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第一話 恋敵は『俺』
11・たばかられた!
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──そして土曜日。
招木さんの事務所近くのショッピングモールで、オープンカフェへ向かう。
このカフェはテーブルに番号が振ってある。
映画を観終わってから確認したメールで、招木さんが待っているテーブルの番号が指定されていた。
……十五、十四、十三、ここだ。
パラソルで覆われたテーブルから椅子を引く。
辺りは高齢者や子ども連れの家族でいっぱいだ。
ベッドタウンならではの住民層のせいか、さっきいた『キラーナイト』の上映会場はガラガラだった。
殺し屋の話だからR指定だしね。
ヤング(笑)は東京まで行くんだろうなあ。
わたしも明日はそうしようか。
「お待たせしました! 物販が混んでて……でも招木さんがおっしゃっていた通り、すごく良かったです。俳優忍野薫のクラスがワンランク上がったっていうか……わたし、この後でもう一回観に行くつもりなんですけど、招木さんも……忍野くん?」
前に座っていたのは忍野くんだった。
招木さんの姿は見えない。
「あー、これ。マネから裏川へのメール」
忍野くんは自分のスマホを差し出してきた。
裏川さんに見せてくださいと件名がつけられた、招木さんのメールが表示されている。
──おふたりで話したほうがいいでしょう。
人前なら忍野も見苦しく泣き叫んだりできません。
裏川さんのお望みの関係を伝えてください。
どうしても忍野が食い下がるようなら、ご連絡ください。
こちらで黙らせます。
「お……おう」
思わず唸ってしまう。
確かに忍野くんのマンションのような密室で会話するよりも、こういう場のほうが客観的になれていいか。
この前はいきなりキスされちゃったしね。
「裏川、これ……」
「あ、言ってた高校時代の演劇部の公演DVD? 貸してくれるの?」
「貸すっていうか、やる」
「でもこれマスターDVDでしょ? 内容を記入しているペンが掠れてる。コピーのほうを自分のところに置いているの?」
「いや、俺はひとりじゃ観ないから。……お前が横で、褒めたり腐したり、泣いたり笑ったりしながら観ててくれるんじゃなきゃ自分の演技なんか見返さねぇよ。ナルシストじゃないんだから」
その言葉に呆然とする。
「忍野くん、ナルシストじゃなかったの?」
「違うよ。鏡見る時間が多いのは観客にどう見えてるか確認してるからだ。……あー、この前はいきなり悪かった。それ、お詫びだ」
キスのことを謝っているのだろう。
あの夜届いた数十通のメールでも謝罪してくれていた。
「……うん。あの……」
見つめると、忍野くんは慌てて言葉を続けた。
「交換条件とか出さないから安心しろ。お前に縁を切られても、今度の連ドラがアップするまでは役者も頑張るよ」
「……クランクアップしたら?」
「……わかんねぇ。お前が俺の演技を見て感想を言ってくれるのがなによりの楽しみだったから、それがなくなったらやる気なくなるかもな。って、悪い。脅しとかじゃないから気にしないでくれ。俺にはほかになにもないから、これからも頑張りたいとは思ってる」
「忍野くん……」
やっぱりわたしが想像していたように、ほかの悩みを誤魔化すためにわたしを好きだと思い込もうとしているのかもしれない。
ブログは続けろと言われたことがあるけれど、十三年間のつき合いで、わたしの感想が楽しみだと言われたのはこれが初めてだ。
「それより、さ、『キラーナイト』の感想聞かせてくれよ。言いかけてただろ? 今回の映画が好評ならVシネも第二シーズンに入るから、まだまだ俺は引退できないよ」
「……」
寂しげに笑う忍野くんに、わたしは意を決して口を開いた。
招木さんの事務所近くのショッピングモールで、オープンカフェへ向かう。
このカフェはテーブルに番号が振ってある。
映画を観終わってから確認したメールで、招木さんが待っているテーブルの番号が指定されていた。
……十五、十四、十三、ここだ。
パラソルで覆われたテーブルから椅子を引く。
辺りは高齢者や子ども連れの家族でいっぱいだ。
ベッドタウンならではの住民層のせいか、さっきいた『キラーナイト』の上映会場はガラガラだった。
殺し屋の話だからR指定だしね。
ヤング(笑)は東京まで行くんだろうなあ。
わたしも明日はそうしようか。
「お待たせしました! 物販が混んでて……でも招木さんがおっしゃっていた通り、すごく良かったです。俳優忍野薫のクラスがワンランク上がったっていうか……わたし、この後でもう一回観に行くつもりなんですけど、招木さんも……忍野くん?」
前に座っていたのは忍野くんだった。
招木さんの姿は見えない。
「あー、これ。マネから裏川へのメール」
忍野くんは自分のスマホを差し出してきた。
裏川さんに見せてくださいと件名がつけられた、招木さんのメールが表示されている。
──おふたりで話したほうがいいでしょう。
人前なら忍野も見苦しく泣き叫んだりできません。
裏川さんのお望みの関係を伝えてください。
どうしても忍野が食い下がるようなら、ご連絡ください。
こちらで黙らせます。
「お……おう」
思わず唸ってしまう。
確かに忍野くんのマンションのような密室で会話するよりも、こういう場のほうが客観的になれていいか。
この前はいきなりキスされちゃったしね。
「裏川、これ……」
「あ、言ってた高校時代の演劇部の公演DVD? 貸してくれるの?」
「貸すっていうか、やる」
「でもこれマスターDVDでしょ? 内容を記入しているペンが掠れてる。コピーのほうを自分のところに置いているの?」
「いや、俺はひとりじゃ観ないから。……お前が横で、褒めたり腐したり、泣いたり笑ったりしながら観ててくれるんじゃなきゃ自分の演技なんか見返さねぇよ。ナルシストじゃないんだから」
その言葉に呆然とする。
「忍野くん、ナルシストじゃなかったの?」
「違うよ。鏡見る時間が多いのは観客にどう見えてるか確認してるからだ。……あー、この前はいきなり悪かった。それ、お詫びだ」
キスのことを謝っているのだろう。
あの夜届いた数十通のメールでも謝罪してくれていた。
「……うん。あの……」
見つめると、忍野くんは慌てて言葉を続けた。
「交換条件とか出さないから安心しろ。お前に縁を切られても、今度の連ドラがアップするまでは役者も頑張るよ」
「……クランクアップしたら?」
「……わかんねぇ。お前が俺の演技を見て感想を言ってくれるのがなによりの楽しみだったから、それがなくなったらやる気なくなるかもな。って、悪い。脅しとかじゃないから気にしないでくれ。俺にはほかになにもないから、これからも頑張りたいとは思ってる」
「忍野くん……」
やっぱりわたしが想像していたように、ほかの悩みを誤魔化すためにわたしを好きだと思い込もうとしているのかもしれない。
ブログは続けろと言われたことがあるけれど、十三年間のつき合いで、わたしの感想が楽しみだと言われたのはこれが初めてだ。
「それより、さ、『キラーナイト』の感想聞かせてくれよ。言いかけてただろ? 今回の映画が好評ならVシネも第二シーズンに入るから、まだまだ俺は引退できないよ」
「……」
寂しげに笑う忍野くんに、わたしは意を決して口を開いた。
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