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第一話 愛されない花嫁
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私の婚約者は、目映い太陽のような金の髪に夏の森のような緑の瞳──
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ヴィオレッタ、僕が君を愛することはない。大恩あるロンバルディ伯爵の望みだから君と結婚はする。しかし僕に愛されたいなどとは望まないでくれ。そもそも君はロンバルディ伯爵の子どもであるかさえ怪しい人間だ。我がアマート侯爵家へ迎え入れてもらえるだけで感謝するんだな」
十五歳の年に婚約した相手ダミアーニ様が私にそう言ったのは、この国の貴族子女が通う学園の卒業を間近に控えたある日のことでした。
私達は卒業してすぐに結婚する予定です。ロンバルディ伯爵である私の父がそれを望んだのです。
十四歳で父君を喪って以来、我がロンバルディ伯爵家の支援を受けて来たダミアーニ様に断ることは出来ませんでした。
私? ええ、私は何度も嫌だと言いました。
だってダミアーニ様には恋人がいらっしゃるのですもの。下町に住むクリミナーレさんという方です。
私達の婚約が結ばれる直前に夫の後を追うようにお亡くなりになった、彼の母君のメイドだった方の娘だと聞いています。
私がダミアーニ様との結婚を嫌だと言っても、ロンバルディ伯爵は聞いてくださいませんでした。
あの人は私を実の娘だと思っていないのです。
母と私を家から追い出した後で、私だけ迎えに来たりしなければ良かったのに! ロンバルディ伯爵家に伝わる菫色の瞳を持って生まれたにもかかわらず、不貞の娘と罵られながら過ごす日々は地獄でしかありませんでした。
私と同じ菫色のあの人の瞳には、母も私も映っていません。
あの人は母を愛して結婚したのではないのです。
ロンバルディ伯爵家の財政難を救うため母の実家の財力を求めただけなのです。あの人の心は今も、学園時代に愛していた恋人を追い続けているのです。
それでも幼いころは母がいました。私はロンバルディ伯爵家の跡取りとしての誇りを抱き、心優しい方々に支えられて……
いいえ、過去を懐かしんでいてもなにも変わりません。
愛されない花嫁は不幸になるだけです。……母は元気でしょうか。
あの人に連れ戻されてから、母とは一度も会っていません。身勝手な夫と役立たずな娘のことなど忘れて、幸せに暮らしていらっしゃると良いのですが。
愛されない花嫁から生まれた子どもも不幸になります。
ダミアーニ様はあの様子ですから私と子作りをする気はないでしょう。
ですが、本当にロンバルディ伯爵家の血を引いていなかったとしても、私の母は裕福な商家の出なのです。
私を利用してアマート侯爵家への支援を引き出したいと願うものは、絶対に現れます。
ご両親を早くに亡くし若くしてアマート侯爵となったダミアーニ様は、幼いころから仕えてくれている使用人達の言葉を無視し続けることが出来るでしょうか。
なによりロンバルディ伯爵が、私がダミアーニ様の子を産むことを望んでいるのです。
あの人が今も愛し続けている恋人はダミアーニ様の亡き母君なのです。
もう生きて結ばれることは叶わないから、子ども同士を結婚させようとしているのです。
私を不貞の子と罵りながら、私が自分の血を引いていることを確信しているのです。どこまで私や母を莫迦にすれば気が済むのでしょうか。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
学園を卒業して一ヶ月ほど経ちました。
私は結婚式の前日に侍女のジータとともに、王都にあるロンバルディ伯爵邸を抜け出しました。
下町へ行ってクリミナーレさんに会うのです。小舟を借りて王都を流れる川を下って行けば、あまり目立たずに済むでしょう。
彼女との話し合いによっては、だれもが幸せになる道を選べるかもしれません。
アマート侯爵であるダミアーニ様が平民女性のクリミナーレさんと結ばれるのは難しいことです。
でも、もし私が──
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ヴィオレッタ、僕が君を愛することはない。大恩あるロンバルディ伯爵の望みだから君と結婚はする。しかし僕に愛されたいなどとは望まないでくれ。そもそも君はロンバルディ伯爵の子どもであるかさえ怪しい人間だ。我がアマート侯爵家へ迎え入れてもらえるだけで感謝するんだな」
十五歳の年に婚約した相手ダミアーニ様が私にそう言ったのは、この国の貴族子女が通う学園の卒業を間近に控えたある日のことでした。
私達は卒業してすぐに結婚する予定です。ロンバルディ伯爵である私の父がそれを望んだのです。
十四歳で父君を喪って以来、我がロンバルディ伯爵家の支援を受けて来たダミアーニ様に断ることは出来ませんでした。
私? ええ、私は何度も嫌だと言いました。
だってダミアーニ様には恋人がいらっしゃるのですもの。下町に住むクリミナーレさんという方です。
私達の婚約が結ばれる直前に夫の後を追うようにお亡くなりになった、彼の母君のメイドだった方の娘だと聞いています。
私がダミアーニ様との結婚を嫌だと言っても、ロンバルディ伯爵は聞いてくださいませんでした。
あの人は私を実の娘だと思っていないのです。
母と私を家から追い出した後で、私だけ迎えに来たりしなければ良かったのに! ロンバルディ伯爵家に伝わる菫色の瞳を持って生まれたにもかかわらず、不貞の娘と罵られながら過ごす日々は地獄でしかありませんでした。
私と同じ菫色のあの人の瞳には、母も私も映っていません。
あの人は母を愛して結婚したのではないのです。
ロンバルディ伯爵家の財政難を救うため母の実家の財力を求めただけなのです。あの人の心は今も、学園時代に愛していた恋人を追い続けているのです。
それでも幼いころは母がいました。私はロンバルディ伯爵家の跡取りとしての誇りを抱き、心優しい方々に支えられて……
いいえ、過去を懐かしんでいてもなにも変わりません。
愛されない花嫁は不幸になるだけです。……母は元気でしょうか。
あの人に連れ戻されてから、母とは一度も会っていません。身勝手な夫と役立たずな娘のことなど忘れて、幸せに暮らしていらっしゃると良いのですが。
愛されない花嫁から生まれた子どもも不幸になります。
ダミアーニ様はあの様子ですから私と子作りをする気はないでしょう。
ですが、本当にロンバルディ伯爵家の血を引いていなかったとしても、私の母は裕福な商家の出なのです。
私を利用してアマート侯爵家への支援を引き出したいと願うものは、絶対に現れます。
ご両親を早くに亡くし若くしてアマート侯爵となったダミアーニ様は、幼いころから仕えてくれている使用人達の言葉を無視し続けることが出来るでしょうか。
なによりロンバルディ伯爵が、私がダミアーニ様の子を産むことを望んでいるのです。
あの人が今も愛し続けている恋人はダミアーニ様の亡き母君なのです。
もう生きて結ばれることは叶わないから、子ども同士を結婚させようとしているのです。
私を不貞の子と罵りながら、私が自分の血を引いていることを確信しているのです。どこまで私や母を莫迦にすれば気が済むのでしょうか。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
学園を卒業して一ヶ月ほど経ちました。
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下町へ行ってクリミナーレさんに会うのです。小舟を借りて王都を流れる川を下って行けば、あまり目立たずに済むでしょう。
彼女との話し合いによっては、だれもが幸せになる道を選べるかもしれません。
アマート侯爵であるダミアーニ様が平民女性のクリミナーレさんと結ばれるのは難しいことです。
でも、もし私が──
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