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幕間① 皇帝と腹心の前夜
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学園見学の後、王都の料理店(エレノア商会の系列店)で食事をして、バンジャマンとユジェーヌは王宮へ戻って来た。賓客として用意された客室でくつろぐ。
この王国と東の帝国は友好国だ。
魔力濃度が低くて魔法技術に劣り、それでいて魔獣の大暴走の被害は絶えない王国にとって、魔法技術に長けた帝国とのつながりは命綱であった。
「アザール侯爵家のご令嬢、いや、エレノア商会のお嬢さんがお気に召したようだな、ユジェーヌ」
「ええ。あんなにうっとりした瞳で見てくるんですよ。私の一挙一動に反応して……とっても可愛いじゃありませんか」
「そんな女、帝国にも山ほどいるじゃないか」
「それはそうですが」
ユジェーヌの美貌や内面を好ましく思っているのはエレノアだけではない。
むしろ好意を持たれるのが当たり前で、そんな女性にはとっくに飽きて流していたのがユジェーヌだった。
幼いころから側にいた友人の変貌に、バンジャマンは首を傾げる。
「彼女はちょくちょく余所見をしますからねえ」
「ん? まあ仕方がないだろ。自分で言うのもなんだが、俺は魅力的な男だからな」
大仰に溜息をついて、ユジェーヌは言葉を返す。
「陛下だけを見ているのではありません。エレノア嬢は、シュザンヌ嬢に翻弄される陛下を見てお楽しみだったのですよ」
「……翻弄されてなんかない」
「そうですか? 私にはシュザンヌ嬢の言動に一喜一憂しているように見えましたが」
「なんか……善人過ぎて調子が狂うんだよ、シュザンヌは。一方的に婚約破棄されたってのにナタン王太子を恨むようなことも言わないで、子どもみたいな顔して図書室の書棚に夢中になって……ホント、調子狂う」
浅黒い肌をほんのりと赤く染めた主君に、ユジェーヌは苦笑した。
「クリミネラという女についてはどうしますか?」
「だれだ、それ。……ああ、王太子を誘惑したという女か。この国の生まれにしては、異常なほど魔力が強いんだったな」
そこで、バンジャマンは怪訝そうに俯いた。
「誘惑したのか魅了したのか知れないが、今王太子の婚約者であることは間違いない。なんだって俺は、他国の王太子の婚約者を略奪しようなんて考えてたんだ?」
「知りませんよ。正気に戻ったのならなによりです。いざとなったら尻に燭台をぶっ刺してでも止めようと思ってましたから」
「なんで燭台なんだよ」
「他国のお目出度い席に、異国から来た私達が武器を持ち込めるはずないでしょう」
「どうせ隠して持ち込むくせに」
ユジェーヌが暗器使いだと聞いたら、エレノアは狂喜乱舞したことだろう。
丁寧語慇懃無礼の毒舌キャラが暗器を使うって凄く似合ってる、と彼女は思うので。
なにも答えず目を細めたユジェーヌに、バンジャマンは言葉を続ける。
「なんでだろうな? エレノア嬢が応接室で妙な踊りを踊った瞬間に、クリミネラとかいう女を略奪する計画が莫迦らしくなったんだ」
「最初から莫迦だと言っておりましたでしょう」
「だよな」
転生者であるエレノア以外には、DL配布されたアクセサリーは見えていなかった。
もっともエレノアが掴んだ途端実体化したので、それ以降は目にしている。
「ナタン王太子も前会ったときはまともに見えたし、やっぱりそのクリミネラとかいう女、妙な術を使うのかも知れないな」
「陛下に自分を略奪させて、大陸に戦火を放つつもりだったのかもしれませんね。ナタン王太子の婚約者にまで成り上がったのも、王国と帝国の間に亀裂を生じさせるためだったのでしょう」
「どこの国の間者だろうな。……あるいは人知を超えた邪悪な存在か」
大陸には、この王国と帝国以外にも大小さまざまな国々がある。
どの国も一国だけでは生きていけない。国同士のつながりが世界を形作っていた。
王国と帝国が戦争を始めたら、すべての国が巻き込まれていくだろう。
「アザール侯爵家の婿養子が愛人に産ませた娘ということで、生まれも経歴もはっきりしているのですけれどね」
「侯爵家自体の陰謀ということはないのか? エレノア商会が帝国に移転するとか言ってたが、それだって十分火種になりうる大事件だぞ」
「エレノア嬢は愚かな第二王子のせいでこの国に見切りをつけただけだと思いますよ。もしなにかの陰謀に関わっているのだとしたら、私がお仕置きして躾け直しますのでご安心くださいませ」
「……そうか」
家臣にして親友の妖艶にして凶悪な笑みにバンジャマンは、コイツに好かれるのも災難だよな、と心の中で呟いた。
★ ★ ★ ★ ★
「隠しキャラその2のエンド条件は、彼以外すべての攻略対象がエンド可能な好感度であることと、もうひとりの隠しキャラ王太子ナタンのルートに入っていることだったよね。皇帝自身との好感度を上げられるほどのエピソードはないから、ほかの攻略対象の好感度を下げられたら防げるはずなんだけど……うーん……」
そのころ、アクセサリーが実体化したことで攻略対象の好感度リセットが発生していることを知らない私は、分家の屋敷をパイロンに明け渡した後で移動した商会所有の館で、どうやったら異母妹にアクセサリーを触れさせられるのかと思い悩んでいた。
この王国と東の帝国は友好国だ。
魔力濃度が低くて魔法技術に劣り、それでいて魔獣の大暴走の被害は絶えない王国にとって、魔法技術に長けた帝国とのつながりは命綱であった。
「アザール侯爵家のご令嬢、いや、エレノア商会のお嬢さんがお気に召したようだな、ユジェーヌ」
「ええ。あんなにうっとりした瞳で見てくるんですよ。私の一挙一動に反応して……とっても可愛いじゃありませんか」
「そんな女、帝国にも山ほどいるじゃないか」
「それはそうですが」
ユジェーヌの美貌や内面を好ましく思っているのはエレノアだけではない。
むしろ好意を持たれるのが当たり前で、そんな女性にはとっくに飽きて流していたのがユジェーヌだった。
幼いころから側にいた友人の変貌に、バンジャマンは首を傾げる。
「彼女はちょくちょく余所見をしますからねえ」
「ん? まあ仕方がないだろ。自分で言うのもなんだが、俺は魅力的な男だからな」
大仰に溜息をついて、ユジェーヌは言葉を返す。
「陛下だけを見ているのではありません。エレノア嬢は、シュザンヌ嬢に翻弄される陛下を見てお楽しみだったのですよ」
「……翻弄されてなんかない」
「そうですか? 私にはシュザンヌ嬢の言動に一喜一憂しているように見えましたが」
「なんか……善人過ぎて調子が狂うんだよ、シュザンヌは。一方的に婚約破棄されたってのにナタン王太子を恨むようなことも言わないで、子どもみたいな顔して図書室の書棚に夢中になって……ホント、調子狂う」
浅黒い肌をほんのりと赤く染めた主君に、ユジェーヌは苦笑した。
「クリミネラという女についてはどうしますか?」
「だれだ、それ。……ああ、王太子を誘惑したという女か。この国の生まれにしては、異常なほど魔力が強いんだったな」
そこで、バンジャマンは怪訝そうに俯いた。
「誘惑したのか魅了したのか知れないが、今王太子の婚約者であることは間違いない。なんだって俺は、他国の王太子の婚約者を略奪しようなんて考えてたんだ?」
「知りませんよ。正気に戻ったのならなによりです。いざとなったら尻に燭台をぶっ刺してでも止めようと思ってましたから」
「なんで燭台なんだよ」
「他国のお目出度い席に、異国から来た私達が武器を持ち込めるはずないでしょう」
「どうせ隠して持ち込むくせに」
ユジェーヌが暗器使いだと聞いたら、エレノアは狂喜乱舞したことだろう。
丁寧語慇懃無礼の毒舌キャラが暗器を使うって凄く似合ってる、と彼女は思うので。
なにも答えず目を細めたユジェーヌに、バンジャマンは言葉を続ける。
「なんでだろうな? エレノア嬢が応接室で妙な踊りを踊った瞬間に、クリミネラとかいう女を略奪する計画が莫迦らしくなったんだ」
「最初から莫迦だと言っておりましたでしょう」
「だよな」
転生者であるエレノア以外には、DL配布されたアクセサリーは見えていなかった。
もっともエレノアが掴んだ途端実体化したので、それ以降は目にしている。
「ナタン王太子も前会ったときはまともに見えたし、やっぱりそのクリミネラとかいう女、妙な術を使うのかも知れないな」
「陛下に自分を略奪させて、大陸に戦火を放つつもりだったのかもしれませんね。ナタン王太子の婚約者にまで成り上がったのも、王国と帝国の間に亀裂を生じさせるためだったのでしょう」
「どこの国の間者だろうな。……あるいは人知を超えた邪悪な存在か」
大陸には、この王国と帝国以外にも大小さまざまな国々がある。
どの国も一国だけでは生きていけない。国同士のつながりが世界を形作っていた。
王国と帝国が戦争を始めたら、すべての国が巻き込まれていくだろう。
「アザール侯爵家の婿養子が愛人に産ませた娘ということで、生まれも経歴もはっきりしているのですけれどね」
「侯爵家自体の陰謀ということはないのか? エレノア商会が帝国に移転するとか言ってたが、それだって十分火種になりうる大事件だぞ」
「エレノア嬢は愚かな第二王子のせいでこの国に見切りをつけただけだと思いますよ。もしなにかの陰謀に関わっているのだとしたら、私がお仕置きして躾け直しますのでご安心くださいませ」
「……そうか」
家臣にして親友の妖艶にして凶悪な笑みにバンジャマンは、コイツに好かれるのも災難だよな、と心の中で呟いた。
★ ★ ★ ★ ★
「隠しキャラその2のエンド条件は、彼以外すべての攻略対象がエンド可能な好感度であることと、もうひとりの隠しキャラ王太子ナタンのルートに入っていることだったよね。皇帝自身との好感度を上げられるほどのエピソードはないから、ほかの攻略対象の好感度を下げられたら防げるはずなんだけど……うーん……」
そのころ、アクセサリーが実体化したことで攻略対象の好感度リセットが発生していることを知らない私は、分家の屋敷をパイロンに明け渡した後で移動した商会所有の館で、どうやったら異母妹にアクセサリーを触れさせられるのかと思い悩んでいた。
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