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第二話 公爵令息ベンジャミンの訪問
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男爵令嬢グリーディ様が助かったのは、飲んだ毒が微量だったからだそうです。
毒は彼女が直前に飲んだ杯の中に入っていました。
持ってきた給仕はなにも知らないと証言しているし、持っているはずの毒の容器も持っていませんでした。
お茶会に出席していた貴族子女と運営していた王宮の使用人達すべてが近衛騎士団に取り調べを受けましたが、だれも容器を持っていませんでした。
どこかに捨てられてもいなかったそうです。
ああ、男爵令嬢グリーディ様と王太子アンドリュー殿下は取り調べを受けませんでしたけれど、被害者とその恋人が杯に毒を入れるはずがありませんものね。
前の二回のときは、毒杯を持ってきたのは小柄な給仕でした。
一度目は男性で二度目は女性です。
もしかしたら同一人物が変装していたのかもしれません。王宮のだれも知らない人物でした。死神令嬢の私かクラーク侯爵家が雇った暗殺者だったに違いないと噂されています。
あの事件の後、王家から正式に婚約解消の申し出がありました。
三回とも私が有罪であるという証拠は出ませんでした。
ですが殿下の熱弁に、国王陛下と王妃殿下も私を疑っているのでしょう。
今回の私は以前と同じ暗殺者に命じて、昔から王宮に仕えている給仕の運んでいた杯に毒を入れさせたのだそうです。
そんなことが可能なのでしょうか?
面と向かって殿下へ聞いてみたい気持ちはあるものの、実際にそこまでする情熱はありません。
私は学園を休学して王都の侯爵邸で日々を浪費しています。
疑いを晴らすためには登校したほうが良いとわかっています。
でも……私がなにを言っても、近衛騎士団がどんな調査結果を持っていったとしても、殿下にとっては死神令嬢の私が犯人なのです。涙も出てこないのは、やっぱり私があの方に恋をしていなかったからでしょうか。
「キャロルお嬢様、お客様がお見えですがいかがなさいますか?」
「どなたかしら?」
「チェンバレン公爵家のベンジャミン様です」
少し考えて、私は彼と会うことにしました。これが最後かもしれませんもの。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「まったくアンドリューには呆れましたよ! なにひとつ証拠がないのに、貴女が犯人だと決めつけているのですから!」
応接室でお会いしたベンジャミン様は、心が凍りついた私の代わりにか頭から湯気を噴き出しそうなほど怒ってくださっていました。
従兄弟なだけあって、彼は殿下ととてもよく似たお顔をなさっています。
ですが雰囲気はまるで違います。
ほんの数ヶ月だけでも上だからか、普段はとても大人びていらして、どこか艶っぽい雰囲気を放っていらっしゃるのです。まだ婚約者のいない彼は、ご令嬢や未亡人に熱い視線を向けられています。仮初めで良いから恋人になりたいと、望まずにはいられないほど魅力的で謎めいているのだと噂されているのです。
そんなベンジャミン様が感情をむき出しにして私のために怒ってくださっていることが、なんだかとても嬉しく感じました。
「本来ならそうだったのだと思いますわ。婚約者がほかのご令嬢と親しくなさっていたのですもの。でも……私にはあの方々を殺したいと思うほどの嫉妬の炎はなかったのです。むしろそれこそが王太子殿下に対する不敬だったのかもしれません」
「そんなことはありません! 政略的な婚約なのですから、心が伴うのに時間がかかるのは当然のことです。貴女という方がいながら、ほかの女性にうつつを抜かしていたアンドリューのほうに問題があるのです」
一気に言って、ベンジャミン様は前の卓にお出ししていたお茶を飲まれました。
心臓が締め付けられるような気がします。
飲み終わったベンジャミン様が、クラーク侯爵家のお茶は美味しいですね、と笑顔で言ってくださったので胸を撫で下ろします。目の前で人がなにかを飲んでいると、あの三回のようなことが起こるのではないかと思って怖くなるのです。
「……もうお聞きになりましたか?」
急に低い声になられたベンジャミン様に、私は首肯いたしました。
毒は彼女が直前に飲んだ杯の中に入っていました。
持ってきた給仕はなにも知らないと証言しているし、持っているはずの毒の容器も持っていませんでした。
お茶会に出席していた貴族子女と運営していた王宮の使用人達すべてが近衛騎士団に取り調べを受けましたが、だれも容器を持っていませんでした。
どこかに捨てられてもいなかったそうです。
ああ、男爵令嬢グリーディ様と王太子アンドリュー殿下は取り調べを受けませんでしたけれど、被害者とその恋人が杯に毒を入れるはずがありませんものね。
前の二回のときは、毒杯を持ってきたのは小柄な給仕でした。
一度目は男性で二度目は女性です。
もしかしたら同一人物が変装していたのかもしれません。王宮のだれも知らない人物でした。死神令嬢の私かクラーク侯爵家が雇った暗殺者だったに違いないと噂されています。
あの事件の後、王家から正式に婚約解消の申し出がありました。
三回とも私が有罪であるという証拠は出ませんでした。
ですが殿下の熱弁に、国王陛下と王妃殿下も私を疑っているのでしょう。
今回の私は以前と同じ暗殺者に命じて、昔から王宮に仕えている給仕の運んでいた杯に毒を入れさせたのだそうです。
そんなことが可能なのでしょうか?
面と向かって殿下へ聞いてみたい気持ちはあるものの、実際にそこまでする情熱はありません。
私は学園を休学して王都の侯爵邸で日々を浪費しています。
疑いを晴らすためには登校したほうが良いとわかっています。
でも……私がなにを言っても、近衛騎士団がどんな調査結果を持っていったとしても、殿下にとっては死神令嬢の私が犯人なのです。涙も出てこないのは、やっぱり私があの方に恋をしていなかったからでしょうか。
「キャロルお嬢様、お客様がお見えですがいかがなさいますか?」
「どなたかしら?」
「チェンバレン公爵家のベンジャミン様です」
少し考えて、私は彼と会うことにしました。これが最後かもしれませんもの。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「まったくアンドリューには呆れましたよ! なにひとつ証拠がないのに、貴女が犯人だと決めつけているのですから!」
応接室でお会いしたベンジャミン様は、心が凍りついた私の代わりにか頭から湯気を噴き出しそうなほど怒ってくださっていました。
従兄弟なだけあって、彼は殿下ととてもよく似たお顔をなさっています。
ですが雰囲気はまるで違います。
ほんの数ヶ月だけでも上だからか、普段はとても大人びていらして、どこか艶っぽい雰囲気を放っていらっしゃるのです。まだ婚約者のいない彼は、ご令嬢や未亡人に熱い視線を向けられています。仮初めで良いから恋人になりたいと、望まずにはいられないほど魅力的で謎めいているのだと噂されているのです。
そんなベンジャミン様が感情をむき出しにして私のために怒ってくださっていることが、なんだかとても嬉しく感じました。
「本来ならそうだったのだと思いますわ。婚約者がほかのご令嬢と親しくなさっていたのですもの。でも……私にはあの方々を殺したいと思うほどの嫉妬の炎はなかったのです。むしろそれこそが王太子殿下に対する不敬だったのかもしれません」
「そんなことはありません! 政略的な婚約なのですから、心が伴うのに時間がかかるのは当然のことです。貴女という方がいながら、ほかの女性にうつつを抜かしていたアンドリューのほうに問題があるのです」
一気に言って、ベンジャミン様は前の卓にお出ししていたお茶を飲まれました。
心臓が締め付けられるような気がします。
飲み終わったベンジャミン様が、クラーク侯爵家のお茶は美味しいですね、と笑顔で言ってくださったので胸を撫で下ろします。目の前で人がなにかを飲んでいると、あの三回のようなことが起こるのではないかと思って怖くなるのです。
「……もうお聞きになりましたか?」
急に低い声になられたベンジャミン様に、私は首肯いたしました。
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