のテイラーに己の色のドレスを贈り夜会に出席した。 まさか、自分のエスコートもなしにアリストの婚約者が参加しているとは露ほどにも思わず…。

二人ともに愛している? ふざけているのですか?

ふまさ
恋愛
「きみに、是非とも紹介したい人がいるんだ」  婚約者のデレクにそう言われ、エセルが連れてこられたのは、王都にある街外れ。  馬車の中。エセルの向かい側に座るデレクと、身なりからして平民であろう女性が、そのデレクの横に座る。 「はじめまして。あたしは、ルイザと申します」 「彼女は、小さいころに父親を亡くしていてね。母親も、つい最近亡くなられたそうなんだ。むろん、暮らしに余裕なんかなくて、カフェだけでなく、夜は酒屋でも働いていて」 「それは……大変ですね」  気の毒だとは思う。だが、エセルはまるで話に入り込めずにいた。デレクはこの女性を自分に紹介して、どうしたいのだろう。そこが解決しなければ、いつまで経っても気持ちが追い付けない。    エセルは意を決し、話を断ち切るように口火を切った。 「あの、デレク。わたしに紹介したい人とは、この方なのですよね?」 「そうだよ」 「どうしてわたしに会わせようと思ったのですか?」  うん。  デレクは、姿勢をぴんと正した。 「ぼくときみは、半年後には王立学園を卒業する。それと同時に、結婚することになっているよね?」 「はい」 「結婚すれば、ぼくときみは一緒に暮らすことになる。そこに、彼女を迎えいれたいと思っているんだ」  エセルは「……え?」と、目をまん丸にした。 「迎えいれる、とは……使用人として雇うということですか?」  違うよ。  デレクは笑った。 「いわゆる、愛人として迎えいれたいと思っているんだ」

婚約者は…やはり愚かであった

しゃーりん
恋愛
私、公爵令嬢アリーシャと公爵令息ジョシュアは6歳から婚約している。 素直すぎて疑うことを知らないジョシュアを子供のころから心配し、世話を焼いてきた。 そんなジョシュアがアリーシャの側を離れようとしている。愚かな人物の入れ知恵かな? 結婚が近くなった学園卒業の半年前から怪しい行動をするようになった婚約者を見限るお話です。

処理中です...